善いことを探すいきものたち
善き心を持ったじいさまは、優しい心を持ったばあさまと二人で、貧しくも仲睦まじく暮らしておった。
ある日のこと、じいさまは傷ついたサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンを見つけた。
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンはじいさまに泣きながらこう言った。
「助けてください。悪い人間が殴ってくるのです。」
じいさまは弱きを助ける善き心を持っていたから、サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンを助けることにした。
じいさまはサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンを家に連れて帰った。ばあさまは心の底から驚いたが、優しいばあさまのことじゃ、傷の手当てをしてやり、残り少ない食料も分けてやった。すっかり元気になったサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンは、たいそう喜んでこう言った。
「けしてこのご恩は忘れません。きっとかならずお返しします。」
じいさまとばあさまはサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンが元気になったことを喜び、きれいな服を着せてやって見送った。
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンが元気に自分の家に帰る途中、ピグミーネズミキツネザルに会った。
「やあ、こんにちは。」
「やあサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンくんじゃないか。そのきれいな服はどうしたんだい。」
「親切なじいさまとばあさまがくれたんだ。」
ピグミーネズミキツネザルは、サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンからことの顛末をすっかり聞いて、きれいな服がうらやましくて仕方なくなった。サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンと別れると、さっそく体に傷をつけて、じいさまとばあさまの家の近くで倒れておった。
それからじいさまが傷ついたピグミーネズミキツネザルを見つけたのは、さほど時間の経っていない頃のこと。じいさまはすぐにピグミーネズミキツネザルを助けてやり、ばあさまは温かいスープときれいな服をくれてやった。ピグミーネズミキツネザルはきれいな服を貰うと大いに喜んで、お礼も言わずに外へ飛び出し、すぐにいなくなってしまった。
「あんなに喜んでくれて、有難いことですね。おじいさん。」
「そうだね、有り難いことだ。しかし、もう食べるものがない。」
「善いことをすると、心がいっぱいになるので、お腹もいっぱいですよ。」
「そうだね、有り難いことだ。しかし、もう着るものがない。」
「善いことをすると、心があたたかくなるので、からだもあたたかいですよ。」
「そうだね。神様に感謝しよう。」
善き人々であるじいさまとばあさまは、あまりにも心がきれいだったから、それから間もなくして、すぐに神様に喚ばれて天に昇っていってしまった。
一部始終を近くで見ていたトゲアリトゲナシトゲトゲは、サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンにそれを教えてやった。
「あんなに善い人たちが死んでしまったなんて。欲をかいておじいさんやおばあさんから食べ物や着るものを奪ったピグミーネズミキツネザルめ。ゆるさん。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンが大変に怒っておると、ウモレオウギガニがやってきてこう言った。
「なぜそんなに怒っているのか。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンがすっかりと事情を説明すると、ウモレオウギガニは怒って助太刀をすることにした。
「善き人たちを騙して物を奪うとは許せん。懲らしめてやろう。」
「そうだ。ピグミーネズミキツネザルを懲らしめよう。」
それを見たブチクスクスは、一体何事かとトゲアリトゲナシトゲトゲに聞いた。
「わるものを退治しにいくんだ。」
トゲアリトゲナシトゲトゲが説明すると、ブチクスクスも面白がってついていくことになった。
トゲアリトゲナシトゲトゲがピグミーネズミキツネザルを見つけると、ブチクスクスが袋をかぶせて捕まえた。ウモレオウギガニはピグミーネズミキツネザルのきれいな服をすっかり切り裂いてしまった。サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンはピグミーネズミキツネザルを縄でぐるぐる巻きにした。
「なんてひどいことを!」
「うるさい。お前のせいでおじいさんとおばあさんが死んだのだぞ。」
「えっ。あの優しいおじいさんとおばあさんが。」
すっかり一部始終を聞いたピグミーネズミキツネザルは、後悔と悲しみのあまり、ぽろぽろと涙をこぼした。そしてサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンと、ウモレオウギガニと、トゲアリトゲナシトゲトゲと、ブチクスクスの四匹にこう言った。
「神様にお願いして、おじいさんとおばあさんを戻してもらおう。」
「そうだ、それがいい。」
「そうしよう。」
こうして、五匹は神様の所へ行くことにした。
「神様、神様、おじいさんとおばあさんを戻して下さい。」
神様は集まって騒ぐいきものたちを見て驚いた。
「なぜ戻して欲しいのか。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンは進み出てこう言った。
「まだご恩を返していないからです。」
「なぜすぐに返さなかったのか。もう遅いのだ。」
「神様がお戻しくだされば遅くありません。」
「だめだ、だめだ。心のきれいな人間は神のもとで暮らすのだ。」
黙って聞いていたウモレオウギガニは、神様の前に進み出てこう言った。
「私を食べてもかまいません。おじいさんとおばあさんを戻してあげてください。」
神様はウモレオウギガニを手のひらにつまみ上げた。
「お前は会ったこともない善き人々のために、命まで投げ出せるというのか。」
「おじいさんとおばあさんは、初めて会った生き物に命を与えたではありませんか。」
「ううむ。」
神様はウモレオウギガニをそのまま空へ放り投げると、星座の星の一つにしてしまった。あまりに心の美しいウモレオウギガニだったから、空に飾ることにしたのだ。
神様はその後、様子をずっと見ているだけのトゲアリトゲナシトゲトゲにこう言った。
「お前の言葉は災いを呼んだ。」
トゲアリトゲナシトゲトゲは話すことができなくなってしまった。
神様は続いて、楽しそうに騒いでいるブチクスクスにこう言った。
「自分だけが楽しんでいるものは去りなさい。」
トゲアリトゲナシトゲトゲとブチクスクスは一緒に、深い森のなかに堕とされた。
ピグミーネズミキツネザルは震えながら神様に言った。
「私はただ謝りたいのです。そしてありがとうと言いたいのです。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンはそれを聞いて泣きながら言った。
「ピグミーネズミキツネザルのせいでおじいさんとおばあさんが死んだのです。私はまだ恩を返していないのに!」
神様は泣きじゃくるサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンをたしなめた。
「サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンよ、なぜお前にも原因があると思わないのか。サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンも善き人々の食べ物を食べ、服を貰っただろう。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンはハッとして泣くのを止めた。
「その通りです。私はなんと愚かだったのでしょう。」
「サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンのすべきことはなんだ? 恩返しか?」
「いえ、私も謝りたいです。」
神様の前でうなだれるサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとピグミーネズミキツネザルの後ろに、じいさまとばあさまがやってきた。
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとピグミーネズミキツネザルはじいさまとばあさまに縋り付いて泣いて謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
じいさまとばあさまは優しく微笑んで、サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとピグミーネズミキツネザルの頭を撫でるとこう言った。
「会いに来てくれてありがとう。私たちは君たちの幸せを願っている。」
「そうですよ。私たちはあなたたちの幸せを願っています。」
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとピグミーネズミキツネザルは神様に尋ねた。
「私たちの幸せは、おじいさんとおばあさんのお役に立つことです。おじいさんとおばあさんのお側にいくにはどうしたらいいのですか。」
「善い事をたくさんすれば、喚ばれることもあるだろう。」
それからというもの、サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとピグミーネズミキツネザルは善いことを探すようになったということだ。彼らがじいさまとばあさまの側に行くことが出来たかを知りたかったら、善い事をしていれば知ることができるかもしれない。