王国からの追放
流星暦1490年、それは勇者レオンハルトが魔王を討伐した年として誰もが知る年であった。
彼が王国に戻ってきた6月21日は祝日となり、貴賎を問わず多くの国民が王国の平和を祝った。
時の国王トーマス4世は、彼を讃えたあと、こう言い放った。
「光栄なる我が国の誇り、レオンハルト・ヴービィーヌを辺境伯に任命する!」
その翌日、レオンハルトの辺境伯叙任の儀式が行われた。
群衆の温かい視線を受けながら彼はついに辺境伯になった。
しかし、彼の昇格をよく思わない人物がいた。宰相のアランフォード卿とその臣下の
ザインバーグ伯爵である。彼らはレオンハルトを貶めるために、色々な陰謀を裏で考えていた。
辺境伯となったレオンハルトは市民のために熱心に働いた。彼の政策によって農作物の収穫高も
大幅に上がった。レオンハルトは壊れている橋や水道管を見つけると、すぐに修繕させたり、
貧困地域への慈善活動も継続的に行った。
捨て犬や野良猫を見かけると捕獲して城内で飼育させたりもした。
そのため、街は発展し、産業や技術も格段に進歩した。景観も綺麗になり、病気や貧困も減った。
彼は早寝早起きを欠かさず、女性不信だったため、多くの男性からは「男の理想像」として
見られるようになった。そのうち民衆からは「賢良伯」と呼ばれるようになった。
だが、レオンハルトの幸せはいつも長く続かなかった。
なぜなら、「レオンハルトが街の中の宿で修道女と酒を飲んでいた」という知らせが届いたのだ。
この国では、修道女はどんな男性とも付き合うことは許されず、飲酒も禁じられていた。
これに違反すると、女性は死刑、男性は追放されることになっていたのだ。
しかもその修道女とは、この国で一番美しく、民衆の心の支えであった修道院長メリザンヌだった
というからたまったものではない。
この騒動を起こさせたのは、他でもなくアランフォード卿とザインバーグ伯爵であった。
彼らは事前に宿を手配し、レオンハルトに似た男とメリザンヌに似た娼婦を呼び、
いかがわしいことをさせたのだ。
それを見た市民が勘違いし、国中にありもしない噂を広めたのである。
実は本物のレオンハルトは宿屋にいなかった。彼はその頃、自ら進んで街のゴミ拾いをしていた。
メリザンヌも病気の子供たちを寝かしつけていたため、その場にはいなかったのだ。
全てはこの二人の大臣のパフォーマンスであったのだ。
怒った国王はすぐさまレオンハルトを呼び出し、大叱責を浴びせかけ、辺境伯の称号を取り消した。
彼は自分は何もしていないと訴えたが、もはや覆水盆に帰らずだった。
メリザンヌも強制的に連行され、斬首刑に処された。
二人の慈善家の淫行疑惑に、民衆は裏切られた気持ちになり、もう自分たちには信じられる者がいないと
思い、落胆したり、泣いたり、卒倒する者まで出てきた。中には自殺する者も出てきてしまう始末だ。
勇者レオンハルトは仕方なく、事実を受け止め国を出ていった。
その日から、街の景観は寂れ果て、治安も悪くなった。強盗や殺人も横行するようになった。