獣人の少女
異世界への転移から2週間弱が経った。俺よりも先にこっちに送られたという子達は無事だったんだろうか。顔も名前も知らないが…
俺はというと…
「健次さーん、お夕食の時間ですよ~」
未だに軟禁(?)状態が続いていた。
「分かった、今行くよ」
俺は読んでいた本に栞を挟み、食卓へと向かった。この状況は何も今日に限ったことではない、ここ最近では当たり前になりつつある光景だ。
ことの次第を話すと、俺が村について村長と話した辺りまで逆のぼる。
「そうじゃ、ここに居てもらうと言っても長くなると退屈じゃろう。隣の部屋は書斎となっておるからそこの本でも見ているといい。この世界の事を少しでも思い出せるかもしれんからのぉ」
そう言って村長、サグワは出ていった。
もう二度寝するには、目が冴えてきた。せっかくだし、お言葉に甘えて書斎の本でも読ませて貰おう。決めたことは即実行と、ベッドから起き上がり、隣の部屋へと向かう。
全体的に木造建築のこの家は、どこか懐かしい感じがする…まるで実家のような安心感だ。
書斎には壁一面に本棚があり、暇を潰すにしては多すぎる程の本がぎっしりと詰まっていた。
「こりゃ、当分は読書詰めだな…」
思わず苦笑いを浮かべ、一番上の左端から手を付け始めた。
それから今に至る訳だ。今では本棚の半分ほどの量を読破し、この世界での常識や、種族の分類、その格差までも覚えた。
「また考え事ですか?早く食べないとご飯が覚めちゃいますよ?」
正面の椅子に座っている彼女がニコニコとしながら催促してくる。
「ん…あ、あぁ、いただくよ」
合掌をして、ご飯を頬張る。今日のメニューは煮魚にサラダ、それに白米だ。
「どうですか?どうですか?私精一杯頑張ったんですよ」
褒めて欲しいと言わんばかりに犬のような尻尾をブンブンと振っている。
その微笑ましい光景をみて、ありがとうね、と頭を撫でると、ワフ~、と満足げな声を漏らす。
犬を飼っていなかったから分からないが、アニマルセラピーとはこんなものだろうか。心が癒される。
彼女、シスはこの村に住んでいる獣人の少女だ。栗色の髪の毛に犬の耳、それに尻尾。柴犬そのもの、といった感じだ。こんな可愛い見た目に反して、あの村長の孫娘ときている。全く、世界とは不思議なものだ。
この少女と出会ったのは、この村に着いてから3日ほど経った時の事だ。その日もいつものように書斎の窓際に置かれていたロッキングチェアに座り、読書をしていた。すると外が騒がしくなってきたのだ、それが近所の子を引き連れこの辺りでは珍しい人間を見に来たシスだった。
その後、俺が1人で過ごしているのを可哀想に思ったのかこうして夕飯を作りに来てくれるようになったのだ。
「それよりも、健次さんっていつも本読んでるよね。魔法とか使えるの?」
ようやく満足したのか、シスが椅子に座り直し聞いてきた。
「それはどうかな、俺も使ってみたいとは思ったけど使えるかは分からないからね。ここで魔力の暴走なんて起こしたら洒落にならないしね」
キャベツの様な葉野菜を口に入れながら答えた。
「そっか~、残念。この村に魔法使える人居ないから見れるかもって思ったのに…」
少し頬を膨らませ不機嫌そうになるシスをみて、少し笑いが混み上がってきた。
「フフッ、いつか見せてあげるよ。覚えられたらね」
「本当に!?ヤッター!!」
と、さっきまでの不機嫌が嘘のように満面の笑顔になる。
これは、何としてでも見せてあげたいな。




