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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
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予想外の強敵

森の奥深く、少し開けた空間にただならぬ緊張感が漂っていた。その中心にいるのは、山賊のリーダー格の男と、相良伊織である。


伊織はフューガルを、リーダー格の男は槍を構え相手の隙を窺っている。と、不意に男が話し掛けてきた。

「俺の名はゴウラ。お前の名は?」

急に名前を聞かれ、え?と戸惑ってしまった。


「戦いの前に名を名乗るのは当たり前だろう。山賊だろうと戦いの礼儀は払うものだ」

この男、ゴウラは山賊をしながらも一度相対したからには礼儀を払うという礼儀正しい男だった。


「あぁ、その通りだな。俺の名前は相良伊織。普通の一般人だ」

「一般人がそんなに強くてたまるかよ、大した皮肉だぜ、まったく」

名乗ったつもりが、皮肉と取られてしまったようだ。


そんなやり取りをした一拍後、ゴウラは一瞬でその場から跳躍し、空中で詠唱を唱え始めた。

「火よ、今ここに起こりて我が害敵を滅せよ。火球」


詠唱を唱え終わった瞬間、ゴウラの頭上から炎の玉が伊織目掛けて降ってきた。

それを身体強化を用いたバックステップで避け、もう一度空中のゴウラがいた方を見ると、そこには既にゴウラの影はなかった。


「遅いぜ、これで終わりだ!」

心臓を狙って突き出してきた槍を身を捩って躱す。強化された動体視力がなければ、死んでいただろう。身体強化による脚力でもう一度間合いをとる。


「どうやらお前には、本気で掛からないとダメみたいだな。見せてやるぜ、俺の固有魔法を」


どうやらゴウラは固有魔法を持っているらしい。それなら逆に好都合だ。【模倣(コピー)】は見れば覚えることが出来る。ここで技の選択肢が増えるのは願ってもないことだ。


「行くぜ、【瞬速(アクセル)】」

その瞬間ゴウラの姿が消え、途端に悪寒が走る。咄嗟に横に跳んで躱すと、さっきまで自分がいた場所を槍が貫いていった。


どうやら【瞬速(アクセル)】とは、自分のスピードを何倍にも上げることが出来るようだ。肩で息をしながら相手の能力を分析していく。


「まさかこれも避けられるとは思わなかったぜ。お前、ただの人間じゃねーな?固有魔法を持っているだろう。どんな能力かは知らねーが、出し惜しみしてっと先に俺が殺しちまうぜ」


そこまで言うなら見せてやろう。さっき見せてくれた固有魔法の【模倣(コピー)】を。

「しょうがないな、俺も出し惜しみなしで行こう。後悔はするなよ」


頭の中でのイメージは出来た。後は実践するだけだ。自分の体が超高速で動く感じに、踏み込む。


頭の中で【瞬速(アクセル)】が模倣(コピー)出来たのが分かってから、技のイメージを作っていた。それにしても、この固有魔法がこれほど早く模倣(コピー)出来るとは思っていなかった。


「お前、さっきから何を考え込んでやがる。俺との勝負は片手間だってか?人を舐めるのも大概にしやがれ!!」

技のイメージを固めるために槍を避けながら考えていたのを、ゴウラは自分を舐めていると取ったようだった。本人にその気がないとはいえ、自分の攻撃を紙一重で避けながら何かを考え込む姿は相手を舐めきっているように見えるだろう。


「そんなことないさ、ただ技のイメージを固めてただけだ。あんたを仕留めるためのな」

「なに?俺を仕留めるだと?おもしれぇこというじゃねぇか。やってみやがれ」

「そうか?そんじゃ、遠慮なく」


言い終わるが早いか、その場から跳躍し、一気に距離を詰めた。フューガルの能力はまだ実践的ではない。よって、鞘に納めたまま構えている。ここはやはり【瞬速(アクセル)】でやる方がいいようだ。


「こんなんで俺を殺せると思ってんのかよ!」

「思ってないさ、だから距離を詰めたんだ」

そして満を持して詠唱を唱える(トリガーを引く)


「【瞬速(アクセル)】!」

シュンッ

「なっ!?」

一瞬にして伊織の姿はゴウラの目の前から消える。この時伊織は、瞬速の状態でもう一度地面を蹴り、宙返りの要領でゴウラの背後に回り込んでいたのだ。


そして、鞘に納めたままのフューガルを勢いそのままに首筋に叩きつける。ゴウラの意識を刈り取るには十分過ぎる一撃だった。


「グァッ!」

ドサッ

念のため、呼吸を確認する。死んではいないが、おそらく数時間は目覚めないだろう。

「ふぅ、【瞬速(アクセル)】の状態ってかなり動きがゆっくりに見えるんだな。これは色々と使えそうだ」


ここで漸く伊織は、彼女等のことを思い出した。

「怪我はありませんでしたか?」

「えっ?あっ、はい。大丈夫です」

いきなり話しかけられて漸く現実に戻ってきたようだ。


「私は、リエル王国第二王女シェリー・リエルと申します。この度は助けてくださり誠にありがとうございました」

なんと貴族だとばかり思っていた彼女は、王族だった。

「いや、いいですよ。偶然通りかかっただけなので」

いくら貴族とばかり思っていたとはいえ助けるか迷っていたなんて言えるわけがなかった。


「いえ、そうはいきません。王族たるもの、恩返しをしないわけにはいきませんから。何でもおっしゃってください」

どうやらこの王女様は、すごく律儀な(めんどくさい)性格の持ち主のようだ。それなら少し要求すれば収まりそうだ。

「それなら、町まで連れていってくれませんか?実はこの森で迷ってしまって、帰れなくなっていたんです」

我ながら大した言い訳だ。


「え?この森はそこまで迷いやすいような地形ではないのですが…」

前言撤回、とんだ墓穴を掘ってしまった。


その後なんと言っても無駄と分かり、仕方なく俺がこの世界の人間ではない事を伝え理解して貰えたのだが、この世界の人にその事を伝えるリスクは計り知れないが…

とにかく、町まで案内してもらえることになった。

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