キュウリ、頑張る
ゲームで見かける必殺技みたいなのを考えて見ました。個人的には結構気に入ってます。
「キュウリ!とりあえず逃げて!」
ノールの声がした。俺は一目散に走った。オーガの足音が遠のく。オーガは俺のことを見失ったらしい。動きが止まっていた。その隙に遠回りしてノールとクルアと合流した。
「はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思った」
肩で息をしながら束の間の安堵に浸る。
「どうしよう、手強いね」
「死んじゃいますよ。冗談抜きで」
最悪の場合ドフに頼ることになるだろう。しかしあいつにこれ以上貸しを作ると何をしてくるかわからない。オーガに対抗する手段はないのか…。考えろ俺!多分ノールは頭がいいからノールも考えろ!喋ってないで。
「クルア、火は起こせたよね?」
「はい、魔法で起こせますが…」
「一か八かだよ。クルア、水も出せる?」
「攻撃や防御に使えるほども水魔法は使えませんよ」
「出せたらそれで良い」
何だか嫌な予感がして来た。俺、燃やされるのか…。
「キュウリはクルアの炎で攻撃力を増加させてオーガを倒す。でもそのまま炎を浴びると流石に危険だから水をかぶってもらうよ。それでも燃えるかもしれないけど…」
あー、合ってたわ。俺の予感。でもどうせこのまま死ぬんなら良いか。
「じゃあよろしくね」
ノールが再びオーガに向かって走る。オーガがようやく動いた。俺たちは見つかってなかったのだ。
「こっちだ!このデカブツッ!」
ノールが叫び声をあげてオーガの気を引いた。あいつの方が死亡率高いかもしれない。
「クルア!早く!」
「は、はい!」
水がかかる。バケツの水をかぶっているようだ。オーガに向かって走り出す。オーガよ、お前の戦う相手はそっちのヒョロヒョロじゃなくて俺だぞ!
「行きますよ!」
オーガまで数メートルの場所で背後から炎に包まれた。うっ、熱い。
「火炎拳!」
手から炎が出て来た。俺は1つの巨大な炎になった。火炎拳を発動してからは炎が熱くなくなった。これならいける!そんな気がした。オーガを全力で殴る。脂の焼ける音がした。手をオーガに押し付けて火炎拳をずっと発動していた。じゅわじゅわ音がする。
「ギィィャァァァ」
オーガが呻き始めた。どんどん焼いてやる!
「キュウリ、一度離れて!」
離れようとしたら足が絡まってよろめいてしまった。その瞬間天地がひっくり返ったような衝撃に包まれた。
「キュウリさん?!」
10メートルくらい飛んで木にぶつかった。頭がふらつくし痛すぎるのかもう痛くない。けど立てない。口の中が血の味で満たされている。
「クルア、俺は大丈夫だ。でもノールが1人だからノールの援護をしろ」
血を吐きながらこんなこと言うなんてヒーローみたいだ。でも実際、あんな化け物1人じゃ死ぬ。
「ギィィャァァァ」
化け物の悲鳴?!ノールがやったのか?俺も加勢しなければ!よろめきながらオーガの方へ近づく。
「クルア!とどめを刺して!」
ノールはオーガの両目にナイフを刺して視覚を奪っていた。まさかオーガの上に乗るなんて考えもしなかったことだ。
「白の杖よ!我が刃となれ!」
クルアが杖で、皮膚と肉が焼け落ちて骨が丸見えになっているオーガのふくらはぎを叩いた。杖で叩いたように見えたが、杖で切っていた。足が飛ぶ。右膝から下を失ったオーガはバランスを崩して倒れた。それと同時にノールが落ちて地面に叩きつけられる。
「ノール!」
クルアが後ろ向きに倒れる。気絶していた。さっきので余程の魔力を使ったのだろう。
「キュウリ、早くオーガを殺して!まだ生きてる!」
こんなにボロボロだからとどめをさせるかわからない。でもやるしかない。オーガの頭の方へできるだけ速く移動した。
「火炎拳!」
このまま脳みそを焼いてやる!
「火炎拳だけではつまらないでしょう。良いもの教えてあげるわよ」
脳内に声が流れ込む。
「突然ごめんね、私はヒノデ。あなたの使っている格闘武器に宿っているのよ」
脳内に話し込むなんて只者じゃないし信じるしかないのか。
「この武器はもっともっと強い。ただ殴るだけじゃない。まあ、この武器に指示したら発動するかもしれないわ」
ふん、そうかよ。じゃあクルアのように言ってみるか。
「白の杖よ!我が刃となれ!」
あたりは静けさに包まれた。
「ねぇ、馬鹿なの?目はあるの?どうみても白の杖じゃないよね?」
罵られ方が半端ない。くそったれぇぇ!
「しょうがないわ。奥義のうちの1つを教えてあげるわ…。私の復唱をして。さあいくわよ」
頭に流れる声をなぞる。
「日出づる処の天子、書を日没する 処の天子に致す、恙なきや。奥義、聖徳太子の手紙!」
突然オーガが怒ったかのような声を出した。
「グガォォォォン!!!」
どんどん怒りは増しているようだ。
「おい、何だよこれ…奥義ってどういうことだよ」
「もう少しだから見てなさい」
その瞬間オーガが火を吹いた。身体中から火が起こり次第にそれは炎となってオーガを焼いた。オーガの体の中から火が起こったとしか考えられない。一体何が?と考えるうちにオーガは骨すら残さず灰になった。
「これはね、相手を限界以上に怒らせて、その時に発生する怒りの気で体の内側に炎を発生させて燃やすという奥義よ」
「おっかねぇ…」
自分の言葉1つで生き物がこんなんになっちまうなんて恐ろしい感じがする。
「キュウリ、これは?」
ノールが這いずって来た。
「俺の新必殺…ははっ…」
そういえばノールはオーガの真横にいたはずなのに火傷1つしていない。
「気になる?この炎は対象以外は干渉することもできないし干渉されることもないのよ。だからノール君も無事なのよ。それに地面も焼けてない」
都合良すぎて違和感を覚えてしまう。何だこれは、ひょっとしてチート?
「チートではないわ。まあそのうちわかると思う」
これがチートじゃないってどういうことだろうな。世界は広いんだな。
「キュウリ、鼻血出てる」
特に鼻をぶつけてもないのに鼻血が垂れていた。
「クルアちゃんと同じよ。能力を使うと体に負担がかかる。でもこれだけの能力を使っているのに鼻血が少しだけだなんて…。やはりキュウリにはチートっぽさを感じるわね」
ノールがクルアを背負って宿に帰った。どう考えても今のノールの体ではクルアを背負えることなんて不可能だと思うのだが、クルアは別らしい。
お読みいただきありがとうございます。RPGあるあるの「主人公は戦闘の才能がある」が出て来ました。
ついでにヒノデは日の出から来てます。