チートへのアンチテーゼ
話の最後の名言を、入れたかっただけの話かもしれません。
捉え方は人それぞれの深い言葉だなぁと思います。
逆境を楽しめ、そんな言葉が大嫌いだ。
――――
俺は異世界に舞い降りた。
手にしたのは「万能スキル」。
いわゆるチートスキルだ。
神様曰く、「創造できることは何でも可能だ」とのことだ。
降り立った場所は荒野だった。何もない。お誂え向きだ。
「万能スキル」を発動した。
まずは自分の城を作った。
モデルは彦根城だ。
小高い山の上にある由緒ある城。
何度か行ったことがあるので素晴らしい再現度だ。
瞬間移動し、城の天守閣へ。
創造しうる最高のソファを置いた。
天守閣から見える世界が荒野ではつまらない。
記憶にある世界遺産を次々と作る。
まずは「ウユニ塩湖」、「マチュピチュ」、「アンコールワット」。
いい出来だ。
せっかくだしオリジナリティを出そうと、逆三角形の「ピラミッド」をつくった。
あとは空中に「エアーズロック」を作った。『エアー』だからな。
遺産系は飽きたので、城下町を作ることにした。
ベネチア風で。
イチイチ作るのもめんどくさいので、
チート大工を十体用意。
ベネチア風で城下町を作れと行動パターンを入力する。
彦根城の周りがどんどんベネチアになっていく。
さすがチート大工だ。
さっそく船に乗ってみることにした。ベネチアだしね。
思いのままに動く船だ。
せっかくだし、いい女を乗せることにする。
好きだったアイドルを乗せる。
思いつく一番セクシーな格好をさせた。
せっかくなんで、ハーフ系のモデルも乗せた。
モデルは身長が高すぎるな、と思ったが自分の身長を伸ばせばいいことに気付いた。
身長を百八十五センチにした。いい感じだ。
街中でイチャイチャしてみたかったので、船の中でイチャイチャした。
想像通り最高だった。
イチャイチャのリアクションも俺の期待通りだ。
ついでに橋の上にギャラリーを召喚してみた。
恥ずかしがっているアイドルとモデル。更に興奮する俺。
イチャイチャするのは初めてしたけど、こんなにいいものだったのか。
二人を消してしまうのはなんか寂しかったので、「城に行け」と命令しておいた。
二時間ぐらい経過したので、空を飛んだ。
ベネチアが広がりすぎていたので、チート大工を消した。
広大なベネチアが出来たので、人を増殖させた。
適当に一千万人ぐらい召喚した。多かったら消せばいい。
憎んでいたやつら、嫌いだったやつらは下水道で働かせた。
苦役に死にそうになっている。いい気味だ。
とりあえず思いつくままやりたいことをやることにした。
半年後。
イチャイチャはやり尽くした。彦根城はイチャイチャ御殿になってしまった。
人間には俺を神だと思うようにさせた。
一年後。
町に頭が三頭のレッドドラゴンを強襲させた。
町がボロボロになっていく。半壊したぐらいで、ドラゴンと戦った。
苦戦を演じたが、飽きてきたのでメド○ーアで消した。
「はぁ」やることが無い。
二年後。
魔法の研究をしてみた。
『超拡散型爆裂魔法』を創り、天空に飛ばす。
ほどなく爆発するのだが、鮮やかできれいだ。
色々なパターンを作り、一人悦に浸るのだった。
三年後。
なにも面白くない。
思い出の母親を創った。
叱らせてみた。
涙が出た。
なんなんだ俺は。
四年後。
体を爆散させてみた。
生きている。
脳も必要ないみたいだ。
五年後
もう嫌だ!
ここに神を呼び出そうとした。無理だった。
『神』を創造したら、そっくりさんができた。
ちがう! この地獄から抜け出させてくれ!
俺は眼を閉じて祈った。
――――
「やぁ」
「あ、あああ」
「あんまり呼ぶから招いたよ」
神は相変わらず無表情だった。
「も、もう嫌だ!殺してくれ!」
「ははは、望み通りだろう? 君が言ったんだよ、『万能の力』をくれってね」
「いらない! 何もいらない!」
ぷぷぷ、神は笑い出す。
そしてテレビのようなビジョンを出した。
ビジョンの中の俺と神が喋りだす。
―――
「人生やり直してあげようか? 望みもかなえてあげよう」
「望みってなんでもいいんですか?」
「いいよ」
俺はニヤっと笑う。
「じゃぁ万能な力が欲しいですね!
思った通りになる力。チート能力ですね!」
「なんでも思い通りになる力ってことかな?」
「そうです!」
「ふ~ん、いいよ。
そのかわり、地球以外の世界にするよ」
「異世界っすね! 異世界転生だ! お願いします!」
「ふふふ、じゃぁ行ってらっしゃい」
――――
「ほら、君の望み通りじゃないか」
「ち、ちが」
「も~、じゃぁどうしたいのさ?」
俺は思い出す。
神に会う前、俺は自分の人生を嘆いていた。
不幸ばかり起きると。
大好きだった母は浮気して消えた。
父は、野球賭博で莫大な借金を背負った。
中学からいじめられた。
万引き犯だと近所で噂になった。
教師に見捨てられた。
ただ歩いてるだけで、「死ね」と言われた。
水虫になった。
もう嫌だった。いいことなんて一つもなかった。
運命を呪った。
だってそうだろ。
対して努力もしないのに、運動が出来るやつがいる。
勉強ができるやつがいる。才能があるやつがいる。
人に愛されるやつがいる。
俺には何もなかった。
順風満帆な人生が送りたい。
でも俺の人生は逆風ばかりだった。
家にあったクソみたいな自己啓発本を捲った時に書いてあった。
『逆境を楽しめ、向い風だからこそ飛行機は飛ぶのだ。
高く飛ぶには、しっかり膝を曲げる時が必要だ』
「うるせぇ!偽善者」って叫んだ。
じゃぁこのクソみたいな人生を楽しめって言うのか!
才能のあるやつ、運のあるやつの戯言だと、思って本を捨てた。
でも……異世界では才も力も全てあった。
なのに不幸だった。
「さて、考えはまとまったかな? 私も忙しいんだ」
逆境はあったほうがいい、ゼロだとダメなんだ。
「まぁ、異世界はもう嫌みたいだね、ははははは」
でも、でかすぎる障害が来たらどうしたらいいんだ。
「さて、これが最後のチャンスだ」
どうすればいいかわからない。でも
「人生やり直すならどうしたい?」
「――やり直す必要なんてない、俺は佐藤琢磨として生きていく」
配られたカードで勝負するっきゃないのさ……それがどういう意味であれ
スヌー○ー