退院、そして出発
3日間の入院がようやく終わり、退院の許可が下りた。俺の診察を担当していたキョウ先生曰く、
もうレベルアップによる精神的なダメージも治っているらしいがまだ急激に成長した肉体をコントロールするにはちょっと厳しいそうだ。…別にそんなに変な感じはしないんだけどなぁ…
そうして身支度を整えている現在に至る、と
「綾香ー、俺の靴下ってどこにしまってあるっけ」
「え~っと、確かそこのバッグじゃなかった?」
入院中の身の回りのものは、俺ではなく綾香が管理していた。だからどこに何があるかは俺は把握してない、なんか小学校の時母さんとこのやり取りした気がするわ。
軽いホームシックに浸っていると、横から綾香の罵声を浴びた。
「なにボケーっとしてるのよ!さっさとしないと、病院を出るころにはお昼過ぎてるわよ!」
それは困る、王都を出る前にスクルド達にお礼を言いに行かなきゃだし第一病室をずっと占拠するわけにはいかない。
「わかってるよ。だからこうやって二人で支度してんだろ?」
「魔王様~、どうして人間の服はこうも多いのですか?」
そう聞いてくるのは、現在ベッドの上から両足をたらし、プラプラとさせている見た目10歳ほどの紅色の髪の少女、神龍サラマンドラの人間の姿であり、今日から俺たちと過ごす事になったサラだ。神龍からしたら服を何着も持っているのが疑問なんだろう
「例えばだな?服が汚れたり、破れたりするだろ?」
「それは分かるのですけど、それなら魔法で直せばいいと思うのですよ」
キョトンとした顔でサラが答える。コイツ…素で言っているのか…
「そんな魔法誰もが使えるわけがないだろ?だから別の服を用意しておくんだ」
「本当に人間は不便なのですね」
まぁ、龍と比べりゃそうなるか。
「よし!準備も終わったし出発するとしますか!」
「そうね、結局ウェールズ大聖堂?ってとこに行くの?」
「おう、自分のレベルを知っといて損はないだろ?」
「それじゃ、リュシさん達に出発の挨拶しに行かなきゃね。ちゃんとお礼言いなさいよ?伊織」
なんだろう、この綾香から溢れ出る母親感…
「分かってるって、いろいろと心配掛けちゃったからな、うっしゃ!そうと決まればまずは兵舎だな」
この出発が、また新たな出会いの引き金となることを俺たちはまだ知る由もなかった。




