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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 健次
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旅立ちの刻

体調は万全に近い状態まで戻った。準備もほぼ終わっている。あとは…

「健次さん?食べないんですか?」

シスに告げるタイミングか…


サグワにもその件は伝えてあるが、どうにも難しい様だ。シス自身が、その話になるとアレコレと理由をつけては逃げてしまうため、今までまともに話せていないらしい。

「あぁ、ちょっと考え事をね…」

シスを傷付けずに村を出る考えが浮かばない。その場合の策、というか意見はサグワに聞いたがなるべく実行したくは無いし…


食事を進めながら考え事を続けていると、今度はシスの方の手が止まった。

「健次さん。少し、お話があります」

どこか決心をした様な強い瞳で見詰められる。その時点で、俺は何を言われるかは察した。

「健次さんの旅に私も「ダメだ」……!何でですか…?」

決意を秘めた瞳が捨てられた子犬の様な救いを求めるような物に色を染める。


「君はまだ幼い、もしかしたら行く先々で危険な目に逢うかもしれない。そんな場所に君を連れていくわけにはいかない」

今までシスとの会話では使わないようにしていた冷たい口調に、シスは身体を一瞬ビクッとさせたが、それでも毅然とこちらに目を向けてくる。

「それでも!私は……私は…」

しかし、思うところもあるようで徐々に伏し目がちになっていく。

「フゥ…この話はここまでにしてもう寝よう。もう夜も遅い、この続きは明日しよう」

無理やりこの話し合いを終わらせた。シスは尚も言い募ろうとするが、自分も熱くなっていると悟って、黙って寝室の方へと下がっていった。


俺は、シスの寝室の扉の前で「少し外で頭を冷やしてくる」と言い、その足でサグワのもとを訪れた。


トントン

「サグワ、起きてるか。話がある」

「まだ起きておるよ。それで、話とは()()()かの」

「あぁ、手筈通りに頼む。それと、シスに伝言を頼んで良いか?」

「それぐらい容易い事、…………………………………………なるほど、分かりました。責任をもってシスには伝えておこう」

「それじゃ、頼んだ」

小屋に帰ると、俺はそのまま自分の寝室へと入り、ベッドへと体を放り出した。


「…ホントにこうするしか、なかったのか…?」

呟いた自問自答など、答えてくれる者はいる筈もなく俺はそのまま目を閉じた。



ふと、外に気配を感じ俺は荷物をまとめて小屋を出た。

「…悪かったな。そっちだけに負担掛けちまって」

「なぁに、この程度気にするこたぁ無い。村長命令だし、坊主は俺にとっても気の良いダチだからな」

「あぁ、助かる。世話になったな」

「しみったれた顔すんじゃねぇよ。今生の別れでもあるまいし。またいつか、この村に顔だしに来い。その時は特上の酒を奢ってやる」


そして、俺は村を後にした。





つもりだった。

気配察知に反応あり、目標は前方数メートル先の木の上。

反応からして牙狼族、そして…シスという名の女の子だ。


「驚いたな。付いてきてたのか」

シスは驚いた様子もなく、気付かれることを分かっていたかの様に出てきた。

「やっぱり健次さん相手だと自信なくすよ。これでも私の全力の気配遮断だったんだけどな~」

いつかの時とは違う。シスは本気で隠れようとすれば、気配遮断の腕は村で一番だ。

「俺は言った筈だ。君を連れていくわけにはいかない」

「分かってるよ。()()()…」


気配を感じた俺は、その場から全力で回避した。

「私の本気を、知ってもらおうと思って」

俺の立っていた場所には、複数のクナイが刺さっていた。

「知ってる?亜人族はね?東方の国でシノビとして仕えている人が多いんだよ?」

亜人族がシノビとしての技術に精通していることは知っていた。しかし、シスの年齢でこれ程の技術を持っているとは…

「勘違いしてるようだから先に言っておくけど、私がすこし適正が高かっただけだから、他の子はここまではいかないよ」


「確かに俺は勘違いをしていたな。こうなるんなら説得で話をつけりゃあ良かったよ」

俺は書斎から持ってきた魔導書を手に、構えをとった。


「私からみても健次さんの気配察知は凄いと思うよ、私の遮断を突破するくらいだし……でもね」

シスの姿が視界から消える。次に見えたのは、下から迫ってくるシスの拳だった。

「一瞬の遮断と体術を駆使すれば、そんなの関係ないんだよ」

顎を抑え、ふらつく視界を何とか正し、再び構えをとる。

「へぇ、あれでも倒れないんだ。あんまり傷つけたくないから、さっさと気絶でもしてくれると助かるけど」

シスの目は、俺を捉えたまま動かない。このままではやられる。シスに暴力を振るいたくないからと躊躇っている場合ではない。


「確かに、さっきの攻撃は俺の気配察知じゃ全く分からなかった。だけどな、俺だってただやられる訳にはいかないんだ」

「そうですか。じゃあ……」

またしてもシスの気配が消えた。

「これで最後にします!!」

背後に回っての後頭部への一撃、やはり気絶狙いか。

「予想通りだ」

俺の後頭部にシスの肘が入る瞬間、シスの動きが止まった。正確には、極端に遅くなった。

「【遅延(ディレイ)】、体に纏った状態の練習を見られていなくて良かったよ」

「それじゃ、ゴメンな」

俺はシスの背後に回り、サグワにもしもの時の為にともらった睡眠薬を嗅がせた。


俺の予備のマントを被せ、魔導書の魔物避けの加護をかけその場を離れた。


こうして俺は一人旅へと繰り出した。

これにて第2章 side健次は終了です。節目ということで、今までの話をまとめて刷新しようかと思います。(正確には1~3話ぐらいを1話にまとめるだけ)

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