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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
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伊織の新しい日常

綾香の機嫌が戻ったのは決闘から翌日のことだった。といっても交換条件付きだったのだが…


「明日買い物に行きたいから付き合ってよ」

ぶっきらぼうではあったが、あれから一言も喋ってくれなかった伊織にとっては、転機に他なら無かった。


そして買い物当日、ギルド近くの広場で待ち合わせることになり、待ち合わせ時間の10分前には伊織は到着することができた。


「あれ、ごめん。私遅れた?」

それから5分後綾香も来たが、自分より早く来ていた伊織を見て遅刻したのかと心配になっていた。


「いや?全然時間あるけど、てか自分の時計で確認できるだろ」

「あ、そっか」

綾香の魔法により造り出した懐中時計を指さしながら指摘する。

実はあの後伊織の分も造ってもらっていたのだ。


「それじゃ、行くか」

「あ、うん♪」

昨日までの不機嫌が嘘のようにご機嫌なようだ。そんなに買い物が楽しみだったのだろうか。男にはあまり分からないもんだな。


「それで?まずどこに行くんだ?」

「え?知らないよ?」

「は?」

「私この町来たばっかだもん。伊織が案内してよ」

まさかのノープランだった。


「ったく、しゃーねぇーなー。とりあえず服屋でも行くか?」

「うん♪」


そこから二人で他愛ないやり取りをしながら目的の服屋までたどり着いた。


「ここ?」

「そ、最初にギルドで貰った地図に書いてあった服屋。名前は確か『冬月』だったっけか?」

「え、えらく和風な名前ね。どんな服が置いてあるの?」

「知らね」

「え?」

「だって俺も始めてくるもん。知るわけ無いじゃん」

「はあ、とにかく入ってみましょう。まずはそれからね」


中に入ってみると、以外と普通の洋服店だった。元の世界のユ◯クロのようだ。あの神様所々適当すぎだろ…


「あ、これなんかいいんじゃない?う~ん、こっちの方が良いかな~」

伊織は今、着せ替え人形の如く綾香にコーディネートされていた。

「なぁ、もういいだろ?別に俺の服はあるからいいじゃん」


「服はあるって、伊織その一着しか持ってないじゃない。いくら魔法で洗ってすぐ乾かせるからっていくらなんでもそれはダメ」

別に着れればいい気はするが、元々綾香の機嫌を直す為の買い物だ。この程度は我慢するしかないのだ。


「あ、次はあっちも見てみよっと♪」

まだ終わる気配のない買い物に、伊織はそっとため息をついた。


数十分後、漸く満足したのか数着程服を買い、『冬月』を後にする。


「次はどこに行く?」

「そーねー、ちょっとお腹が空いたかな?」

「了解、じゃあ飯だな」

次は昼食のようだ。そういえばギルドの食堂以外でこの町の飲食店には行ったことが無かったな。これを機に新規開拓といくか。


向かったのは、大広場の近くにある大衆食堂だ。値段も安く、量が多いため冒険者達の安息地となっているらしい。なぜ憩いの場ではなく安息地なのかは知らないが、味は期待していいだろう。


一応店の前には着いたが、中々入れずにいた。

「おいおい、いくら冒険者達が集まるって言ってもここまでかよ…」

その視線の先の光景は、テーブルいっぱいどころか店いっぱいの冒険者達だった。


だが妙なことに男達は一点を見つめ、デレーッとした顔で鼻の下を伸ばしている。その男たちの形相に綾香は気味が悪そうにしていたが、伊織はその視線の先が気になった。


そして理解した。なぜ冒険者達の憩いの場ではなく、安息地なのかを。男達の視線の先に居たのは一人の女性ウエイトレスだった。それもとても可愛い。


そりゃあ出会いの欠片も感じさせない冒険者という生業としている以上、女性が特別魅力的に感じるだろう。でも流石に四、五十はいってそうな冒険者が、見た感じ二十歳程の女性を眺めながらデレーッとするのは少し犯罪性を感じさせる光景だ。


その女性ウエイトレスの事に綾香も気づいたようで、なんとなく同情の目というか、憐れみの目を向けている。あっちも気がついたようで、伊織達の方に駆け寄ってくる。


「申し訳ありません。ただいま全席満員となっておりまして、ご注文をとることが出来なくなっていまして」

「いや、これだけ客がいたら仕方ないでしょう。なんというか、頑張ってください」


それだけ言うと店を後にする。端から見ると冷やかしの様だが心からの労いのつもりだった。ふと隣を見ると何故か綾香が不機嫌な顔つきになっていた。


「良かったわね、可愛い女の人と喋れて」

何故そんな皮肉を言われているのか分からない伊織は、これまた天然ジゴロを発動する。

「そうか?綾香も十分可愛いから今更だろ」


「んなっ、だからあんたはなんでそういうことをさらっと言ってくるのよ」

綾香の顔がりんごのように赤くなる。

「………可愛いとか…」


「ん?何か言った?」

その光景を見ていた回りの人達の心の声がこの時完全に一致した。つまり

(爆ぜやがれっ!!!!)


その後、別の飲食店に入って昼食をとり、ギルドの自室に帰った綾香が可愛いという言葉を反芻し布団のなかで見悶えるのだがそれはまた別の話。

読んでくださりありがとうございます。

新しく連載始めようと思います。ジャンルはガラッと変えるのでもしよければ暇潰し等で読んでみてください。

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