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3.Play the Game

 学校から行きつけのゲーセンまで徒歩10分。駅から5分の良い立地に存在する平屋の中規模なゲーセンだ。


 フロアの入口側寄りの半分はクレーンゲームとプリクラが、もう半分をビデオゲーム類と音ゲーが占めている。大型筐体は経営上難しいそうだ。戦場の絆なんて、新品ではポッドと呼ばれるコクピット型筐体4台とターミナル1台のセット1500万近かったとか。近年では中古価格が暴落しているみたいだけどスペースの関係上やっぱり無理らしい。


 自動ドアではないガラスの重たい扉を押して中に入ると、冷気がすっと火照った体を冷やしてくれる。まだ6月とはいえ日中はそれなりに熱い。それだけに良く効いた冷房がとても気持ちよく感じる。


 隣を見れば、和人が胸元を開いてぱたぱたと風を送り込んでいた。それやりたいけど、オレがやるとただの痴女なんだよな。


「……なんで冬服で来ちゃったんだろ」

「上着脱げばいいんじゃないか?」

「……透けるんだよ」

「……」


 まじまじと見るなよ……むっつりかコイツ。オレだからいいものの、場合によっては事案発生だぞ。


 今は衣替えの移行期間。夏服でも冬服でも好きな方でオッケーなんだけど、朝はそれなりに寒い。なのでなんとなく冬服にしてしまう。そうすると透けブラ防止のキャミソールを忘れるという。


「まーなんにせよ、ここはオアシスだね」


 エアコンの真ん前に陣取り、鞄を足の間に置いて大きく伸びをする。


 プリクラの前にはうちの高校の、たぶん別のクラスの子たちが4人ほどたむろしている。クレーンゲームの方にも見知った顔の他校のJK3人組がぬいぐるみの救助活動にいそしんでいる。こうしてみると結構女性客も多いし、雰囲気も明るいお店に見える。


 ビデオゲーム類の置いてあるスペースに入ると、照明は暗いし通路は狭いし、奇声発してるモンキーみたいなのも居るし身内煽ってるのも居て、お世辞にも明るい雰囲気とはいえなくなる。


 でもオレはこの雰囲気が好きだ。喧騒とSEの雑音にまみれたこの空間が大好きだ。大人も子供も無く攻略を語り合ったり対戦したり。たしかにガラの悪いヤツらもいる。でも話してみればみんな気のいいヤツらばかりだ。


 ここに入り浸るようになったのは中学に上がってからだ。最初のうちは女の子がお店のこっち側に来るのが珍しかったのか、ずいぶんチヤホヤされた。でもそれは長続きしなかった。


 対戦での接待とか最初の30分で終わった。連勝を積み重ねるオレにガチで挑戦してくる大人げない大人たちがそこに居た。今じゃ常連からは完全にラスボス扱いだし、ミスれば遠慮なく煽られるし、なかなか酷い扱いをされてると思う。


 ここまで打ち解けることができたのは、叔父が店長であることも大きかったと思う。オレがわりと人見知りするタイプなのもあって、話すようになったのは叔父から紹介されてからだったりする。そんなわけで、オレが店長の姪っ子であることは周知の事実だ。


 その叔父といえば、スタッフカウンターの奥でテスト用のコントロールボックスに古そうな基盤を繋いでいた。液晶モニターにはオレンジ色の数字が表示されており、53、52、51とカウントダウンされていっている。


「やあ、響ちゃんに結城くん。いいところに来たね」


 叔父はオレたちに気がつくと手を止めて声をかけてきた。その間もモニターに表示されたカウントダウンはどんどん進んでゆく。


 どこかで見たことあるんだよな、このモニターに映るオレンジ色のPRESENTED BY KONAMIの文字とカウントダウン。


 あ、思い出した。


「これもしかしてバブルシステムですか? 実物の起動画面初めて見るかも」

「さすが。良く知ってるね」

「いやー、動画で見たことありまして。これどうしたんですか?」

「知り合いがやってたお店が閉店しちゃってね。形見分けみたいなものだよ」


 そう言うと叔父はどこか寂しそうな表情をした。


 形見分け……か。今の御時世、やはり個人経営のゲーセンは辛いのだろう。一時期格ゲーやシューティングのメッカとして栄えた店も、次々と店を畳んでしまっている。高騰する基盤代やメンテンス費用。ネットワークを使うものはその使用料まで取られたりする。ものによっては1プレイ30円取られたりするそうだ。


