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地獄の沙汰も愛次第  作者: 秋良 きら
番外編1
3/4

ツウジル

番外編です。

歩くんのイメージが壊れるかもしれません気を付けてください。


私が早瀬川歩と知り合ってから半年がたった。

あれからそれなりに色々なことがあった。

山咲さんのグループの下に歩くんのグループが正式に入ったり、山咲さんと真実が別れそうになったり。でも一番は、私の心情の変化かもしれない。


私は、歩くんを好きになってしまったのだ。


呼び名が「早瀬川」から「歩くん」になってから、私は歩くんのそばに居ることが多くなった。グループの溜まり場であったり、歩くんの家であったりと何かと私を傍に置きたがった。

それを嫌だと感じなくなったのはいつからだろうか。

歩くんは、私のそばに居たがる割に束縛はしなかった。全くという訳ではないが、あくまで恋人の範囲ないだ。

そして私には凄く優しかった。いつでも甘やかしてくれて、落ち込んでいる時には黙って傍に居てくれた。


沈黙が苦にならない人は男の人では初めてだ。

もしかしたら、これが私が彼を好きになった一番の原因かもしれない。

歩くんの傍は、いつのまにか驚くほどに居心地がよくなっていた。


まあ、そんなこんなで私は歩くんを好きになってしまったのだが、問題がある。

私はまだそのことを彼に伝えていない。

彼は事あるごとに「好き」という言葉をくれるのだが、私は一度も返したことがないのだ。

恋心を自覚したのがつい最近とはいえ、付き合って半年でこれはまずいのではないだろうか。

どうして私みたいな何の取柄もない女を好きになってくれたかは分からない。しかも、向こうは引く手数多だ。

飽きればすぐに捨てられるのは目に見えている。

ならば私も飽きられないように努力をしなければならない。


そして私は決心した。

今日、歩くんに好きだと伝えるのだ。


そんな強い思いを胸に、歩くんの家にやって来た。

歩くんの家は高級住宅街の中に建っている大きな一軒家だ。何でも両親は医者で、ほとんど家には帰ってこないらしい。

この大きな家のインターホンを鳴らすのは未だに緊張してしまう。

慎重にインターホンを押して、落ち着かない気持ちで待つ。


「いらっしゃーい」


歩くんがにこにこしながら扉を開けてくれる。

いつもと変わらない笑顔に安心して、中に入る。

歩くんの部屋は二階にあり、とても広い。私の部屋の二倍はあるのではないかと思う。


「飲み物持って来るから、座っておいてねー」

「はい」


歩くんを見送ってから、黒いソファーの端に座る。この丁度いい柔らかさのソファーが私は好きだ。

部屋を見渡すと、窓際にある机の上には勉強道具が置かれたままになっている。


歩くんは高校三年生なので、もうすぐ受験だ。医学部を狙うと聞いている。

それを最初に聞いた時はとても驚いた。不良と呼ばれる部類の人なのに大学に進学すること自体が、意外だった。しかし、実は頭のいい彼は今のとこ模試でもA判定を貰っている。

どうして、そんな頭のいい人が不良グループに入っているのかと不思議に思った。本人曰く、グループに入ったのは暇つぶしの一環らしい。

きっと彼は頭が良すぎて、頭がおかしくなったのだと思う。


「お待たせー。お茶でよかったー?」

「あ、大丈夫です。」


歩くんはローテーブルにお茶を並べると、私の横に座る。


「勉強してたんですね。」

「まー、センターまで三か月切ったしねー」

「…もう、そんな時期ですか。あの、私、勉強の邪魔じゃないですか?」

「大丈夫だよぉ。テストなんて楽勝だし」


そう言って、私の肩に甘えるように頭を肩に乗せる。いつも間にか、手も握られている。

もしかしたらタイミングは今かもしれない。ちょっと甘い雰囲気だし、今なら言えるかもしれない。

気合を入れて、口を開く。


「あのっ…私、歩くんに言いたいことが、あるんです!」

「なーに?」

「そのぉ…実は、いや、実はって程でもないんだけど…あの…」

「うん」

「………ごめんなさい。何でもないです。」

「そー?」


私の意気地なし!

たった二文字の言葉なんだからさっさと言えばいいのに!

