野宿
山道を麓に向け駆けていく1つの影。
「…早く!…早くこの事を!……領主様に!」
しかし、その影が麓にたどり着く事は無かった。
「…恨むんなら、こんな事を知っちまった自分を恨むんだな…」
所変わってリエル王国王都より東に180km、ウェールズ大聖堂のある商業都市マウントが目視出来るほどの地点。
「今日はここらで休みましょうか」
(どうして人間の指図を受けないといけないのです!目的地はもう目と鼻の先だというのに!)
サラには、まだ人間の格下感は拭えないらしい。
「サ~ラ?そんな言い方して良いのか?」
(うっ…ごめんなさいです…)
「よろしい、それで?どうしてだ綾香」
分かっていない二人の会話を聞いて、綾香はため息を吐いた。
「あんたらねぇ、神龍連れて街に降りたらどうなると思ってるの?」
「あ…それもそうか…」
(…?サラは気にしないのですよ?)
「あなたが気にしなくても、いきなり龍が降りてきたら街の人がパニック起こすでしょうが!いいからとっとと降りる!」
綾香の一言により、サラに降下してもらい手前の山の麓辺りに降ろしてもらった。
人の姿になったサラには、頭を撫でて感謝を伝えておく。サラは頭を撫でられると、えへへ♪とにこやかに頬笑み場を和ませてくれる。
「なんかあれだな。綾香が居れば野宿でも快適になんだな」
「何よその言い方…人をドラ○もんみたいに…」
そう言いながらも、固有魔法を使いテントを作り、火を起こし、3人分のベッドまで作り上げた後だと説得力など皆無だ。
「さて、飯も食ったし今日はもう寝るか」
懐中時計を見ると、既に日を跨いでいた。
「そうね、それにしてもサラに乗せてもらってもまだ着かないってかなり遠いわよね。馬車だと何ヵ月掛かったことか…」
「まぁ、炎龍は代々飛行速度に関しては八柱の中でも一番遅いですからね」
綾香の創ったカップでホットミルクを飲みながらサラが呟く。
「へぇー、そうだったのか。神龍の中だとどいつが一番速いんだ?」
「…清龍ですかね…本当に憎たらしい事ですが…」
あぁ、神龍同士にも好き嫌いはあるのか…凄く苦々しげな顔つきでミルクを飲み干していく。
「それじゃあもう寝ましょうか。サラ、もう伊織のベッドに潜り込んじゃダメだからね!」
「一々言われなくても分かってるのですよ!」
そう、サラが俺のベッドに忍び込んできたのは初めてではない。始まりは病院でのこと、朝起きると、綾香と帰ったはずのサラが隣で寝息を立てていた事から始まった。それ以来それがベッドだろうと木に寄りかかって昼寝をしていた時でも、気付けばサラが隣で寝ていた。
「「「それじゃ、おやすみ(なさいです)」」」