 そうなると1プレイ50円なんていう価格設定はもはや企業努力では成し遂げられるものじゃなくなってくる。このお店は全て1プレイ50円だけど、新作タイトルについてはボランティアでしかないそうだ。


 大丈夫なのかな? さすがにちょっと不安になってきてしまった。


「……ここは大丈夫なんですか?」

「子供がそんなこと気にしなくていいの。大丈夫だよ、黒字だから。っと、動いた動いた」


 モニターに表示されたのは初代グラディウスのタイトル画面。KONAMI 1985の表示からもわかるとおり、今から30年以上も前の作品だ。


「完動品ですか?」


 和人がカウンターに身を乗り出してモニターを覗き込む。


「今テスト中だよ。閉店日まで動いてたってことだしタイトル出たから多分大丈夫だと思うけど、バブルシステムだからね。静電気とかで即アウトだし」


 バブルシステムっていうのはすごい昔にコナミが開発したアーケードゲーム基盤で、その名の通り磁気バブルメモリを使ったカセットでソフトウェアを提供していた。


 磁気バブルメモリは当時としては大容量で省スペースで安価だったらしいけれど、とにかくデータが消えやすい。叔父が言った通り静電気もだめだし、磁石を近づけても死ぬ。ゲームロード中に不慮の電源断でもわりと死ぬ。マンボウかな……?





 叔父がテストプレイを開始してしまったので自販機の前に移動した。ほんとはそのままギャラリーしてたかったんだけど、カウンター前の通路細いから立ち止まってると邪魔になってしまうんで仕方ない。


 見た限りちゃんと動いてるみたいだから、きっと明日には50円2クレのレトロゲームコーナーに入るだろう。そうしたら1週クリアするくらいまではプレイしてみようかな。名曲揃いと名高いBGMがきちんと聞こえるといいんだけど。


 そういやさっきBGM聞こえなかったな。音を出していなかっただけだと思いたい。接続用のハーネスが特殊って話だからそのあたりの問題なのかも。


 あたりを見渡して、何をしようかなと考えてみる。そういや今日ここに来た目的は来週末の大会エントリーのためたっだはずだ。スタッフカウンターの向こうで楽しそうにテストプレイをしている叔父が見えた。仕事しろよと思ったが、よく考えたらあれも仕事だ。さすがに中断させるのは可哀想か。


 ただ時間を潰すのもなんだなあと思い、ちょっとした勝負を提案してみることにした。子供の頃からよくやっているもので、3本先取で勝利、1本毎別のゲームで勝負する、勝った側は負けた側になんでも1つだけ命令できるというものだ。もちろん命令できるといっても常識の範囲内で、だいたいは学食1回おごりとかその程度で済ますのが暗黙の了解となっている。


「せっかくだし、いつものやる?」

「シュークリームのかたきを討たせて貰おう」


 にやりと笑って和人が同意する。


 これで通じるから楽なもんだ。じゃんけんで勝利し先手をゲット。自分が得意なゲームを選べばそれだけ勝率は上がるけど、それじゃ面白くない。


 初戦ということもあるし、やっぱりこれかな。スパ2X対戦台に座り10円を投入。秋葉原のHEYとかもそうだけど10円対戦台多いよねスパ2X。


 鞄の中から薄手の白い手袋を取り出してつける。レバーをワイン持ちするせいか、どうしても中指と薬指の間が肌荒れするもんでそれの対策だ。昔は別に荒れたりしなかったんだけど、この体になってからは気をつけないと酷いことになるんだよ……。


 さて、向かい側の台に和人が座ったのを確認してスタートボタンを押す。こちらのキャラはリュウ。アイツはガイル。このゲームのリュウガイルはほんとに100年遊べるカードだと思う。ほぼ五分五分。突き詰めれば若干リュウ有利だろうか。スーパーコンボゲージがある間は真空波動拳のプレッシャーを盾に強気に立ち回れるし。


