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お姉ちゃんたちの休日?

「タイ! 背中、貸せっ!」

「うっす!」

 鉄板のような刃の大剣を手に、桜が勢いをつけて走って来る。

 鯛介はハンマーを構えたまま、ぐっと身を低くした。

 彼は大きく強靭な体をパーティーの盾にしつつ、最前線で強力な一撃を放つ。リザードマンはその体そのものが武器であり、鎧である。

 最強の亜人――それが、リザードマンの戦士だ。

「どっせい!」

 その最強の亜人の背を踏み台に、細身の少女が跳躍する。

「喰らって死ね! 必殺・ジャンピング脳天真っ二つ斬り!」

《ジャンピング脳天真っ二つ斬り》は、落下の勢いと大剣の重量を利用し、ただ単純に真下に剣を振り下ろすだけの、今作った必殺技である。

 対する魔物はすでに散々痛めつけられ、弱ってはいたが、それでもただ真っ直ぐ落ちてくる桜とその刃を黙って待っているわけもない。


 巨大な蛇の魔物・リンドブルムは、最近日本のダンジョンでも頻繁に出没するようになった。ヨーロッパ産の外来種だが、日本の気候に良く適応したらしい。

 全長十メートルはゆうに超える蛇が、何匹も我が物顔でダンジョンに巣食い、しかも繁殖力が強い。ダンジョンから出て来ることは少ないが、つい最近、近隣の川辺でも発見され、避難警報が出ている。

 こういった魔物の繁殖地を抱える地域は、頻繁に駆除依頼を出さなければならず、冒険者は儲かる。

 ただし、このダンジョンではすでに二パーティーが討伐に失敗し、三人も丸呑みにされてしまったのだが。

 魔法に強く、非常に強靭。その巨大な体で、冒険者を押し潰し、巻きつかれ締め上げられたら、一秒後には全身の骨を砕かれて、頭から丸呑みにされてしまう。大好物のゴブリンも豊富で、丸々と肥えたリンドブルムを桜はバッサバッサと斬り払ってきた。洞穴を進んでいき、最深部で王のように待ち構えていたのは、ひときわ大きなリンドブルムだった。


 大剣を振り下ろす桜に向かって、魔物が素早く頭を動かす。

 その太い胴体に、ハンマーを放り投げた鯛介が抱きついた。

「グガアァァァァァァッ!」

 《轟声バジング》を張り上げながら、丸太のような腕で、ギリギリと締め上げる。鋼の刃すらも受け付けない頑丈な鱗と、筋肉の塊である胴体が、ミシミシと軋む。

 リンドブルムもその胴体を、鯛介に巻きつけようとした。

 しかしそのときには、脳天に振り下ろされた巨大な刃で、一刀両断にされていたのだった。


「ナイス、アシスト!」

 豪快な縦斬りでリンドブルムの体を真っ二つにした桜は、地面に足を付けてすぐ、ぶんと大剣を唸らせ、今度は横に斬り飛ばし、二つに裂けた頭を落とした。

「なんすか? 今の必殺なんとかって」

 鯛介が抱えている胴体はビクンビクンと大きく震え、彼の体を締め上げてきたが、何食わぬ顔でそれを解く。

 頭を落とされた胴体から噴水のように吹き上がる血を平然と浴びながら、桜は大剣を肩に担ぎ、ふふんと鼻を鳴らした。

「《スターダスト落下斬り》よ」

「えっ、そんな名前でしたっけ?」

「なんでもいいのよ。やってみたかっただけ。必殺技の名前叫びながらフィニッシュすんの」

 少女は不敵に笑いながら、大剣を背中の鞘に仕舞って、自分が斬り落としたリンドブルムの頭にトコトコと近づいていき、両手で抱え上げた。

「うわっ、見て見て。牙、すっごいでかいわよ」

 ぱっくり二つに割れた頭を、更に無理やり開き、桜がその顔の奥を覗き込む。

「グロ……」

 遠くで見ていた夜がぼそりと呟く。リンドブルムには攻撃魔法が通らないので、魔道士組はサポートに徹しろと命じられ、隅で光源を作りつつ、『カレーとライスは混ぜて食べるか、そのまま食べるか』というもう何回も繰り返したはずの話題で議論になっていた。夜、灰児、やえと、話している三人全員が混ぜて食べない派なのに、「混ぜないとカレーだけ余る」派の桜の食べ方を、許せるか許せないかで。

