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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
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RPGでのありがちなパターン

ザザザザザザザザザッ

広大な森の中をまるで動物であるかのように俊敏に駆けていく影があった。その影の正体は、神様からの身体強化を施された相良伊織だ。一歩一歩が軽くそれにに比例するようにしてジャンプ力までも上がっているのだ。


「フキの奴、何が身体強化が微々たるものだよ。明らかに人間離れしてるだろ、コレ」

確かに神様からしたらこの程度の身体強化は微々たるものなのだろう。しかし今の状況を鑑みるに、一般人的には桁外れだし、まさか人生の内で、リアルターザンの様な動きが出来るなど誰が想像できるか。


「まさか身体強化での加減を覚えるだけで二時間も掛かるとはな…」

余りに扱いにくい能力の練習を思いだし、苦笑しながら呟いた。



それからしばらく進んでいたその時、伊織の耳に普段聞き慣れない悲鳴が聞こえた。その声に伊織は昔流行っていたゲームのストーリーが思い浮かんだ。

「何かデジャヴを感じるな~…」

若干このあとの展開を予想しつつ、その声の方向に向かって進路を変えた。



「は~…やっぱりこうなるよね」

その視線の先では、見た感じ貴族の乗っているらしい馬車が山賊らしき集団に襲われていた。


「悲鳴を聞いて駆けつけたら山賊に襲われてたっていつの時代のゲームだよ。もしかして悲鳴ってフラグの1つだったりするのか?」

木の上で1人愚痴りながらその光景を静観していた。本当は助けた方がいいんだろうけど死んだら即終了+相手は曲刀や斧を持った十数人の男達というコンボだ。いくら身体強化の特訓をしたとはいえ、加減出来なかった場合を想像すると容易に手を出せないでいた。


まてよ?あいつらを倒すだけなら身体強化じゃなくて()()の練習に使えるんじゃないか?

伊織の言うアレとは防具の説明を受けたときにフキから教えてもらったことだ。



「そういえば伊織君言い忘れていたんだけど、この世界には魔法が存在する。まぁ一口に魔法といっても実際は二種類あるんだけどね。1つは適性さえあれば誰でも使える詠唱魔法、もう1つは数少ない人間だけが持っている特殊な固有魔力を使って発動する固有魔法。君には固有魔法を付けておいた。これはボクがもっと楽しめるようにチート級にしてた。ズバリ、君の固有魔法は【模倣コピー】だ!!」

ドヤ顔でそう言ったフキに、なに言ってんだこいつ、という視線を送る。


「【模倣(コピー)】がチートってどー言うことよ、要するに他人の真似が出来るってだけだろ」

その言葉に、フキもなに言ってんだこいつ、という視線を返してくる。そしてやれやれと言った感じで説明を始めた。


「確かに模倣(コピー)っていうものはただの猿真似だよ。でもそれが魔力を使った【模倣(コピー)】となると話は別だ。【模倣(コピー)】は相手の全ての動きを完璧に真似る事ができる。それが例え個人特有の武術や魔法でもね。それこそがこの魔法がチート級である所以だよ」



しかし、剣術や武術の心得など皆無な現代っ子の伊織が剣術を覚えるには一度剣を持った敵と相対しなくてはならない。つまり一度経験皆無の状態で矢面に立たなければならないのだ。


が、そこは神様クオリティーちゃんとサポートもしてくれていた。身体強化による肉体の強化に加え、視覚、聴覚、嗅覚、反射速度の強化もしてくれていた。つまり、常人離れした視覚で剣筋を捉え、そこから強化された条件反射と肉体で避ける事が出来るという、ある意味コレもチートなのだが、空気を読んで口に出さなかった。


とりあえず生きていく上でいつかは問題になる経験不足をここで補っておこう。伊織はそう考えたのだ。それと貴族を助けたともなればある程度の補償は出るだろう。今は金もないからそれも優先事項だ。


