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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
30/52

暗躍

 リエル王国から西へ200km、そこにはある一つの廃村があった。30年ほど前までは活気に満ち溢れていたこの村も、他種族の侵攻により今は見る影もない。そんなゴーストタウンとなったはずの村に二つ、もう人々の記憶からも忘れ去られているであろうこの村に動く人影があった。


「ご報告いたします、王国戦士長リュシとその他冒険者4名についてですが、神龍の一角サラマンドルとの交戦中に冒険者のうち一名が得体のしれぬ魔法を使用、それを見たサラマンドルが人型へと変貌し、戦闘を中断。その際に何者かにより妨害を受け遠見の魔法が途絶えました」

「ふむ、ご苦労であった。それにしてもその得体のしれぬ魔法を使ったという冒険者が気になるな。どんな魔法を使っていた?」

「はい、遠見では声までは拾えないので見たままの話になりますが、その冒険者が指を鳴らした直後、距離にして4m程の前方に黒い炎が出現、サラマンドルに当たってはいなかったものの地面まで焦がしていたので相当の威力であると推測されます」

「ありがとう、タイラー君。黒い炎か、まるで古の神話でも聞いているかのようだよ」

「それは...唯一神であるフキ様の神話に登場する魔王、クリュウのことですか?」

「さすがは元考古学者、詳しいねぇ。あぁその通りだ、神話上の魔王クリュウは今は亡き固有魔法【消失ロスト】を持っていたという。それも確か黒い炎じゃなかったかな」

「それでは団長は、その【消失ロスト】が現代に蘇った、とでも?」

「ありえない話ではないよねぇ。現に君の固有魔法も当の昔に失われるはずだったものなんだから」

「私の魔法は特別ですからね。それより団長、こんな悠長にしていていいんですか?本部に出頭するよう命令が来てたではありませんか」

「そうだったねぇ。ま、作戦の第一段階である戦士長リュシの死亡は置いといても第二段階である神龍の一角崩しは完了したみたいだし、怒られることはないでしょう」

「どうですかね、帝国軍の幹部である貴方が会議に遅刻などそれだけで怒る理由には十分じゃないですか?」

「それは困るねぇ。それじゃ、愛しい祖国に帰るとしますかね」


初老を超えているであろう男と、若い眼鏡をかけた男はそういって村から消えていった。一見人に見える彼らだが、人とは違うものを持っていた。それは頭のまるでオオカミの様な耳であった。


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