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鏡の前で笑う、あなたはだあれ?

作者: 東崎七月

小学校の階段の踊り場によく置かれている大きな鏡。そこでは髪型を整えたりする姿をよく見かけるが、実際にはなぜそこに置かれているのか、詳しくは定かではない。そんな大きな鏡にまつわる怪しい噂があるんだとか。


小学校への通学路を駆け抜ける一人の小学生、京子。みんなと一秒でも早く会うために通学路を駆け抜ける。今日は夏休みの明ける9月の初め。夏休みの最後1週間は宿題でみんなと会えなかったからまたみんなの顔が見たいから、京子は走っていた。9月とはいえまだ暑い日は続いている。京子は顔に汗をたらしているがそんなこと気にも留めずに通学路を走っていた。まだ強い日差しの中、京子の頭につけたお気に入りのヘアバッジは、日の光に当てられ普段よりも一段と輝いて見えた。

「おっはよー!」

京子が大きな声で声をかけると、京子を待っていた友達もおはよーと返してくれた。

「みんな久しぶりだね!」

「久しぶりって、夏休みにも会ってたじゃんか」

「そうだけどさ……みんなに会いたかったんだもん!」

あはは、と友達は笑う。京子は少し顔が熱かった。日差しのせいか恥ずかしさかは分からないけれど。

「もうほら!早くいこ!遅刻しちゃうから!」

「まだ20分くらいあるから遅刻なんかしないって」

友達たちは更に笑うが、もう京子は気にもしないどころか自分まで笑ってしまった。みんなと1週間ぶりに会ったことが嬉しくて、なんだか自然と楽しくなっていた。


下駄箱で靴を履き替えているとき、ふと京子はあることに気づいた。

「美香ちゃん、リボンの向きいつもと逆だよ?」

京子の友達の一人、美香はいつもリボンで髪を右側に縛っている。しかし今日は普段と違い左側に縛っているようだ。

「もしかしてイメチェン?」

「んー、そんな感じ?ちょっとね」

「へー。1週間の間にみんなイメチェンしてるのかな」

「うん。きっとそうだよ。みんなイメチェンしてるかもよ」

少しだけ、京子はその言葉に違和感のようなものを感じたけど特には気にしなかった。


友達と話しながら階段を上っているとき、京子は誰かと肩をぶつけてしまった。

「いてっ!あっごめーん。……ってあれ?」

肩をぶつけた踊り場には京子と友達しかいなかった。京子の見たほうには京子を写す大きな鏡があるのみであった。鏡は戸惑う京子の顔をそっくりに映していた。そんな京子の気持ちとは裏腹にヘアバッジに描かれたマークはいつだって笑顔だった。

「京子ー。なにしてんのー」

「……なんでもない!そういえばさー……」

友達に呼ばれてまた京子は輪の中へと戻る。そのときの京子はまだ、後ろから微笑む影に気づいてはいなかった。


その日の昼休み、給食も食べ終わって京子たちはまたおしゃべりの時間になった。原因は美香のせいだった。

「ねえみんな、鏡の怖い話って知ってる?」

美香以外は全員知らないようで、聞くのを少し躊躇っているような人までいる。

しかし京子は少し気になっていた。

「鏡の怖い話ってどんなの?」

「うーんとね、夜中に鏡の前に立って鏡をじーっと見てると鏡に映った自分が勝手に動き出すんだって。それでそれを見ていると鏡の中から手が出てきて自分を鏡の中に連れて行っちゃうんだって」

話を聞いていると怖かったのか身震いをする者や、別に怖くもなんともなかったような者もいた。京子は後者だった。

「それって夜中に鏡見なければいいだけじゃん。大丈夫大丈夫」

「でも夜中だけじゃなくて朝や夕方にも起きるらしいよ。鏡には注意しないとね」

「それじゃお昼以外鏡見らんないじゃん。私歯磨きのときとか鏡見てるけどなんともないよ?」

京子が言うと周りの友達も少し気分が和らいだようで笑顔になっていた。

「そう…だね。あはは、なんかおかしくなってきちゃった」

美香も含めて京子は友達みんなで笑っていた。美香が何か呟いたように聞こえたのを京子は感じたがなんて言っていたのかまでは聞き取れなかった。


翌日、また通学路を駆け抜ける生活に戻った京子。少しでも早く友達に会いたいからとまた走りながら登校する。友達におはよう、と声をかける毎日に戻って早々違和感を感じた。友達の一人の映子の腕につけているシュシュが左右逆の腕についているように感じた。美香がリボンを逆につけていると髪形の変化は感じ取りやすいのですぐわかるが、シュシュをつける腕が左右で変わっていても別に変なことではない。ただ今日はいつもとちょっと違うな、程度のことなので京子はそれを言わなかった。



またその翌日、友達の莉奈がよく胸につけているバッジも左右逆についていた。これもまたイメチェン、というか気分転換みたいにいつもと逆につけているだけかと思ったら今回ばかりはそうではないらしい。バッジに描かれている頭文字のRが反転していたのだ。Яと描かれたそのバッジを見ていたら莉奈が話しかけてきた。

