新たな転移者
これほど今の現代社会に絶望したことはこれまででもなかった。
俺の名前は村田健次、26歳。一昨日、5年も勤めた会社をクビになったばかりの無職だ。自分がミスを犯してクビになったのなら仕方ないとも思える。しかし俺がクビになった理由は人員削減というおよそ平社員には、どうしようもない理由だった。
「これからどうしろってんだよ…」
大卒とは言え3流大学の出身で、しかもこの年でクビになったなど悪印象も良いとこだ。
自室のベッドの上で、途方に暮れていた。
実家に頼ろうにも、決して裕福とは言えない両親に更に迷惑を掛けるような話、中々言い出せる事では無かった。
「いっそ、首でも吊って死ぬか…?」
自暴自棄にまでなりかけていたその時、ソレは起こった。
突如天井に黒い穴が出現し、そこから手が伸びてきたのだ。
「そんな君をご招待しよう♪僕の世界に!」
伸びてきた手に腕を掴まれ、反抗する暇もなく穴のなかに引きずりこまれた。
「な、何だよここ!!」
目を開けると、真っ黒な空間が広がっていた。遂に頭までおかしくなったのか!と自己嫌悪に陥っていると、ソイツは現れた。
「やぁ、村田健次君♪死のうとしていた所に悪いね♪君に死なれると僕が困るからさ」
どうも夢では無いようだ。意識も感覚もハッキリとしているし、この子の言っている事も間違ってはいない、実際に死のうとしていたわけなのだから。
「とりあえず聞きたい、ここは何処なんだ?」
ここが何処かも分からない、ここから出る方法も分からないでは何も出来ない。まずは話を聞かなければ、サラリーマンとしての勘で、それは分かっていた。…もう違うけど
「ふむ、流石に冷静だね。大人は状況把握が早くて助かるよ♪」
「待て、大人は、と言ったのか?俺の前に子供がここに来ているのか?」
「いつかは分かることだけどまぁ、同じ事だろうから先に言っておくね。君にはこことは別の世界に転移してもらう、君の前にも2人、既に転移している」
その2人のどちらか、或いは2人共が子供という訳か、だがそんなことに巻き込まれる謂れは無い。
「ことわ「ここで拒否するなんてつまらないこと、しないでよね?」」
空気がビリビリと震えるようなプレッシャー、なるほど、こんな所に現れた時点でただの子供ではないと思っていたけど、まさか大当たりとはね。
「分かった、どうせ拒否しても返してはくれないんだろう?だったらそうするしか無い」
そう言い肩をすくめる。ここで拒否でもしようもんなら本当に殺されそうだ。
「うん♪話が早くて助かるよ♪それじゃ、早速行こうか」
「そういえば、お前の名前は?」
「あ、まだ名乗って無かったね。僕の名前はフキ、向こうの世界の唯一神だよ」
まさか神様だったとはな…親父、お袋、最後まで親不孝者でゴメン、もし戻ってこれたらいっぱい親孝行するからな
目の前でフキが手を合わせる。すると目の前が光に包まれ、視界が白に染まる。




