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22 青鈍






 玖麦と翠が気絶をしてから、数日が経った或る日。

『月流道』銀兎。国唯一の銀兎城。王への謁見広場。


『月流、星流、雲流、衣流、文流。五つのそれぞれの道から、おまえの花嫁候補を一人ずつ選んだぞ。これより自ら五つの道を訪れ、花嫁候補と直に会い、誰か一人を選んでくるんだぞ』


 銀と黄。それぞれ細い木の枝と紐を交互に編み込んで作られた御簾の向こう。

 隔てられた場所に居る滅多に会わない国王からの、もしかしたら初めてかもしれない命令に、震えが込み上げる翠は、もう用がないと言わんばかりに姿を消そうとした国王を、初めて呼び止めた。

 

 わかっていた。

 自分の立場で意見など言えやしないことは。

 

 わかっていた。

 遼雅を花嫁にできやしないことは。

 

 わかっていた。

 玖麦と遼雅と旅などできやしないことは。

 

 わかっていたのだ。

 城から出られる立場ではないことは。

 一生死ぬまで城の中で。ごく限られた者としか顔を合わせられないことは。


 わかっていた。のに。


(ん?んん?いや。んんん?)


 翠は己の耳を疑った。

 国王は、何と、言った?

 自ら五つの道を訪れろ。と言った。

 つまり城から出てもいい。

 公に姿を堂々と見せてもいい。

 ということではないのか。


『国王様。わしは。城から出ていいのですか?わしは、影の存在では、ないのですか?』

『おまえもわしの子どもの一人だぞ。故に、城からも出られるぞ。今まではその時期ではなかっただけの話。ただ。わしの子どもなど。おまえにとっては至極迷惑な話だろうがな』


 咄嗟に反論しようとしたが、喉に何か重たいものがつっかえて、叶わなかった。


 本当はもっと。もっと、もっと、もっと。

 話したいのに。聞いてほしいのに。

 本当の親子のように。


 願望が過った途端、動悸がして、冷や汗が一気に背中を濡らした。


 否。

 それは本心か。

 囁く己が確かに居た。


『………乾から聞いたぞ。花嫁を見つけたと。本気で結婚したいのならば、五人の花嫁に了承を得てくるんだぞ。全員から認められたなら、わしは反対しないぞ』


 喉につっかえた重たいものが、急速に喉一帯の水分を吸収。からからに渇いてしまって、言葉を出せなかった。

 何も言えず。

 何も言えないまま、国王が立ち去る足音を聞くことしかできなかった。











(2021.8.6)



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