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前編

その男はニンマリと笑って、私に手を伸ばした。正面から腕を回して後頭部を撫でる。

背中に冷たさが這い上がる。

自分の呼吸がうるさい。鼓動もいつもよりも何倍も大きく聞こえる。


「・・・」


早瀬川がなにか言った気がする。吐息のようなその声は私には届かない。

しかし、確かに鼓膜が揺れた。耳の中から脳に囁きかける。

その囁きに答えるように、意識はゆっくりと沈んでいった。



人見知りな私は、教室の端の席で本を読んでいるような女子高生だった。

ある程度真面目に授業を受けて、私と同じような地味な女の子の友達と時たま話して、日常は過ぎて行く。

ある日、日常に少しの変化が起きた。私にではない。友達にだ。

コケシの様なおかっぱ頭の私が言うのもなんだが、時代遅れのおさげの女の子。私よりも本が好きで、私と同じぐらい影の薄い私の友達。私はこの子が好きだった。

名前は真実。

真実に、彼氏ができたのだ。

人見知りで、お兄さんのせいで男が苦手な子だったので、意外だった。

さらに彼氏のことを聞いて驚かされた。荒れていると有名な高校の生徒らしい。

どう考えても不自然な二人だと思ったが、彼女がその人のことを好きならそれでもいいと思う。

真実に彼氏ができたからと言って私自身が変わることは何もなかった。


いつも通りに、教室の端で本を読んで、友達と少しお喋りをして、家に帰る。

それが私の日常だった。

その日は真実と一緒に帰っていた。

帰り道の途中に、二人でクレープ屋さんに寄り道したり、女子高校生らしい帰り道だった。人相の悪い男子高校生に囲まれるまでは。

ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた男たちは私と真美を捕まえた。

どうやら、真美の彼氏の知り合いらしい。

真実の彼氏は、そんじゃそこらの不良じゃなかった。その高校を支配している男らしい。高校生が支配なんて意味が分からないし、理解もできないがそうらしい。

そんな男の恋人である真美はとうぜん「敵」に狙われる存在になってしまった。

そしてたまたま居合わせた私は巻き込まれてしまった。それだけのことだった。


男たちに連れていかれた場所は、下手にも廃工場のような場所で、錆びた鉄のにおいがした。

私と一緒に転がされている真美は気絶している。

私も気絶したい。

たぶんそっちの方が楽だ。精神衛生的に。

しばらくするとガラの悪い男が数人入って来た。思わす気絶したふりをする。

男たちは面白そうに話している。耳障りな笑い声だ。

誰かが、私たちの近くに立ったのが気配で分かった。男がしゃがんで私を見ている

緊張で、手汗が出る。

ここで気絶がばれてはいけない気がした


「ねー。この子は?」


軽い声だ。


「知りません。一緒に居たんで連れて来たっす。」

「へー」


男が、私の頬を指で押す。

本当にやめてほしい。もしかして起きているのに気がついているのだろうか。いや、そんなはずはない。


「用がないならヤってもいいんじゃね」

「ナイスアイデア!」

「こんな女にたたねーよ」

「何々?不能なの?」

「ちげーよ!」


男の後ろで下品な笑い声が聞こえる。

これはかなりまずいのではないだろうか。こんなところで知らない男たちに強姦されるなんて冗談じゃない。

けど、この状況は自分でどうにかできる範囲を超えている。

どうすればいいんだろう。せめて、真実を逃がしたい。そしてできれば私も逃げたい。

どうしようかと考えていると、急に腕を掴まれて身体を起こされた。そのまま浮遊感を感じる。どうやら横抱きにされたようだ。

抱き上げているのは、先ほど私の頬を突いた男だろう。

心臓から大量の血液が身体に送れるのが分かる。


どうしよう?

これからどうなる?

何される?


「ねー。そろそろお客さんが来ると思うから、大将呼んで来てー」


上から声が降る。

大将って、こんな状況作り上げた諸悪の根源だよね。頼むから来ないで欲しい。

お客はたぶん真実の彼氏だろう。そっちはぜひ来てほしい。真実と一緒に私も助けてほしい。今すぐに。

そんなことを考えているうちに、男は私を横抱きにしたまま座った。私膝にのせて、身体を男に預けている形だ。

この男が何をしたいのか全く分からない。

取りあえず気絶したふりを続けるしかない。

そんな私をよそに、男は私の髪をいじったり、頭を撫でたりしている。まるでペットだ。


「おい、早瀬川。」


新しい男の声だ。


「おー、大将。」

「何乗せてんだ。」

「女の子」

「アイツの女か?」

「それはあっちー。」

「なんで二人もいんだ」

「さー?巻き込まれたんじゃない?」


頭の上でぽんぽんと会話が交わされる。

大将と対等に話しているということは、早瀬川とかいう私を膝に乗せている男もそれなりの地位にいる。もしかしたらNO2かもしれない。

私は恐ろしい人の膝に乗っていることになる。早々に下りたい。おろしてください。


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