 1ラウンド目はリュウの強気の波動拳横押しがうまくいって画面端鳥かごを維持して封殺。


「安易に飛んで落とされて、詐欺飛びから横押しで画面端完封とか負けテンプレすぎる……」

「通れば勝ちだから飛びたくなるのはわかるよ?」


 2ラウンド目はガイル側の波動相殺からの裏拳で体力勝ちした状態で上手く待たれて僅差で負け。開幕ソニック読み大竜巻を普通にサマーされた時点で割りとダメだった気がする。


「ちょっと単調に弾打ちすぎたかも……」

「真空早めに吐いてくれて楽だったわ」


 3ラウンド目はじりじりした地上戦に。近距離でのファイヤー波動でダウンを奪って、詐欺飛びで起き攻めを仕掛けたつもりがリバーサルダブルサマーがまさかの地上フルヒット。詐欺れてない!


 ガイル側の起き攻めの重ねが早すぎてスカったところを画面端に向けて投げ、起き上がりに真空を重ねて中段の鎖骨砕きと見せかけて中足ファイヤー波動でダウンを奪う。残り1ドットになったところを起き上がりに大昇竜重ねで2ドット削って勝ち!


「詐欺飛び難しいね……」

「サマー系発生5フレだから猶予2フレあるけどな」

「やりこみ足りてなかったけど、勝ちは勝ち。次のゲーム選んでてね」


 そもそもやりこんでないけどさ。負けた側が次のゲームを選ぶというルールである。


 さて、和人が次対戦するゲームを選ぶまで、適当にCPU相手にトレモやってますか。





 2戦目はティンクルスタースプライツに決定した。このゲームは世にも珍しい縦スクロール対戦シューティングゲームで、東方夢時空、東方花映塚といった東方シリーズの作品の元ネタになっていたりするらしい。


 のだけど、オレほとんどやったこと無いんだよねこれ。容赦なく勝ちに来やがったよアイツ。結果は言うまでもなく負け。チャージショット、エキストラアタック、ボスアタックの使い分けもわかんないもん。


「ヤリコミミセター」


 棒読みむかつくな! ならばこちらも勝ちに行きますか!





 3戦目はときめきメモリアル対戦ぱずるだまで勝負することに。


 対戦ぱずるだまは、すごく失礼にぶっちゃけると、ぷよぷよという柳の大樹の下に無数に居たドジョウの1匹で、システムもわりとぷよぷよに似ている。


 しかしながらやってみるとこれが完全に別物で、特にお邪魔ブロックの扱い次第で大逆転を狙えるゲーム性になっているところがポイントだ。


 和人はぷよぷよは得意だけど、これは勝手が違うみたい。というか手癖で細かい連鎖組んで送ってきて、お邪魔ブロック交えた14連鎖とかを返されて自爆するかんじ。今回もおおむねそんな予想通りの展開になってこっちが勝利。


「コアラッキーうぜえ」


 わかる。あと和人のキャラ選択間違ってると思う。虹野さんは戦国BASARA Xの筆頭クラスに弱いよ。紐緒さんか伊集院使えばいいのに。





 4戦目は世紀末リズムアクションスポーツゲーム……もとい北斗の拳。2敗して後の無くなった和人が選んだゲームは、一部で神クソゲーと名高いこれであった。


 全キャラに永久コンボがあり、小足が刺さったら即死などと言われているけど、7割くらいは誇張、でも3割くらいは本当。各種ゲージがあって、ミスらなければ10割本当になるから恐ろしい。


 本作固有のシステムであるブーストがその元凶とも言える。ブーストゲージと呼ばれる、3本まで貯められるゲージがあり、これを消費して高速に移動できるブーストを使用出来るのだ。


 ほぼ全ての技をキャンセルしてブースト出来るため、コンボを伸ばしたり、技のスキをキャンセルして逃げたり、唐突に小足が滑ってきたり、ジャンプ攻撃がものすごい角度で突っ込んできたりと、行動に異様な自由度がある。自由すぎてヤバい。


