常桜 ―トコザクラ―
彼女はいつもソコに居た。
「この花はサクラというのです」
『アナタは何処から来たのですか?』
「私はずっと此処にいました。来たというのなら、アナタの方だと思いますよ」
彼女はツネにそこに居る。
「このサクラという花には、子孫という概念がありません」
『アナタは何時からそこに居るのですか?』
「喩えるのなら、ズット、ズットです」
彼女がサクラと呼ぶソレは常に散り続けていた。
私のハナの先を踊るヒトヒラを掴み取る。
握られた手を解けば、何も、なかった。
『この花がサクラと言うのなら、そこにある焦げ茶のヒドク歪んだ柱はなんなのですか?』
「私は此処にあるものは『サクラである』としか知りません。ならばコレも、やはりサクラなのでしょう」
『ここにあるものは全てサクラなのですか?』
「ええ、そうです。私はサクラしか知りません」
『ならば、あなたもサクラなのですか?』
「ええ、そうです。同じように、アナタもサクラです」
私たちは、同じサクラだった。
世界は、サクラだった。
「サクラとは何なのでしょうか?」
『サクラを私に教えてくれたのは貴女ではないですか?』
「私は何がサクラであるかは知っています。けれど、サクラとは何であるのかは知らないのです」
『貴女は、ここにあるものは全てサクラだと言いました。ならばサクラとは、ココの全てではないのですか?』
「では、此処の外にはサクラはあるのでしょうか?」
『ココがサクラである以上、此処の外にはサクラは存在しないのではないですか?』
「そう――。なら、あなたとは一緒にいられません――……
¬(s∧(¬S))
――桜っ!!
何処からか声がした。
目を醒ますと、私はサクラの外側で、やはり桜なのでした。
私は、サクラとは何であるか、もっとよく考えなければならなかったのかもしれません。