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 何度も何度もお礼を伝え、私たちは本来の目的であった食料の買い出しに向かった。

 実結さんは最後に、

『幸せな時間をお過ごしくださいね』

 と、終始、私たちの時間を大切に想ってくれていた。

 私は、実結さんに一目惚れをした。心からの優しさに、しっとりと惚れた。

 それは、中学生のような可愛らしい恋心なのだけれど、あそこまで人の幸せを願うことが出来て、あそこまで素敵な笑顔を見せてくれる女性を、好きにならない人がいるのだろうか、と言いたい気分だ。

 私は、つい、考えてしまった。

 もし、今日、隣に真奈加がいなかったとして。

 恋人がいることを、実結さんが知らなかったとして。

 私は、あの金本とかいう万引き犯みたく、彼女なんていません、なんて、そんな風に振舞ってしまうのだろうか。恋人がいない振りをして、実結さんへの恋心に、正直に突き進んでしまうのだろうか。

 いいや。実結さんのことだ。気付いてしまうに違いない。そんな嘘、気付かない筈がない。

 そもそも、真奈加と二人、藹藹と話す姿に、実結さんの目は引かれたのだから、この出会いも、一人きりでは存在しないものになっていたのだろう。

 誰かの隣にいて見せる笑顔こそが幸せなのだと、実結さんは言っていた。

 スーパーの買い物カートを押しながら、私は真奈加を見た。

「どうした?」

「いや。なんでもない」

 何気にない日常こそが幸福であり、何気ない出会いこそが幸福である。

 大切な人が隣にいる幸せ。大切な人が隣にいたからこそ訪れた一時の幸せ。


 私は、幾度も片想いをしてきた。

 結ばれたのは、一度だけだ。

 私は、すぐに人を好きになる。

 移り気で、どうしようもない人間だ。

 だから私は、実結さんに恋をして、そして、当たり前のように諦める。

 今日の出会いは、本当に幸せだったのか。考えずにはいられない。

「ねえ、武廣」

「なに?」

「実結ちゃん可愛かったね」

「……うん」

 こんなようなやり取りも、真奈加と付き合ってからは、もう何度したかわからない。

「分かりやすいよね。武廣は」

「……うん、知ってる」


 こうして、今日も私は、私の恋を諦める。

「私を受け入れてくれるのは、真奈加だけだから」

 そう言うと、決まって、真奈加は悲しそうな顔をする。

「そうだよ。普通の女の子は、女の子と付き合ったりしないんだから。感謝してよ……麗奈」

「うん。分かってる……」

 私は変わらない。変わることなんて出来ない。

 それを知っていて、真奈加は私の隣にいてくれる。

 贅沢を言ってはいけない。

 彼女が隣にいてくれることは、私にとって、武廣麗奈にとって、この上ない、奇跡である筈なのだから。

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