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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 健次
42/52

健次

「…………先輩?先輩起きて下さい!」

身体を大きく揺すられる。なんだよ、俺はまだ眠たいんだ。もう少しだけ寝させてくれよ…


「もう!仕事中に居眠りなんて、今日は大事な会議がありましたよね?また部長に怒られますよ?」

…会議?……あぁ、そうか。今日は大事な会議があるんだった。また部長の説教食らうのか……

「起きてるよ、今からの事考えて憂鬱になってたとこだ」

デスクに伏していた身体を伸ばし、大きな欠伸を一つ。あぁ…嫌だなぁ…


「寝不足ですか?先輩が堂々と居眠りなんて珍しいですね」

隣のデスクで書類を作っていた後輩、渡瀬が心配そうな顔を浮かべる。俺そんなに寝不足だったか?

「まぁ、そうだな…会議の書類作成なんていきなり任されて、徹夜続きだったからな…渡瀬も悪いな、俺の仕事なのに付き合わせちゃって」

座ったまま少しストレッチをして、再度パソコンに向き直る。


「別に良いですよ。報酬は仕事が終わってから、ご飯奢ってください」

パソコンから目を逸らさずにそう要求してきた。俺の仕事を手伝ってくれてるんだ、それくらいは当然だろう。

「全く、相変わらずちゃっかりしてんなぁ。良いぞ、ただし!あんま高いとこは行けねぇからな」

これ以上俺の財布が軽くなるのを見過ごす事は出来ない。ここでイタリアンのフルコースにでも連れてってやれる程、俺は生活に余裕があるわけではない。




時刻は21時、既に他の社員は帰った後だ。俺はというと、居眠りの件で部長に呼び出されこってりと絞られてきたとこだ。偶然通り掛かった渡瀬のお蔭で、会議書類を間に合わせる為に根を詰め過ぎていた、と言い訳がたった。あの部長、女性社員には弱いもんなぁ…


自分のデスクに戻り、荷物をまとめる。帰り支度さえ終わってしまえば後は帰って寝るだけだ。

……と、そういうわけにはいかなかった。


「遅かったですね、先輩。待ちくたびれましたよ」

エントランスで渡瀬が待っていた。そういえば、飯奢るって言ってたっけ

「別に今日じゃなくても良かったんじゃないか?明日とかでも…」

「それだと先輩、言い逃げしそうでしたから。なるべく早い内が良いじゃないですか」

渡瀬が笑う。就業中には見せない、まるで花開くような綺麗な笑顔。思わず見惚れてしまう。

「あれ?どうしたんですか?先輩。顔、真っ赤ですよ?」

しくじったな…知らずのうちに渡瀬に見惚れて、顔が赤くなっていたらしい


「いや、何でもない。さっきまで部長にどやされてたからな。あの部屋暖房かけ過ぎなんだよ」

咄嗟に嘘で誤魔化す。実際暑かったしな

「そうですか。ならいいですけど、そろそろ行きましょうか。時間的に急がないとお店閉まっちゃいますよ」

「そうだな、店はいつもの所でいいのか?」

「えぇ、あそこなら金欠でも十分食べれるでしょう」

目的地も決まった所で、俺達は歩き出した。


『もんじゃ焼き 漣』

「へい、らっしゃい」

店の親父の元気の良い声が響く。相変わらず席は大半が埋まっている。

「親父、いつもの頼む」

そう言って、壁際のカウンター席に座る。この店での俺の特等席だ。その隣に渡瀬も腰を下ろす。

「あいよ!今日は渡瀬ちゃんも一緒か、また奢りかい?」

親父が注文を受け、更にからかってきた。いつもの事だから慣れたもんだけど

「今日も、奢りだ。俺の仕事手伝ってくれるのは有り難いが少しは、ボランティア精神を身につけて欲しいなぁ」

チラリと渡瀬を見やる。なに食わぬ顔で、ビール頼んでやがった。ちくしょう!注文までいつも通りかよ!

「はっはっは!そりゃあご贔屓にどうも!お蔭様でうちも大助かりだ!」

親父がカラカラと笑う。そりゃ月に5回以上通ってたら立派に売上貢献してるだろうよ


他の客から注文が入り、親父は俺達から離れていった。この店は開店から30年以上立ってるらしいが、地域に愛され続けて未だに赤字が無いらしい。それが誇りだとも言っていた。確かにここのもんじゃ焼きは旨いし、価格もお手頃だ。それにいつも元気な親父を見てると、こっちまで元気が出てくる気がする。なんだかんだで俺の行き着けだ。


「今日はやけにしんみりしてますね、先輩。何かあったんですか?」

ビールを飲みながら、隣の渡瀬が聞いてくる。

「さぁな、変な夢でも見ちゃったのかもな」

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