前夜
『このノートはどう?』
晴也は手話をしながら桜泉の好きな色のオレンジ色のノートを見せた。
桜泉は目を輝かせて手話で『そのノートがいい!』と伝えた。
『よし、じゃあこれにするか』
晴也にノートを買ってもらってカフェで休むことにした。
桜泉は袋から新しいノートを取り出して嬉しそうな顔をしていた。
筆箱を取り出すとペンで名前と『コミュニケーション用ノート』と書いた。
桜泉はノートをギュッと抱きしめてペンを表紙に刺した。
『桜泉は転校してきて1ヶ月経つけどさ、好きなヤツとかできた?』
晴也は興味津々に手話で聞いてきた。
桜泉はビックリして少し考えると手話で
『いるのかな?』
と笑って答えた。
『いるの!?誰?!』
晴也はなぜか心臓がものすごくドキドキしていた。痛いくらい。
『誰かは内緒。』
桜泉はシーっと人差し指を口元に持ってきた。
『そろそろ私帰らなきゃ。』
桜泉は携帯の時計を見て晴也に伝えた。
『そっか。俺送ってくよ。』
晴也は桜泉を送って帰った。
晴也は家に帰ると夕食を食べてお風呂に入るとベッドにダイブした。
『好きな人…いるんだ』
晴也はボソッと呟いた。
『はるやー』
トントンとノックすると同時に兄の優哉が入ってきた。
『桜泉っていう子の話聞きたいんだけど』
優哉はニヤニヤしながら晴也に近づいた。
『あぁ、桜泉は…話すことができないんだ』
『あーそうなの』
優哉は晴也のベッドに腰掛けた。
『でも、すごく可愛くて…優しくて…少し天然というかほわほわ…してて…。でもちゃんとした人で頭も良くて運動もそこそこできて…』
『結果、晴也は桜泉ちゃんっていう子が好きなんだなぁ〜』
『え…?』
なぜか否定ができなかった。否定する理由が見つからないからだ。喋ることができないとしても、性格がとてもいい。もちろん外見も。
『青春だな〜。大学生の俺に青春はもうこねーよ…』
『俺…桜泉のことが好きなのか…?』
『いや、お前桜泉ちゃんってどんな子?っていう質問に対していいことしか言ってない時点で普通に好きだろw 告白しねーのか?』
『…明日してみようかな』
『はやっ!?マジで!?』
『うん…。自分に自信があるわけではないけど、告白しなきゃ後悔する気がする』
晴也はギュッとズボンを握った。
『まぁ、頑張れ!もし、付き合えたら紹介しろよ〜。んじゃ、おやすみ』
優哉は立ち上がると晴也の部屋を出た。