目覚め
意識がゆっくりと覚醒していくのが分かる、そして感覚からして恐らくベッドに寝かされているのだろう。久しぶりのふかふかとしたベッドの感触にまたしても睡魔が襲ってくる。
すると、ドアが開く音が聞こえた。
「お目覚めですかな?」
幸せな二度寝の時間を楽しもうとした矢先に声を掛けられ若干寝ぼけた状態で声のした方を見た。
「ふむ、どうやら何の問題も無いようですな。村に入るや否や倒れられたものでな、何か病にでもかかっているのかと思うたのじゃが…」
そこに立っていたのは白髪の、見るからに村長という風格の老人だった。
しかし、どうにも違和感が拭えない。見た目は普通の老人に見える、しかし何か引っ掛かる…
そんな事を考えながら寝ぼけ眼を擦り、観察をしてみた。
服は、着物というか浴衣のような物を着ていた。これは別に普通か、続いて顔を見てみた、皺だらけの厳しさの溢れるような凛々しい顔つきだ。
どこに違和感を覚えるのか…そうして観察を続けていくうちにある一ヶ所に目が釘付けになった。
老人には、人間には無いはずの犬のような立派な耳が立っていたのだ。これぞファンタジーって感じの獣人だったのだ。
「人間にジロジロと見られるのは少し不快ではあるな。それにしても、どうしてこの辺りを彷徨いていたんじゃ。人間にとって蔑む対象である獣人の住む領域に来るというのは死を意味するとは思わなかったのか?」
そう言うと老人の目が殺気を帯びたように鋭くなった。思わず身震いしてしまうと、スッと老人の目から殺気は消えていった。
俺はここで考えた。この老人に事情を話し、この世界の人間ではないと説明するのは簡単だろう。しかし、その後が問題である。果たして信じてくれるのか、そして信じてくれたとして危害を加えられないと断言出来るだろうか、と
そうして出した俺の答えは…
「俺の名前は村田健次、それ以外の事はどうにも思い出せなくてな、気付いたらこの上の鉱山のような所に居たんだ」
記憶喪失という事にした。これならこの世界の事象を知らなくても、おかしくないと判断したからだ。
「そういうことだったか。人間の魔術師には記憶を消す魔法も存在すると聞く、もしや禁忌を犯した魔術師だったりするのかも知れんのぉ。とにかく、しばらくの間この村において健次殿、そなたの自由は無いと思ってくれ。幸いにもこの家は空き家じゃ、この家の中でなら自由にしてよい」
こうして、何とか速攻BAD ENDという事態は免れた訳だ。