情けなくて涙がでそうになる。しかし歩くんはそれに気がつかずに、私の手を弄んでいる。

どうしようかと溜息をつきそうになったとき、チャイムが鳴った。


「歩くん、お客さんですよ」

「えー。」


めんどくさいと文句を言いながら、立ち上がる。


「ちょっと待っててねー。直ぐに追い返してくるからー。」

「はい」


歩くんが出ていくと、何だかとても静かに感じる。

歩くんの足音が聞こえる。階段を下りて、廊下を歩いて、玄関を開ける。案外、この部屋まで聞こえるものだと思った。


「――――!」


突然、甲高い女の怒鳴り声が聞こえ、思わず肩が跳ねた。

どうやら、玄関で女が叫んでいるようだ。何かあったのは間違いない。一度見に行った方がいいだろうか。でも私が行ったところで、何かができるとも思えない。

しかし、気にはなる。


男女が言い争う理由なんて、何となく想像がつく。歩くんの過去のことを思えば尚更だ。

詳しくは知らないが、私と付き合う前は女をとっかえひっかえしていたと聞いたことがある。

玄関で、相変わらず女は何かを叫んでいる。

取りあえず、下りてみることにした。ここに居たって何も分からないし、仕方がない。

私は静かに部屋を出た。

足跡を殺しながら、階段を下りて玄関に近づく。


「だから女と居るんでしょ!?別に私でもいいじゃない!」

「もー。どうでもいいから帰ってよ。」


叫んでいる女は恐らく高校生ではないだろう。大学生、もしかしたら社会人かもしれない。

派手な金髪に真赤な爪、スタイルもよくてとっても美人だ。ただ、その恐ろしい形相が、その美しさを台無しにしていた。


「私の方が歩にふさわしいでしょ!お願いよ、もう一度やり直しましょ?私、ずっと貴方を忘れられたなかったの。」

「しつこい。お前のことなんて知らないって言ってるでしょー。」


言い争っている内容を聞いて、私の予想は間違ってなかったと確信する。

やはり、歩くんの元カノだ。

どうしようかと考えていると、女と目が合ってしまった。

女の目が、これでもかというぐらいに吊り上がる。


「アンタね…」


歩くんが振り向いた。


「アンタなのね!!」


女が土足のまま家に上がり込み、私につかみかかる。


「うわあ!」


悲鳴を上げて倒れこんでしまう。女はその上に馬乗りになり、私の髪を引っ張った。


「アンタのせいよ!アンタのせいよ!!返しなさい、私に歩を返しなさい!」


ぶちぶちと髪の毛が切れる音が聞こえる。

この人は狂っている。

人とはこんなにもおかしくなれるものなのだろうか。


「きゃあ!」


悲鳴と共に、女が私の上から消えた。

私と違って女らしい悲鳴だと、場違いながら考えた。

私の傍に、歩くんが立っている。

お礼を言おうとして、顔を見た。そして、ゾッとした。今まで見たことのない表情だったからだ。

無表情ではあるが、どことなく憤怒を感じさせる表情だ。

私に向けられてはいないはずなのに、私は恐怖で動けなくなった。


「…調子に乗るのも大概にしなよ?」


いつもの軽くて間延びした喋り方ではない。静かだが重い喋り方だ。


「俺はお前なんか知らない。これからも、お前は他人のままだ。お前が俺の視界に入ることはない。俺の世界にお前はいらない。お前の存在は俺にとっては無意味だ。否、無意味よりダメだな。…そう、害悪だ。」


倒れている女に、ゆっくりと近づく。女は恐怖の色を顔に浮かべたまま、固まっている。

そして、彼は女の腹を蹴りつけ、そのまま体重をかけるように踏みつける

女の口からカエルのような気味の悪い悲鳴が短く漏れた。


「分かる?害悪なんだよ、お前は。」

「ぁ…ぐ…っ」

「俺たちに害しかなさない蛆虫ごときが、これ以上舐めた真似するとどうなるか分かるよね。外になんか出られないよ。社会的に殺すし、精神的にも殺す。泣こうが喚こうが苦しもうが死のうが、助けなんて来ない。二度と、俺たちの前にその面見せられないようにしてやる」

「…ぃやぁ…」

「嫌?お前が嫌って言える立場だと思ってる訳?俺の方が嫌だよ。」

「歩くん!!」


歩くんが女をもう一度蹴ろうとしたのを見て、慌てて止める。

これ以上はダメだ。本当に殺してしまうかもしれない。

歩くんの動きが止まると、女は弾かれたように立ち上がり、甲高い悲鳴を上げながら飛び出していった。

それを茫然と見送った後には、不気味な沈黙が落ちた。私から口を開くことはできない。歩くんは俯いたまま動かない。


数分たつと、ようやく歩くんが動いた。

すたすたと歩いて私の傍によると、力ずよく抱きしめられた。


「……いで」

「え?」


歩くんが小さく何かを呟いた。聞き取れない。


「嫌いにならないでっ」

「え?」

「ごめんね。嫌な思いさせたよね。こんなこと二度とないようにするから。本当にあの女しらないんだよ。もしかしたら前に遊んだ奴かもしれないけど、今はそんなことしてない。光だけだから。本当に、本当に君だけ。だから、俺を嫌いにならないで。俺から離れていかないで。傍に居て。ずっと一緒に俺と生きて。お願いだからっ」


背骨が軋みそうなぐらいに抱きしめらる。

ぐちゃぐちゃに吐き出された言葉は鼻声だった。もしかしたら泣いているのかもしれない。

そんな彼を見て、私は凄く安心した。

いつも飄々としていてつかみどころのない歩くんは、どこか別次元に生きているような気がした。だけど、こんな風に感情を吐露する姿を見ればその考えが間違っていることに気がつく。


遠くない。

彼は私の近くにいる。


「好きなんだ。君だけが好き」

「私も」


今までのこと嘘のように口から滑り落ちた。


「私も、歩くんが好き、です…」

「……本当?」

「うん」


抱きしめていた腕を解いて、私を見た。目が潤んで鼻の頭がすこし赤くなっている。

こんな顔初めて見た。


「俺、俺は君が好きだよ」

「私も歩くんが好きですよ」


その言葉を聞いて、歩くんが少し笑った。それを見て私も笑う。


「好き……すき。」


歩くんわそう言いながら、私に唇を寄せた


恐らくまた番外編を書くと思います

読んでくださってありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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