 この、コンボを伸ばすというのが曲者で、後述のバグと合わせてこのゲームがスポーツゲームと呼ばれるゆえんとなった永久コンボ、通称バスケが生み出されてしまったのだ。なんてこったい。


 このゲームにはヒット数を稼ぐと相手の重力加速度が増えてゆく仕様がある。そこまではいい。だが、その増える重力加速度に際限がないのだ。そのため、コンボを伸ばした上である程度の高さからキャラを落とすと、重力加速度が大きくなりすぎて凄まじい速度で地面に激突、結果としてものすごい勢いでキャラがバウンドするという、これを仕様と言っていいか迷う挙動を見せてくれる。どう見てもバグ。


 もうおわかりだろう。バウンドしたキャラに攻撃を当て続けることで永久コンボが成立するのだ。その様子がまるでバスケットボールをしているようであることからバスケと呼ばれるようになったらしい。バスケしようぜ! おまえボールな!


 その他にもツッコミどころ満載な仕様……もといバグが満載されているゲームで、バグを含めたフリーダムな動きが魅力的な神ゲーだ。ただし異論は認める。興味を持った人は、世紀末の腐敗と自由と暴力のまっただなかへ飛び込んでみるのも、意外と悪くないんじゃないかと思う。


 え、死兆星システムとかの説明が無い? 全部説明したら日が暮れるよこのゲーム……。


 それはさておき、使用キャラはオレがレイで和人がトキ。自重せずに最強キャラを選ぶのがオレたちのジャスティス。


 試合は一進一退の攻防を見せた。1-1で迎えた3ラウンド目、ブーストゲージ1本ある状態で小足を引っ掛けてそこからコンボへ。裏周りからドリブルルートへと思ったところで、いつの間にか来てギャラリーしていた常連から掛け声が。


「そこでバグ昇竜!」


 あっと思った時は遅かった。グレ仕込み強昇竜のトベウリャというボイスとともにブーストゲージ150%未満でバグ昇竜テイクオフ。


 レイの強昇竜は通常6ヒット、しかしバグ昇竜は永久にヒットし続ける。しかも放置した場合、タイムアップでも止まらず最終的には筐体を止めるてしまう始末。


 途中で止めるにはブーストでキャンセルする必要があるのだけど、ブーストゲージが149%以下でバグ昇竜を発動した場合、発動時のブーストで50%減るので残り99%以下となり、自然減少で空っぽになる。つまり止めるすべが無くなってしまうわけだ。


 タイムアップを無視して宇宙へと飛び立ったレイをぼーっと見ていたら、叔父がいつの間にか後ろに立っていた。


「響ちゃん、出禁ポイント1ね」

「ちゃうねん……」

「出禁ポイント1ね」


 慈悲は無かった。


 ついでに筐体KOによる反則負け。極めて遺憾である。掛け声に乗せられたとはいえ、なんでバグ昇竜パなしちゃうかなあ。


 壁にかけられた時計に目を向ける。現時点で2勝2敗。次で勝敗が決まるのだけど、もう17時を回っているし、さすがにそろそろ帰らないとまずいかな。でもその前にやることがあったね。


「店長、とりあえず来週末のエントリーさせて」

「いつも通り、俺と響で」

「カウンターに用紙置いてあるから記入しておいて。僕は北斗リセットしておくから」


 筐体のサービスパネルを開いて電源リセットをしている叔父に、小さくごめんと謝ってカウンターへ向かう。


 それにしても余計な出禁ポイントを得てしまった。現在の出禁ポイントは6。10ポイントたまってもほんとに出禁になるわけじゃないけど、ちょっとした罰ゲームが待っている。以前10ポイントためてしまった常連の男子大学生が、店内で1日メイド服で過ごさせられてたっけ。


 ……メイド服か。普通のかわいい服ならいいんだけど、やっぱりまだフリルの沢山ついた、ああいうあざとい服装には抵抗がある。というか生粋の女子でも抵抗あるレベルだろあれ。つーかただのコスプレじゃねーか。なるべく出禁ポイントを貯めないように気をつけなくちゃ。