「とりあえずどうやってあいつらを倒すかなー」

頭をガリガリと掻きながら作戦を立てている伊織をよそに、山賊達は既に馬車に襲いかかろうとしていた。



馬車を取り囲んでいる山賊達は、リーダーらしい男の待てという指示を守り、ネズミ一匹すら逃がさない包囲網を敷いていた。


「今すぐ馬車から降りてこい。そうすれば命だけは助けてやる。ただし、出てこない場合はもちろん皆殺しだ」


リーダーのその言葉とは裏腹に、周りの男達の目は絶対に生かす気がないと断言出来るほどギラギラとしていた。しかし、数秒後その言葉を馬鹿正直に信じたのか、従者らしき数人の男女とドレスに身を包んだ18歳?ほどの女性が降りてきた。


「この馬車に乗っているのはこれで全員です。積んでいる荷物もありません。これで本当に命は助けてくれるのですか?」

主人らしい女性がビクビクと震えながらリーダー格の男に尋ねた。見るからに怯えている。


「いや、出てくるのが少し遅かったな。俺の気が変わってしまったじゃないか。やはり全員殺すことにしよう」

最初からそのつもりだったのが男達のニヤニヤ顔からわかる。しかし、その彼女等は本当に降りてきたら命は助けてくれると信じていたのか、絶望に顔を青ざめさせている。


「さぁお前ら、存分に遊んでやれ」

リーダー格の男の言葉を合図に男達が一斉に飛びかかろうとしたとき、不意に円の外側にいた男が倒れた。


それを見た周りの男が何があったと浮き足立っていると、1人、また1人と外側にいた男達が倒れてくいく。


「何があった!状況を確認しろ!!もし敵なら即座に切り殺しちまえ!!」

リーダー格の男の命令も続々と倒れていく仲間に畏怖してしまっている男達には、聞こえていなかった。


その後も続々と倒れていき、遂にリーダー格の男を含めた数人になってしまっていた。1人も死んでいないにしろ、何があったのかも分からないままに仲間が倒れていく様は、恐怖のどん底に叩き落とすには十分だった。


その場にいた彼女等はその光景を唖然とした表情で眺めながら立ち尽くしていた。無理もない、さっきまで殺されかけていた相手がいきなり倒れていくのだから。


「なんだよ、なんだってんだよ。おい、誰だ、姿を見せやがれ」

リーダー格の男の焦りに満ちた言葉に反応したように、近くの木の枝からガサッと音がして、男が1人飛び降りてきた。


「このぐらいの人数なら、練習台には丁度いいかな」


もちろん伊織である。そして降りてきた時に呟いた言葉をリーダー格の男は聞き逃さなかった。


「れ、練習台だと、てめぇふざけてんじゃねぇぞ!そんなことで俺らを襲ったってのかよ!」

その言葉通り伊織は、一連の急襲の張本人である。どうやって誰にも気付かれず襲っていたか、答えは簡単である。地面の小石を集め、木の上から投球の要領でヒットさせていただけだ。


「まぁ、流石にあの数捌けとか無理があるからな。少し数を減らさせてもらったよ」


伊織のある意味挑発とも取れる説明を受け、男達は額に青筋をピクピクと浮かべ、自分の持っている武器を握りしめた。


「調子にのってんじゃねぇぞガキがー!!!」

リーダー格の男の怒声と同時に男達が一斉に襲いかかってきた。

相手の数は7人、それぞれが1つ武器を持っている。斧や曲刀、長刀なんかもいる。が、リーダー格の男だけは槍を持っていた。


最初に二人が斬りかかってきた。どちらも曲刀を手にしている。流石山賊と言うべきか、全員微塵の隙もない。上段に斬りかかって来るのを、屈んで避け、予想外の空振りでよろついた男達にそのままの勢いでマンガで見たような足払いを放つ、見よう見まねでもどうにかなるようで、男達は顔から眼前の木に突っ込んだ。


いつの間にか周りを取り囲んでいた山賊達に、俺がやると指示をだし、リーダー格の男が出てきた。槍を下段に構えた形で伊織と対峙する。


「よくも仲間をやってくれたなガキが、お前にはたっぷりと礼をしなくちゃならねぇな。生きて帰れると思うなよ」


先程の怒声と打って変わって至極冷静な殺意をもって語りかけてくる。その表情から伊織は、少し集中して戦闘に望もうとしていた。

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