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神様、俺の日常を返してください  作者: 夜十奏多
side 伊織
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絶体絶命

砂ぼこりが完全に晴れ、ドラゴンの全体像が露わになる。その大きさは、一戸建ての住宅程はあるだろうか。詳しい大きさを推測する暇はない。


ドラゴンは既に体勢を立て直し、伊織達にその鋭い眼光を向けている。ただ見られているというのがこれほど恐怖を煽ることがあるのかと、嘆きたくなってくる程だ。


「どうするの?伊織」

綾香が心配そうにこちらを見る。逃げようにもあの翼の大きさを見るに、簡単に追いつかれてしまうだろう。ここは出来る限りの時間稼ぎをして綾香を逃がすのが先決か。


「綾香、お前が先に逃げるんだ。俺が時間を稼いでるうちにこの樹林から出るんだ」

綾香を降ろし、早口でそう伝える。

「な、嫌よ!それじゃ伊織が!」


綾香の言いたいことは分かる。戦力差など一目瞭然だからだ。

「だから言ってるんだ。アイツを倒す気はない、時間を稼ぐだけだ。それは俺の仕事だ」


「…わかった。絶対、死なないで」

そう言い残し綾香はドラゴンと反対方向に走り出す。それをドラゴンが許すはずはなく、口から火球を放ち綾香を攻撃するがそれが届くことはなかった。


放たれる火球の全てをフューガルを握りしめた伊織によって掻き消されているからだ。フューガルの能力は氷を操ることが出来る。炎を掻き消すなどわけないのだ。


「さぁ、力比べと行こうぜ!!」

火球を掻き消された事に腹をたてているのか、目標を伊織に変更したようだ。大きく翼をはためかせドラゴンの巨体がゆっくりと上昇していく。辺りに突風が巻き起こるなか、伊織だけが微動だにせずドラゴンを睨み付けている。


ドラゴンは一瞬姿が揺らめく程の速度で伊織目掛けて迫ってくる。それを【瞬速(アクセル)】を駆使し横っ飛びで避けながら前足に斬りかかるが、強靭な鱗がそれを阻む。ギャリギャリという金属音と火花を散らしながら鱗の上をフューガルが滑る。鋼以上の硬度を持つ証拠だろう。


そのまま空中で旋回し再び伊織目掛けてその鋭い牙を覗かせる。今度は思い切り跳躍し、ドラゴンの上に回り詠唱を唱える。

「火よ、今ここに現れて我が敵を燃やし尽くせ。火球!」


ゴウラの魔法を自分好みにしたものだが、成功したようだ。伊織の頭上にいくつかの火球が現れる。それをドラゴンに向かって炸裂させるが、これも鱗に阻まれ大したダメージになっていなかった。


「くそ、固すぎんだろあの鱗。攻撃が全く通じてないな。どこか隙はないのかよ」

全く攻撃の通じないことに伊織は焦っていた。このままでも綾香が逃げられる時間は稼げるだろうが、それでは自分自身は絶望的だろう。その事に考え付いた時伊織は腹をくくった。


それと時を同じくして、綾香は自分自身のひ弱さを責めながら走っていた。あそこで戦えるだけの強さがあれば自分も伊織と一緒に戦えるのに、と。樹林の外に続く街道が見えたとき、背後で爆発音と伊織の苦痛に満ちた声が響いた。思わず振り返り助けに行こうとしたが、伊織の言葉を思い出した。ここで戻っちゃだめだ、ここで戻っちゃだめだと分かってはいるがどうにも足が動かない。


さらに爆発音が相次いで聞こえ、気付いたときには音のした方に走り出していた。目の前が晴れ、伊織の姿を探し辺りを見渡すと焼け焦げた木や、クレーターの出来た地面が映る。しかし、そこに伊織の姿はなかった。綾香はさらにパニックを起こし、辺りを伊織の姿を探し走り回った。


漸く見つけた伊織は、全身血だらけでドラゴンの前足に押さえつけられ、苦痛に顔を歪ませていた。思わず伊織!と叫んでしまい、ドラゴンの気を引いてしまう。ドラゴンの興味も伊織から綾香に移ったようだ。巨体を揺らし綾香に歩み寄るドラゴンに畏怖し、綾香はへたりこんでしまっている。


伊織も全身の骨が折れているのか、身動きすら出来ずただそれを眺めるだけになってしまっていた。


伊織は自分の無力さに嘆いていた。目の前でやっと会えた幼なじみが襲われそうになっているのに、全身が割れるように痛くて身動きが取れない。

「あ、綾香…逃げろ、早く逃げるんだ」


必死に絞り出したその声も、綾香には届かない。綾香とドラゴンの距離がもうすぐそこまで近付いている、数十秒もすればやられてしまうだろう。その時、頭の中で掠れた声が聞こえた。


「オマエハヨワイナ。ダカラアイツモスクエナイ、メノマエデウシナウコトニナルンダ」


「い、嫌だ。もうなにも出来ずに綾香を失うなんて」

「ソレナラワレヲウケイレロ。ソウスレバチカラヲカシテヤロウ。キサマノココロガドウナルカハシランガナ」


「俺はどうなってもいい。俺に、綾香を救う力を貸してくれ!」

「クク、契約成立だな。小僧、貴様に力を貸してやろうじゃないか」


ドラゴンが綾香を喰おうとした瞬間、背後に倒れていた伊織の体が黒い焔に包まれていた。それにはさすがのドラゴンも驚いたようで、翼をはためかせ急上昇する。空中から警戒しながら伊織を目掛けて火球を放つ。


「伊織ーーー!」

綾香の声がこだまする。火球が伊織に命中する直前、()()()と音がした。寸前で火球が突如爆発し、黒い焔に包まれる。


「な、なんなの?あの黒い炎」

黒い焔の中から伊織が立ち上がるのが見えた。しかし綾香はソレを伊織とは思えなかった。伊織の纏っていた黒い焔が徐々に姿を変えていく、それはまるで闇のように黒いコートになった。伊織が瞑っていた目を開けると、左目の色が黒から白へと変わっていたのだ。漂う雰囲気も元の伊織とはかけ離れた殺気をまとっている。


「さぁ、蹂躙のはじまりだ。なるべく長く楽しませてくれよ?駄龍よ」

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