5
何度も何度もお礼を伝え、私たちは本来の目的であった食料の買い出しに向かった。
実結さんは最後に、
『幸せな時間をお過ごしくださいね』
と、終始、私たちの時間を大切に想ってくれていた。
私は、実結さんに一目惚れをした。心からの優しさに、しっとりと惚れた。
それは、中学生のような可愛らしい恋心なのだけれど、あそこまで人の幸せを願うことが出来て、あそこまで素敵な笑顔を見せてくれる女性を、好きにならない人がいるのだろうか、と言いたい気分だ。
私は、つい、考えてしまった。
もし、今日、隣に真奈加がいなかったとして。
恋人がいることを、実結さんが知らなかったとして。
私は、あの金本とかいう万引き犯みたく、彼女なんていません、なんて、そんな風に振舞ってしまうのだろうか。恋人がいない振りをして、実結さんへの恋心に、正直に突き進んでしまうのだろうか。
いいや。実結さんのことだ。気付いてしまうに違いない。そんな嘘、気付かない筈がない。
そもそも、真奈加と二人、藹藹と話す姿に、実結さんの目は引かれたのだから、この出会いも、一人きりでは存在しないものになっていたのだろう。
誰かの隣にいて見せる笑顔こそが幸せなのだと、実結さんは言っていた。
スーパーの買い物カートを押しながら、私は真奈加を見た。
「どうした?」
「いや。なんでもない」
何気にない日常こそが幸福であり、何気ない出会いこそが幸福である。
大切な人が隣にいる幸せ。大切な人が隣にいたからこそ訪れた一時の幸せ。
私は、幾度も片想いをしてきた。
結ばれたのは、一度だけだ。
私は、すぐに人を好きになる。
移り気で、どうしようもない人間だ。
だから私は、実結さんに恋をして、そして、当たり前のように諦める。
今日の出会いは、本当に幸せだったのか。考えずにはいられない。
「ねえ、武廣」
「なに?」
「実結ちゃん可愛かったね」
「……うん」
こんなようなやり取りも、真奈加と付き合ってからは、もう何度したかわからない。
「分かりやすいよね。武廣は」
「……うん、知ってる」
こうして、今日も私は、私の恋を諦める。
「私を受け入れてくれるのは、真奈加だけだから」
そう言うと、決まって、真奈加は悲しそうな顔をする。
「そうだよ。普通の女の子は、女の子と付き合ったりしないんだから。感謝してよ……麗奈」
「うん。分かってる……」
私は変わらない。変わることなんて出来ない。
それを知っていて、真奈加は私の隣にいてくれる。
贅沢を言ってはいけない。
彼女が隣にいてくれることは、私にとって、武廣麗奈にとって、この上ない、奇跡である筈なのだから。