救助
キュウリのネーミングは作者の私ですら違和感を覚えます。
「もうすぐで着く。しばらく待ってくれ」
ドフがにこやかに言う。どんな人が住んでいるのだろう。異世界の村とはどんなのだろう。しげみをかき分けて進む。
「よし、ここを抜けると着く…」
ドフが言葉を失った。
「ドフ?」
「ノール、見ろよ!燃えてるぞ!」
何と村が燃えていたのだ。家々は大きな火に包まれている。何があったのだ。
「雨乞いっ!」
ドフが叫んだ。空に黒い雲が集まり雨が降り出した。中々の大雨だ。しかも冷たい。
「風邪ひくぞっ、ノール、ドフ雨宿りするぞ!」
ノールもドフもこちらを向く様子がない。というよりさっきよりかは幾分か弱まった炎の中へ突っ込んでいった。
「そんちょーーーー!!!」
ドフが腰の曲がった男性の元へ走った。しかし男性は倒れていて、起き上がる様子もない。離れているので何を喋っているのか全くわからない。ドフが男性を背負って炎から出てきた。
「キュウリ、行くよ」
「行くってどこにだよ。お前ら、死ぬ気で助けるのかよ?正気か?」
嗚呼、俺はこんな奴なんだな。残念ながら助ける気がない。他人のために命懸けなんてごめんだ。
「そなたの言い分、しかと聞き届けた。では、村長の、このご老人の手当てを頼む。煙に呑まれ意識がないのだ。頼んだぞ」
ドフは老人を降ろして走っていった。火はほとんど消えていた。崩れた建物の中から人を助けるらしい。ドフはともかく、どうしてノールまで……。
「おい、じーさん、生きてるか?」
村長らしい老人を軽く揺すってみた。反応はないが息はしている。
「何で俺が見知らぬじーさんなんかの手当てを……」
でもすることもないしどうしても放っておかないから定期的に声をかけてみた。目立った外傷はないが軽い火傷がぽつぽつと見られる。このぐらいなら冷たい雨で冷やせばいいだろう。残念ながら人を助ける術は、少なくとも今は知らない。
救助活動を遠目に見ていた。複数の生存者が助け出されてこちらに来た。
「貴方はドフ様の仲間ですか?」
透き通るような少女が俺に話しかけて来た。綺麗でさらりとした緑の髪。目は澄んだ緑。美しい鼻だち。一瞬見とれていた。
「あの……?」
「お、悪りぃ悪りぃ。ドフとは仲間って言ったらそうなるんか……。さっき会ったから何とも言えねぇけど仲間なんだろな」
「そうですか。勇者様。ジョブは何ですか?ここで手当てしてるということはプリーストですか?」
え?ジョブ?何それ。そんなのあったっけ………。しばらく考え込んでしまっていた。
「あの、何か気に触ることを言ってしまいましたか、私」
細くて透き通る声だ。聞いてて心地よい。
「悪りぃな。俺、さっきこの世界に来てよくわかってねぇんだよ。だからジョブってのもわからん」
少女は俺を見つめて黙り込んでしまった。なんだろな。こう、優しい感じで会話するのが久々な感覚がする。一体俺はどんな奴なんだろうな……。
「私、私…クルアって言います、一緒に世界を旅させてくれませんか?!」
旅をする?何のことだ?
「俺は旅するとかそんなの知らないぞ?!」
「ドフ様が、旅は異世界から来た神の使いの使命だとおっしゃっていたのでてっきり旅の始まりだったのかと思っていました。申し訳ございませんっ」
ドフは一体どのようなことを言っているのだ……。
「そういえば、お名前伺ってもよろしいですか?」
「キュウリ」
クルアは一瞬首を傾けて自分の籠を漁ってから
「どうぞ、キュウリです」
と渡してきた。そういうつもりじゃなくて……。クルア、優しいけど案外頭が悪かったりするのかな?流石に思い込みすぎか。
「キュウリっていう名前だ。仮の名だからな?」
クルアは口をぎゅっと閉じて笑うのを堪えていた。
冷たい雨はかなり弱まっていた。
お読み頂きありがとうございました。キャラ設定とか考えるのが好きでただひたすら妄想に走ったりしてます。クルアとかの設定も結構決まってます。