「やっぱり、カレーをぐちゃぐちゃにして食べる女は、がさつな女だと思うんだよな、俺は」

「だからヨッちゃんは女の子に対する考え方が基本的に『女なのに』『女のくせに』、な人なのよ。じゃあ、カレーをぐちゃぐちゃにして食べない男は、みんな品がいいの?」

「それは話がズレてるだろ」

「タイちゃんがカレーぐちゃぐちゃにして食べてても、それは許せるんでしょ? 許せないのはサッちゃんだからでしょ? それって女性蔑視だよ」

「お前、女性蔑視って言葉使いたいだけだろ。常に女をフル活用してるくせに。女だから重い荷物持てないとか言って。そうやって今日ずっと俺が背負ってるのは何だよ」

 背中に大きなリュックを抱えた夜が、白けた目でやえを見やる。

「飲茶セット」

 やえは頬に両手を当て、ぶりっこポーズでうふっと笑った。

「この近くに美味しい湧き水があるの。美味しい水に惹かれて、リンドブルムも棲みついたのね。ダンジョン出たら、お茶にしようね」

「オエ……飲みたくねえ、そんな水」

「ヨッちゃんってほんと神経質だよね~。男なら湧き水くらいリンドブルムごと豪快に飲んでほしいとこなんだけど」

「飲めるか!」

「ヨッちゃんの繊細さと、サッちゃんの豪快さと足して割ったらちょうどいいのにね~」

「……まあでも、桜を一番女扱いしてるのは夜だね」

「ハイちゃんは違うの?」

 壁に背を預け、腕を組んでいる灰児が小さく頷く。

「僕は出会った当初から、桜は桜という種族だと思ってる。カレーをぐちゃぐちゃにして食べるのも、ステーキを二つ折りにして一口で食べるのも、たい焼きを頭からでも尻尾からでも無く真っ二つに裂いてから食べるのも、すべて桜という種族の習性なんだよ」

「そんな、まるでサッちゃんがこの世に二体と居ないモンスターみたいな」

「モンスターとは言ってねーんじゃ……」

「ちょっと! アンタら! 何お喋りに夢中になってんのよ! あたしと鯛介が命をかけて戦ってたっていうのに、薄情じゃないの!」

「手ぇ出すなつったのはお前だろ!」

 大きな蛇の頭を持ってズカズカと近づいてきた桜が、夜の手にモンスターの頭を押し付ける。

「はい。邪魔だから持ってて」

「要らんわ! 気持ち悪いモン持ってくんな!」

「あ、サッちゃん、このバッグ使って。もう捨てるつもりのエコバッグだから」

「サンキュー、やえ。入るかしら? あたしの頭よりでかいんだけど」

「だーいじょうぶ。市場の野菜詰め放題で使ってたやつだから。かぼちゃ五個入るやつだから」

 やえがエコバックの口を開いて下に置き、夜が顔を引きつらせながら、斬り落とした魔物の頭を入れる。

「これ、持って帰んのかよ? けっこう重いぞ」

 夜が灰児を見上げ、尋ねる。

「出来たら、胴体は残しても頭は持って帰ったほうがいい。こいつの毒牙は相当に高価なものだから。ハイエナが群がる前に、これまで倒したやつも回収したいかな」

「うえー、倒したやつの頭、ぜんぶ斬り落としてくのかよ」

「腹をかっさばく必要が無いだけいいさ。たぶん、丸呑みにした冒険者やゴブリンがそのまま出てくるから」

「ウオエエエ……頭で良かった……」

「バックアップ雇ってて良かったね~。やえって気が利く女~。すぐに連絡するね~。毒牙を回収したらいいの?」

「いや、素人が剥ぎ取るのは難しい。毒腺ごと取り出さなければいけないからね。頭ごと持ち帰ったほうがいい」

「ん、オッケー。――もしもし~やえで~す。あ、中もう大丈夫だから、入って来て~」

 やえが携帯電話を取り出し、ダンジョンの入り口で待機しているバックアップチームに連絡を入れる。

 魔物討伐パーティーが入った後を狙い、魔物の屍骸を漁っていくはぐれ冒険者は、《ハイエナ》と呼ばれている。その日のうちに発生した依頼でも、どこからともなく情報を得て、仕事を終えた冒険者たちがダンジョンから出て来るのを、息を潜めて待っているのだ。