 エントリーシートに2人で名前を書いた後、帰宅することに。勝負は次の機会に持ち越しだ。





 いつも通り和人に家まで自転車で送って貰って帰宅する。二人乗りの横すわりももう慣れたものだ。3年近くやってるんだから当然か。


 最初の1年は大股開きで座ってみたり、車輪軸に足をかけて立ってみたりいろいろ試したのだけど結局横すわりに落ち着いた。当然と言えば当然の帰結だけどそこには試行錯誤があったのだ。


 ……車輪軸で足を滑らせたとき、尻を荷台に打ち付けるだけで済んだのは運が良かったんじゃないかな。下手すると頭から落ちてたんじゃないかあれ。


 恐ろしい想像を振り払って、よっ、という掛け声とともに荷台から着地する。


「今日もありがと」

「家近いんだから気にすんな」


 まあ実際近いんだけどね。二軒となりが結城家だし。これが隣だったらこれなんてエロゲっていうところだけど。


 ……待てよ、そうなるとヒロインはオレか。封印しなければいけない想像がまた一つ増えてしまったようだ。


 玄関をあけると、ちょうどリビングから出てきた姉と鉢合わせた。姉は高校3年。2歳違いで、オレとは別のもっとレベルの高い高校に通っている。髪も染めてるし化粧も濃い、四則演算も出来なそうなギャルっぽい見た目をしているのに成績は極めて優秀。おかげで両親も文句を言えない、というか言って論破されたところを見てしまった。


「おかえり、響。今日も和人と一緒だったん?」

「……そうだけど」


 ニヤニヤとしながら話しかけてくる姉に、オレは胡乱げな目つきで返してやる。正直あまり喋りたくない。無視したくなるが、無視すると部屋に乗り込んで来て、満足するまでひたすら自分勝手なお喋りに付き合わされるのである程度は仕方ないと割り切っている。


「ふうん。あんたらほんとに付き合ってないの?」


 またか。なんでどいつもこいつもオレと和人をくっつけたがるんだ。


「バカ言わないでよ。男だよアイツは」

「あんたは女じゃん」


 言い返そうとして言葉に詰まり、視線を落とす。ささやかな胸とそれを包む制服のブレザー、プリーツスカートの前で両手で鞄を持っている姿はどう見ても女の子のものだ。


 イラつきに任せて鞄を姉に向けて投げつけるも、難なく受け止められて余計に腹が立つ。そんなオレに姉はおどけた調子で顔を近づけてくる。


「あんなに甲斐甲斐しく尽くしてくれてんのにかわいそー」

「……無理矢理そういう話に持ってかないでよ」


 別に和人は見返りを求めているわけではない筈だ。たしかにいろいろと助けられてはいるけれど、それは友達として善意でやってくれていることで――


「いつまでも宙ぶらりんな関係で居るつもりじゃないでしょうね? 気持ちに気が付かないフリし続けてるの、いい加減見苦しいわ」

「なんだよそれ、わかんないよ!」


 わかりたくない。今までと同じ心地よい関係を続けたいと思うことの何がいけないんだ!


「ほんとになんにもないなら……そのうち誰かにとられちゃうかもね?」

「オレと和人はそんな安っぽい関係じゃねえ!」


 思わず声を荒げると、姉の顔が目の前にあった。


「口調」


 睫毛が触れるような距離。オレは何かに押されるように二、三歩後ずさった。


「もう4年もたつのにまだなおらないの?」

「……まだ4年だよ」

「ふうん」


 何か含むものがあるとき、姉はいつもこの言葉を口にする。見透かされているようで、落ち着かない。


「あんた話す時一人称使わないようにしてるでしょ。まあ興奮すると地が出て来るみたいだけど。いい加減認めたらどうなの?」

「……姉にわかるわけないよ」

「そうだよ。わからないから好き勝手言ってるの」


 そう言うと、姉は満足げに自分の部屋へと立ち去っていった。玄関に残るのはいまだに靴すら脱いでいないオレ一人。


 やっぱりオレは姉、九重(ここのえ) (かなで)が苦手だ。

 世紀末武闘会が楽しみすぎる(*´ω`*)

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