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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 健次
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狂人

「おい、変われ」

「へ、へい…わかりやした、団長」

男は自分の持っていた片手剣をシスを羽交い絞めにしている団員に渡すと、自分の左側の腰に差してあった短剣を静かに抜いた。


幾ら【遅延(ディレイ)】を使えても、魔法で大人数を一度で打ち破っても、シスを人質にされてはどうすることもできない。健次はその状況を、自らの唇を食いしばり懸命に堪えようとしていた。

今動いてしまえば奴は本当にシスを殺してしまうかもしれない。冒険者たちが、大事な依頼対象であるシスを殺すはずはないのだが、この時の健次にはその考えは抜け落ちていた。冒険者たちの団長もそれを理解してか、いつの間にか冷や汗すら忘れ、愉悦の笑みを浮かべていた。


どうする!どうする!奴は短剣を持ったままこっちに近づいてくる。迎え撃とうにもシスが捕まっている限りそれすら叶わない!どうする!


健次は必死に考えていた。この状況を打破し、シスを救い出す方法を…

しかしこの状況を一発で切り抜けられる妙案など、そうそう思いつくはずもなく着々と差を詰められていた。


「どうした?もうおしまいか?散々コケにしてくれやがって!俺らがクウの冒険者パーティー!シャーズと知っての愚行か!?あぁ!?」

男の顔に浮かんでいた愉悦の表情は、健次の前に来ると一変した。憤怒に顔を赤くし、人質を取られたことで動けない健次の首筋を目掛け、容赦ない蹴りを叩き込んだ。


「ぐっ…ぁ…」

痛い、痛い、息が止まる。ガードすることさえ奴の気に触れるのを恐れ、そのまま受けた。流石は星の数ほどにいる冒険者の中でも群を抜くと言われるクウの冒険者といったところだ。大した受け身すら取らなかったとはいえ、蹴り一発で26才の肉体を容易に浮かび上がらせた。

体感的に、2~3メートル程蹴り飛ばされ、鎖骨が嫌な音を立て軋んだ。明らかに折れてしまっている。


「こんなもので済むと思うなよ。コケにされた分はたっぷりと利子付けて返さねぇとなぁ!!」

頭を庇い、蹲る健次に更に追撃を加える。時に蹴り、踏み、髪を掴んで立たせては、また殴ってを繰り返していく。

既に健次の意識は無いに等しかった。顔が歪み鼻血、吐血を繰り返し、目は虚ろになっていた。そんなことは関係ないとばかりに尚も暴行は続いた。仕舞いには、起き上がってきた同じパーティーの仲間でさえ、顔を青ざめ、戦意喪失してしまっていた。


しかし、誰も止めることは出来なかった。正気を失った様な狂笑を浮かべ、満足気な表情で意識を失っている相手を何度も殴り付ける自分たちの元リーダーを止めるなど誰に出来るというのか。


気付けば、冒険者達は健次を殴り続ける団長を中心に円陣を組み、剣を握りしめていた。

「こ、こんなの、俺には耐えらんねぇよ…!」

「俺もだ!既に死んじまってるかも知れねぇ相手を殴り続けるなんて正気とは思えねぇ!!」

「良いんだな…お前ら、覚悟は…」

全員が顔を見合わせ、コクりと頷いた。


ふと、顔を上げると仲間がもう起き上がっていた。こんな楽しいこと、仲間達にも教えてやろう。俺達をあれだけ痛めつけてくれたんだ。皆にも少しくらい譲ってやっても良いだろう。

一応、動かないように襟首を片手で掴み、仲間達に向け誘ってみた。


「おぅお前ら。起きてたのか、お前らも来いよ。すげぇ気分が良くなるぜ」

その時俺は気付かなかった。仲間達が敵意を向けているのが、今俺の下に倒れているクソガキじゃなく、仲間達に狂笑を向けていた自分だということに。


「なにしてんだよ、早く来…ゴフッ…ぁえ?」

その時俺が最後に見たのは、自分に群がり剣を突き立てる仲間達の顔だった。


身体中の力が抜ける。もはや痛いのか痛くないのかさえ分からなかった。全身が熱く、冷たく、段々と意識すら朦朧としてきた。俺は死んだのか……仲間に…殺されて…






許さねぇ…許さねぇからな……お前ら絶対に…いつか…この手で……

そして団長だった男は事切れた。

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