「どうしたの?京子」

「……莉奈、そのバッジどうしたの…?Rのバッジはどうしたの…?」

莉奈は自分のバッジを見てなんともない顔で言った。

「別にいつものバッジだよ?どうかした?」

よく見ると服に描かれだデザインも左右反転しているように感じる。見覚えはあるけれど違和感のある左右反転した服を見て驚きを隠せない。

「どうしたの京子?大丈夫?」

「ごめん…ちょっと保健室行ってくる…」



また翌日、夏休みのうちに足を怪我をしてしまった友達の男子、各務(かがみ)くんが松葉杖をついて歩いているのを見た。夏休み明けに見たときは左足を怪我していたのに、今は右足に包帯を巻いている。左腕で持っていたはずの松葉杖を、今は右腕で松葉杖をついて歩いていた。

その次に違和感を感じたのは放課後にクラブ活動が終わって帰るときに見た喜代(きよ)ちゃんだった。じゃーね!と言っていた彼女の体育着に刺繍された名前は右側に、反転した状態だった。

気味が悪くてとうとう京子は学校を1日休んだ。



休みから復帰して学校に来た。通学路を走るほどの元気はなく、落ち着いた気分で学校に来た。今までこんなことがあったのに私以外誰も気づかないなんて、何かおかしい。でも言ってもみんな普通だ、って。

誰ともすれ違わず一人の状態で教室まで来た。扉を開き中に入ったとき、京子は絶句した。

クラスの人全員が何から何まで左右反転した姿になっていたのだ。

美香も、映子も、莉奈も、各務くんも、喜代ちゃんも、みんな、みんな、鏡写しの姿になっていた。

「おはよう京子ちゃん。みんな心配してたんだよ?ねーみんな?」

『たっかよてっなに気元ちゃん子京、んう』

クラスの人間全員が文字通り口を揃えて言ったとき京子はその場を飛びだした。



京子は保健室のベッドでずっと震えていた。なんでみんなが鏡写しになっていたのか。京子は考えても全然分からなかった。ただただ怯え、震えていた。

「京子ちゃん。そろそろ夕方だし、先生お家まで送っていくよ」

外は夕日が赤く燃えていた。遮光カーテンのせいでベッドにいる京子は全く感じていなかったがもう夕方の6時だった。日は沈みつつあり、残りの光を精一杯赤く照らしているようだった。

「荷物はここにあるけど靴は下駄箱よね。靴だけ履いて外からこっちに戻ってきなさい」

保健室の先生は優しく言うと京子は涙で晴らした目をこすりながら靴を取りに下駄箱まで向かった。この時間ならほかの子はいないしもう反転した姿の人なんていないだろうと安堵の気分で京子は向かった。

先生の顔を見るのも少し怖かったのでしっかりと顔を見ていなかった京子は、本来先生の左目の下にある泣きぼくろが消え、右側に泣きぼくろがあることには気づいていなかった。


靴を取りに下駄箱に向かう京子。通るときに自分も少し気になったので鏡を見ることにした。自分も気づかないうちに鏡写しになっていないか怖くなっていた。

階段の踊り場にある大きな鏡。そこに映る京子の全身像。手足についた小物の位置は変わらない。朝と同じまま。服の模様だってちゃんとした向きになってるし、ヘアバッジだって同じ場所についている。私は朝と同じ。

しかし、これからどうすればいいんだろうか。今後どうやってあの鏡写しになったみんなと過ごせばいいんだろう。意外といつも通り打ち解けちゃったりして。でもあの違和感は離れないし、何よりなんだか不気味で仕方ない。いったいどうすればいいんだろう……。

京子の顔には不安の色が浮かんでいる。溜め息まで吐いてしまうくらいには気分が落ち込んでいる。そんな京子の気持ちとは裏腹に頭に乗ったヘアバッジは笑顔を浮かべている。

鏡に映った京子と同じように、笑顔を浮かべている。

京子が鏡の自分は自身とは違う表情であることに気づいたときにはもう遅かった。鏡から伸びる鏡写しの京子の腕は京子の腕を掴み、離さなかった。必死に振り払おうとするが京子の力では抗えない。鏡の奥へと引っ張られるようにずるずると連れて行かれる。泣き言を言っても、謝罪を言っても、悲鳴を言っても。引っ張る力が弱まらず、ついには京子は鏡の中へと連れられてしまった。

それを少し離れて見ていた少女の姿が鏡に映りこんだ。見ていたのは美香だった。

「私は注意してって言ったのにな。まあ、どっちでもいいんだけどね」

水面から這い出るかのように、鏡に映っていた京子が鏡の中から現れた。鏡には京子、いや、京子『だった』者の背中が映っていた。現れた京子が鏡に向き直ると鏡に映る京子はとても悲壮な顔して鏡を叩いていた。

「『出して。お願いだから。出して』か。みんな決まってそういうよね。私たちだってそんな気分だったのにね」

鏡を撫でながら京子は呟いた。

「じゃあね美香ちゃん。また明日学校でね」

保健室に向かう京子に美香は言葉を投げかける。

「じゃあね、京子ちゃん」


京子は小走りで保健室へと向かっていく。頭に乗せたヘアバッジ同様、清清しいまでの笑顔を見せながら。




なんか雑な書き方になてしまいましたがいかがでしたでしょうか。

お楽しみいただければ幸いです。

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