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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
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依頼達成?

伊織が最初に転生した森、シュリウス樹林への道をギリギリ目視出来るか否かという速度で駆け抜けていく影があった。当然のように伊織なのだが。


元々身体強化の加わった脚力に加え、【瞬速(アクセル)】まで併用しているのだ。時速にして150kmは出ているかも知れない。それを初速から出しているのだ、いくら馬車で数時間の場所でも数分程で着いてしまうだろう。


何故最初からそれで町まで行かなかったのか。単純に道が分からなかったと言うのもあるが、この世界の情報を得るいい機会だったというのが本命か。道さえ覚えてしまえば後はこの方法で移動することが出来る。


いくら神様から身体強化を受けているとはいえ、全力ダッシュに瞬速まで使っているのでそう長くは持たないが、この分ならもうそろそろ着きそうだ。前方に樹林の一部が見えだした頃、伊織の魔力も限界に近かった。


どこかで休憩でもすれば、魔力は回復するのだろうか。実を言うとそこまで分かっていないのである。どうせ討伐対象の魔物もフューガルの訓練にしようとしていたし、それも確かめてみることにしよう。


樹林の奥まで入って行くと、少し違和感を感じた。辺りの木に魔物の物であろう血がべっとりと染み付いていたのだ。何故一目で魔物の血か分かったかというと、人間の血が赤に対して、これらは青や緑といった。およそ人のものとは思えない色をしていたからだ。


それだけならば、ただの縄張り争いなんかで片付けられただろう。しかし、血の量がおかしいのだ。明らかに10体分くらいの血が飛び散っている。それに少し焦げたような匂いや、薙ぎ倒された様に倒れた木もある。これをやったのが何なのかは分からないが、ここは用心するに越したことはなさそうだ。


お目当ての討伐対象の魔物は、そこから少し奥の方にいた。ギルドで見せられた図鑑通りならあれで間違いないはずだ。その姿は、一言でいうと一回りサイズの大きい狼だ。元の世界の狼とさほど変わらないが、爪と牙のでかさが次元が違うといっていいほど大きい。まぁ、確かに次元は違うのだが、、、


その狼を5体ほど仕留めれば依頼達成である。しかし、相手は10体ほどの群れで移動している。その中から5体とは、ある意味至難の技だろう。そこで、実験に使ったフューガルの能力をフルに使うための作戦を練る。


ガルフと言うらしい狼達は、ちょうど川岸で水浴びをしている。やるなら今だろう。そこから少し離れた上流で、フューガルを水の中に浸ける。水の中なら、ほぼ無制限に凍らせることが出来るのは既に実験済みだ。


遠目に、足元を氷付けにされて狼狽えるガルフ達の姿が見えた。動けなくなっているのを確認し、フューガルを片手に走り出す。助走の勢いそのままに、手前のガルフの首に向かっておもいっきりフューガルを振りかぶる。咄嗟に首だけ振って避けようとしたようだが、足を固められているためそれでは逃げ切れず首の半分程までパックリといっていた。


それを見ていた周りのガルフ達は、仲間を殺された事への怒りか、はたまた殺されることへの恐怖感からか必死に氷から抜け出そうと足掻いていた。フューガルに付いた血を振って払い、次のガルフの脳天を目掛けて振りかぶる。避けれないと悟ったのか、伊織の足に向かってその鋭い牙を向ける。しかし、一足遅かったか牙が食い込む寸前で伊織の剣は振り下ろされていた。


噴水の様に血を吹き出し倒れるガルフを見ても、何も思わなかった。流石に伊織自身も薄々気づいてはいた。自分がおかしくなっている事に、そう考えつつも次々とガルフ達を仕留めていく。依頼内容の5体とは言わず、群れ全て合計10体も狩っていた。明らかにオーバーキルだ。


ガルフ達の血で出来た血溜りに佇む伊織は、どこか高揚感すら感じられた。


しばらくして、冷静になってきた伊織はもう一度ガルフ達の死体を一瞥した。やはり、何も思わない。普通の精神であるなら、卒倒してしまうような光景だが冷ややかともとれるほど冷静にその光景を見渡す。


それは自分の中で何かが変わってしまった証拠であり、揺るぎない真実であった。それがなんとも悲しかった。暫くして、これがギルドの依頼であると思い出した伊織は、ガルフ達を仕留めた証拠品を採取していく。冒険者は、これをギルドに提出することで自分が何を倒したのかを証明するという。


ガルフを仕留めた証拠品というのは彼らの牙である。2つ一組で合計10本のはずだったのだが、今回伊織が仕留めたのは10体、合計にして20本の牙を持ち帰らなければならない。依頼内容を越えた分は、ギルドが買い取ってくれるらしく、それで冒険者は生計を建てているとか。


数十分後、漸く全ての牙を採取し終え、その場を立ち去ろうとしたとき、不意に近くで魔物の咆哮と悲鳴が聞こえた。また頭の中でデジャヴという単語が浮かんできたが、それを押さえ付けて声のした方に急行する。


そこには、恐らく大型の魔物だろうか。見た目からするとオーガといったところか、その前の木の根元には女性が1人へたりこんでしまっている。このままでは殺されてしまうだろう。


「仕方ない、あまりリスクは犯したくないが。見殺しにもできないしな」

その数瞬後魔物が跳躍し、女性に襲いかかる。しかし、その拳が女性に届くことは無く、そのまま地面に倒れ伏した。


その直前女性は目撃していた。自分に襲いかかろうとしているオーガの首元を掠める群青色の剣筋を…


倒れ伏したオーガの上に降り立ち、剣に付いた血を振り払い納刀するその男の顔をその女性はよく知っていた。しかし、それは伊織も同じであった。


「怪我はないか、って、あれ? お前ひょっとして…」

「い、伊織?もしかして伊織なの?」

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