ジウ
「本当に、すまなかった…」
副団長は頭を下げた。団長を止められなかった自分の心の弱さを悔いて
その彼に俺は何と声をかければ良いのか…謝ってすむ話では無い、それを分かっていながらも彼は筋を通すために無駄になるかも知れないのに頭を下げたんだ。その覚悟に対して中途半端な答えを返すのも失礼な話だ。
「あぁ…確かに謝って済む話じゃあない。あんたに頭を下げられてもこの体が元に戻るわけではないしな。だから……」
彼は頭を下げた状態でもよく分かるほどに肩をビクッと震わせる。これから出る報復の言葉を恐れているのか…だか、残念ながら俺にそんな趣味はない
「交換条件だ。今からする質問に正直に答えてくれ。そうすれば今回の事は水に流そう」
驚いた表情で顔を上げる。そりゃそうだ、自分達の団長がボコボコにした男が何もせずに許すと言ってるようなもんだし
「し、しかしそれでは示しがつかないのでは…」
「別に良いんだよそんなことは、で?質問には答えてくれるのか?一切の嘘偽り無く副団長さん、あんたの本心で答えてくれればいい」
一瞬答えに詰まったが、彼は決心した顔つきで大きく頷いた。
「あぁ!俺に答えられる事であれば全てを話そう!貴方の寛大な御心に感謝する!」
「それじゃとりあえず名前を教えてくれるか?いつまでも副団長さんって呼ぶのも面倒だからな」
「それでは改めて、私の名前はジウ、クウのパーティで副団長をしている」
元々の育ちが良かったのか、そのお辞儀の所作は気品を感じさせる。
「そうか、ジウ。それじゃ質問をさせてもらうぞ。俺が殴られている時、あんた達の団長に違和感を覚えなかったか?」
当時を思い出したのかジウが顔を歪ませる。
「違和感…か。確かにあの時の団長はいつもと違った気がするな、普段はあそこまで相手を追い詰めるようなやり方をする人じゃなかった…それがどうかしたのか」
なるほど、と俺の中で合点がいった。この部屋の書物の中にそんな記述があった筈だ、確か………
「ジウ、そこの本棚の紫色の背表紙の本を取ってくれないか?」
ジウの背後の本棚を指差し、取ってくれないかと頼む。
「これか?この本に何かあるのか?」
「この本に確か…あぁ、あった。この記述に当てはまる事を感じてな、読み上げるぞ。
<魔人の死>
人間や亜人と違い、魔人が死ぬと死体が腐ることはない。その場に留まり続け、近くに悪意を持った者が現れるのを待つという。悪意を持った者が魔人の死体に近づいてしまうと、魔人はその心の隙に入り込み取り憑かれてしまう。取り憑かれてしまった者は狂暴性が増し、時間が経つにつれ魔人へと変貌を遂げてしまう。
どこか共通点を感じないか?」
本から目を外し、ジウに視線を向ける。その目は恐怖に染まっていた。
「だ、団長が、魔人に…」
「こんな言い方で悪いが、幸いだったのはまだ人間である内に死んだことだ。あのまま放っておけば魔人へと成り果て周りの者全てを殺していただろう」
沈黙が訪れたその場には、異様な雰囲気だけが漂っていた。




