帰還
「それじゃあ依頼も完了したことだし、帰るとしましょうか~」
ゼフはいつもの間延びした言い方で帰宅を促す。
「それもそうだな。今回は色々と頭を悩ます事が多かったから、兵士業も少し休暇を貰わんと割りに合わん」
リュシは眉間を指で抑えながらそう言った。
「おーい、綾香ー、大丈夫かー?」
未だ全身が硬直状態の綾香は、動くことすら出来ないようだ。目の前で手をフリフリしても、微妙な反応が帰ってくるだけだ。
「なぁ、サラ。この【龍威】って言ったか?どのくらいで解けるんだ?」
事の張本人であるサラであればこの状態を解けるかも知れない、そう考えた伊織はサラに聞いてみた。
「解くだけなら簡単ですよ?」
そう言いサラは、不意に左手でパチンッと指を鳴らした。次の瞬間には、綾香はガクッと体勢を崩し、尻餅をついた。
「はぁ...はぁ...死ぬかと思った...」
綾香の体は、今まで止まっていた刻を急速に進めているかのように冷や汗を流し、肩を震わせていた。
「そもそも、【龍威】は相手を威圧し、死に追いやる事も出来るのですよ。神龍の威圧を耐えきるなど人間には不可能に近いのです」
人差し指を立て、まるで講義でもするかのように説明を始めたサラの話を聞き、改めて止めて良かったと伊織は思った。
「さて、それじゃ山を降りようか。もう日暮れも近いから途中で野宿になるだろうが明日の朝には麓の村まで着くだろう」
荷物をまとめたスクルドが、皆を先導し山を降りようとする。
「ん?そういえばサラ、龍なら空を飛んで麓まで一気にいけるんじゃないか?」
ふと思い付いたアイデアをサラに話す。
「出来ない事はないのです。でも、魔王様以外の人間も乗せなきゃです?」
サラは心底嫌そうな顔をする。なるほど俺は人間だけど魔王クリュウの力を持っているから良いが他の人間はダメ、か
「しょうがない。この手は使いたくなかったけど...」
コレは俺としては本気で嫌なんだが、早く帰るためには仕方ない
「「???」」
「魔王が命じる。我らを乗せ、麓まで飛べ」
「ま、魔王様~、それはズルいのですよ。逆らえないのを知ってる癖に~!!」
サラの全身が光り、元の神龍サラマンドルの姿に戻る。
「おっ、熱の放出も抑えられるのか。凄いなサラ」
そう言ってサラの頭を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じる姿は妹のちっちゃい頃を彷彿とさせる。機嫌の取り方は妹と一緒で良さそうだ。
「まさか神龍に跨がる日が来ようとはな、一人の戦士として光栄の極みだ」
リュシも
「人生何があるか分からないとは言うけどまさか、ここまでの予想外が起こるとはね」
スクルドも
「うぉーっ!すげぇ、龍騎士みてぇだー!!」
ゼフも
「へ~、龍って鱗で硬いイメージだったけど、毛はフサフサで気持ちいい~」
綾香でさえ、目がキラキラしていた。
子供の頃大抵の人は一度は想像した、ドラゴンに乗って空を飛ぶ。それを実現させたのだ、テンションも上がるだろう。
サラが大きな翼を広げ宙に浮く。その浮遊感さえも興奮を煽り、空を飛び麓に着いてもテンションが下がることは無かった。
サラマンドル討伐の依頼達成(?)から2日、俺は王都にある治療院のお世話になっていた。
なぜかというと、あれはサラに麓まで送ってもらった後の事。
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馬車に乗り込み、帰路についていた時だ、急に頭を殴られたような痛みがして俺はそのまま意識を失った。薄れゆく意識の中で聴こえてきたのは、サラと綾香の心配そうに自分を呼ぶ声だった。
幸いだったのは、綾香の【創造】で治療が簡単だったことだ。倒れてから数分後には意識を取り戻したが、身体が言うことを聞かず動くことが出来なかった。それからはリュシがやけに俺の心配をして、急ピッチで王都へと帰ることになった。
行きは5日程掛かった道のりが帰りは3日と半日程度とは、リュシがどれだけ急いだかを物語っていた。王都に着くや否や治療院に連れ込まれ、そのまま診断までされた。そこでこう言われたのだ
「これはレベルアップ、つまり急激な成長の代償みたいなものですね。知っている限りでは今まで倒れる程の痛みを伴う成長なんて聞いたことも無いんですがね」
「へー、この世界にもレベルは存在するのか。っていうか何でレベルが上がったのに頭痛になるんだ?」
「それはね、レベルが上がっても肉体的には成長するが精神には影響しないんだよ。だから急激に成長した肉体に脳の処理が追いつかなくなりエラーが発生する、だから頭痛を起こすんだよ」
「今のレベルがいくつなのか知ることは出来ないのか?」
「自分のレベルを知ることは出来るよ、教会に行って<神の恩恵>を受けたらね。ここからだと、ウェールズ大聖堂が近いかな。でも君は少し安静にしないといけないから3日程ここにいてもらうよ」
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それで2日経った今でもベッドの上という訳だ。休めるのはいいがこうも寝たきりだと体が痛くてしょうがない。




