町へ
異世界料理紀行とか面白そうですね。
ふぁー、清々しい朝だ。マオの好意により泊めてもらっている。顔を洗って散歩にでかけよう。ノールもクルアもぐっすり寝てるみたいだ。
「キュウリ…!!」
背後から声が聞こえた。聞き覚えのある低い声だ。
「ドフ!」
思わず俺も叫んでいた。何だ、もう歩けるのか。ヒールってすげぇな。
「キュウリ、ここはどこだ?」
「ああ、マオっていうおじさ、おばさんの家。マオがお前にヒールを使って助けてくれたんだ」
危ない危ない。おじさんって言いかけた。マオが聞いていたらしばかれそうだな。
「激痛が腰のあたりに走ったことしか覚えてないな」
「あー、あれはな、でっけぇ魔物の爪だったんだよ。そんでその後、クルアが一撃で跡形もなく消し去った。あの時のクルアはマジで怖かった」
あんな壊れたクルアは見たくない。間違って俺たちが吹き飛ばされても嫌だしな。
「クルアが?意外だな」
「本当にびっくりしたぜ」
「あっらま!目が覚めたのね!うふ、可愛い顔だわ」
うわ、びっくりした。突然横から叫ばれて一瞬身構えてしまった。というよりマオはドフがお気に入りなの?確かに目は大きいけどさ、ドフはもういい年なんだから可愛いとか言ったら傷つくだろ…。
「?!あ、の、あなたが我を助けてくれたマオさんですか?キュウリによれば女性と聞いてましたが…」
ドフがたどたどしい敬語で話す。やっぱり命の恩人には頭が上がらないよな。
「私は!おばさんよ。世の中には言ってはダメなこともあるのよ」
可愛いもダメだと思います!
「で、ドフちゃん。あなたは私が旅に来ることに賛成?私は旅に出たいの」
「それで恩が返せるのなら賛成ですよ」
「うふふふ、じゃあ決まりね!」
マオが満面の笑みで朝ご飯の準備を始めた。嬉しいのだろう。
「キュウリおはよー。あ!ドフ!!!」
ノールが走ってドフに駆け寄る。
「ドフ、良かった、良かった」
ニコニコしながら呟いている。泣きそうな顔をしてる。
「皆さん、おはよーございます。ドフ様!元気になられたのですね!私、すごく心配で。でも、でもでも、良かった、なんて言ったらいいか」
クルアが起きて来ていきなり早口で話しだした。途中から何言ってるのかわからないくらいだった。それほど嬉しいのだろう。
「みんな、迷惑かけてすまなかった」
ドフが頭を下げた。
「不意打ちで爪ぶっ刺さったのはしょうがねぇよ。気にするな」
「キュウリにしては良いこと言うじゃん。珍しい」
ノールが失礼だ。まあ、良いか。今日は許す。
「皆さん、準備は出来ましたか?」
「いよいよ、本格的に旅が始まるな!」
俺たちの仲間にマオも加わって旅が再開した。町へと向けてまた歩きだした。
ノールを除いた全員が心の底から笑っていたのだった。
「多分もう着きますよ!」
先頭を歩くクルアが振り返って叫ぶ。まだ10分ほどしか歩いていないのにもう着くのか。
「大きいな」
ドフが感嘆の声を漏らす。町の建物は陽の光を浴びて白っぽく輝いている。
「石畳みの音はいいわねぇ」
まもなくして俺たちは町に入った。石畳みの地面に白い壁の家とか石で作られた建物とか。どこかで見たことあるような景色だった。
「ヨーロッパの町並みであるな」
ドフが子供のようにキョロキョロして言う。ヨーロッパってすごく馴染んだ言葉の感じがする…。
「ドフ、ヨーロッパって聞いたことあるのだが」
「我らが元いた世界にある地域のことだよ。こんな感じの町並みが広がってるとテレビで見た」
「テレビも聞いたことある!」
「テレビというのは我らが元いた世界にある映像を映し出す機械のことだ」
「お前、記憶あるんだな」
ドフが黙り込んだ瞬間
「そこで話してる2人、そろそろ昼ご飯の時間だからこの店で食べるよ」
ノールが声をかけてきた。美味しそうな匂いがする。それを嗅いでいるとお腹が鳴った。
「キュウリ、今日の夜とか時間のあるときに話そう」
「ん、ああ、いいよ」
ドフの寂しそうな笑顔に構わず俺は吸い取るように昼ご飯を食べた。
ヨーロッパに行ってみたいですね