昏倒
いつからだろう、目標もなく、ただ目の前の仕事を片付けるだけの無気力な生活を送り始めたのは…
いつからだろう、家に帰っても何もする気が起きず、コンビニ弁当を食べてベッドに入るだけの生活になったのは…
ふと目を開けると、辺りはもう明るくなりかけていた。
「やべ、いつの間にか寝ちゃってたのか…」
異世界転移というSF感満載の出来事から2日目、魔法の練習に疲れた俺はその場で疲れて寝てしまったようだ。
「夢なんて何年ぶりに見たんだ?内容覚えてないけど」
立ちあがり、服に付いた埃を払う。練習は昨日の時点で終わっていたが、途方もなく大事なことをうっかり見落としていたのだ。
「ヤバい、そろそろ空腹感で倒れそうだ…」
それもそのはず、昨日の朝部屋で食べた弁当以外何も食べていないのだ。昨日はまだ異世界転移という言葉に舞い上がり、空腹感など忘れることが出来ていた。しかし今は違う、1日経ってそのテンションも落ち着いてしまったのだ。
「とりあえずもうこの山を降りよう…じゃないとマジで餓死する…」
空腹に唸る腹を抑え、麓に向かい歩き始めた。
凸凹とした山道を暫く歩いて行くと、整備された街道のような通りに着いた。これはツイてるとばかりに、足早に歩を進める。靴を履いてるとはいえ、山道を歩き続けりゃ足も痛くなる。
更にもう暫く歩いて行くと、今度は分かれ道があった。左の道は下には向かっているが、舗装されていない道が人通りの無さを体現していた。
(確実にこっちに行ったらヤバいな…しょうがない、消去法で右に進むか)
また上り坂になっている右の道を進んでいった。
足がズキズキと痛む…動悸が荒い…こんなことなら普段から運動でもしとくんだった…まぁこんなことになるなんて分かりゃしないんだけどな…
漸く上り坂の頂上までつくと、眼下には小さな村が見てとれた。
やった!やっと飯にありつける!この時はそんな風に年甲斐もなくはしゃいでいた。しかし、村が見えたことによる安堵は一時的な物で、そう長くは続かない。更に言えば今まで健次が歩いていたのは上り坂、上りがあれば下りも在るわけで、ましてや久々の運動による肉体的な疲労はピークに達していた。
それらが意味するのは、意味してしまったのは…
村に入った瞬間にぶっ倒れるという、最悪の事態であった。
(頭の上で村人たちの声がする…顔を打ったのか頬がヒリヒリする…あぁ、ダメだ…意識…が………)




