恋
少女を殺してくれる人はいませんでした
みんなせわしない足取りで、過ぎて行きます
することはたくさんあって人のことになど構っていられない
殺人という高いリスクを冒すなんてまっぴらです
少女はふらつく足取りで、寒い中を彷徨いながら自分を殺してくれる人を探し続けました
降る雪にも少女は見向きもしません
美しいものへの感動が、少女の内から喪われていました
空は重く灰色の雲が垂れ込めています
誰か
私を殺してくれませんか
お願いですから
少女を空から見ていた天使は大層、慈悲深く、少女の懇願に胸を痛めました
それなら私が殺してあげよう
そうして堕天するとしても
空から舞い降りた天使は、少女に優しく死を触れさせました
少女は天使の姿を見て、本当に久し振りに笑いました
死の幸福に酔いました
ありがとう
そう言って、少女の息は絶えました
天使が堕天したかどうかは解りません
死んでしまったらもう、先のことは誰にも知ることができないのです