 そんなハイエナ共にみすみす手柄を渡すくらいなら、バックアップチームを雇うのが確実だ。自分たちで屍骸の回収や解体をするのは、さすがに骨が折れる。

「オレ、出来るだけ運びますよ!」

 大声で叫びながら、鯛介がドスドスと大股でやって来る。ただでさえ巨大なリザードマンの中でも重量級である鯛介の小走りは、小柄な種族からすれば突進にも等しい。

「なに、タイ。アンタ元気あり余ってんの?」

「ま、ほとんど暴れてたの姐さんっすからね!」

「それで、なんでニヤニヤしてんの? もしかして、この首気に入った? 部屋に飾りたいなら、持って帰れば?」

「いや、飾んないっすけど……けっこうコイツら倒したっすよね。思ったより臨時収入になりそうだなーと!」

「金かよ。欲しいモンでもあんの?」

 両手を腰に当て、小柄な少女が大きなリザードマンを偉そうに見上げる。

 いやあ、と鯛介は恥ずかしげに頭を掻いた。

「実は、もう一台、車欲しくて……」

 ヒュー、と桜が下手な口笛を吹く。

「かっねもちー」

「ずっと貯金してて。そろそろ目標額に達しそうなんす。いやー夏に間に合って良かった!」

「夏? イケてる車に乗って、海で水着ギャルにナンパぶちかまそうっての?」

「その言語センス、お前ほんとに十六歳かよ」

 夜が呆れた顔で言う。

「いやいや、そんなんより、ずっと楽しいっすよ!」

 嬉しげな鯛介が、リンドブルムの頭の入ったエコバックをひょいと抱え上げ、愛しげになでなでと撫でる。

「……何してんだ」

 夜がひきつった顔で呟く。鯛介を除く全員が同じ気持ちだった。

 豪快な見た目とは裏腹に、温厚で冷静な彼が、戦いの後でこんなにはしゃぐことは滅多に無い――いや、今まで、桜たちは見たことが無かった。

 そんな鯛介が、まだダンジョン内だというのに、喜びを隠せずにはしゃいでいる。明らかに高いそのテンションに、桜たちは顔をしかめた。

 とうとうエコバックに頬ずりしながら、鯛介が言った。

「実は、キャンピングカーなんす! オレ、キャンプ大好きで! みんなで山行って、綺麗な川の傍でバーベキューしたかったんすよ!」

「……うわ……」

 灰児が心底嫌そうに顔を背け、ボソッと呟いた。

「あんなもの、誰が好きなんだろうって思ってた……こいつか……」

「リザードマンって、アウトドア好きだよね~」

「そうなんす! みんなで行くのが夢だったんすよ~! 緑に囲まれた川べりで、肉焼いて、野菜焼いて、シメは焼きそばかな~。魚を捕って、その場で焼くのもいいっすよね!」

「魚を取る……ね」

 灰児が心底嫌そうに呟く。

 釣りをして、ということだと思うが、川に入った鯛介が口で魚を捕まえている様を、全員がありありと想像してしまった。

「楽しいのは昼だけじゃないっす! 夜、山から見上げる星空は、そりゃー格別っすよ!」

「えっ、泊まるの!?」

 珍しく灰児が大声を上げた。夜も顔をしかめた。

「俺、ダメだぜ、山ん中とか。虫に刺されやすいから。長い山道、酔うし。あとけっこう草に肌が負けるんだよ。なんかよく分かんねーけど、草が多いとこ入ると、顔が赤くなってブツブツが出るときあんだよ」

「へー。そうなんだ」

 桜が意外そうに呟く。

「鈍感そうなのに」

「体質だから仕方ねーだろ!」

「じゃあ行こ」

「聞いてたか!? 俺の話!」

「聞いてたわよ?」

「はぁっ!?」

「いやー、姐さんならそう言ってくれると思ってました! 行きましょう!」

「お前も聞いてたか!? 俺の話!」

 桜の手をがっしと握る鯛介に、夜が怒鳴る。

「うっさいわねー。別に来なくていいわよ。あたしはキャンプの火に魅せられて集まったモンスターをぶちのめしたいだけよ。寝てるときにいきなり夜襲を受けたりしたいの」

「なんでパニックホラーみたいになってんだよ!」

「姐さん、モンスターの出ないキャンプ場ちゃんと選びますから!」

「え、どうしてよ?」

「いや、戦いを忘れてひとときの休息を満喫しましょうよ! 絶対楽しいっすから!」

「ね、キャンピングカーって大砲付いてんの?」

「えっ、なんで!? 付いてないっすよ! 戦車じゃないんだから!」

「ヨッちゃん、アレルギー検査ちゃんとしたほうがいいよ~」

 絶対的なリーダーである桜が行きたいと言い出した時点で、パーティーの運命は決まっているも同然なのだが。

 最後まで、灰児はぼやいていた。

「……ほんっと僕、行きたくないんだけど……」



【終わり】

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