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episode 15 ―vsレッドアイ―

 レッドアイはいつも通り、メインウェポンにSVDドラグノフ、サイドアームにスチェッキン・マシンピストルを選択し、ゴーグルや防弾ベストなどの最低限の装備を整えてから、残ったポイントをライフとスタミナに割り振って行く。ディスプレイ、名前の後ろに表示される文字列が、準備完了スタンバイに切り替わる。

 デスマッチルールの決定は、レッドアイにとっては好都合だった。遠距離から一方的に狙撃できるスナイパーは、このルールにおいて常にイニシアチブを取れる。昨日のいさかいから、チームワークを期待できない今のサバゲー同好会に、この決定はありがたい。


 レッドアイから少し離れた場所では、モヒートがひとり黙々と武器を選択していた。VRMMORPG〝ナローファンタジー・オンライン〟で製作したというアバターは、標準的な成人男性のものに比べると小柄であって、中性的なメイキングもあってか少年兵のような印象を受ける。

 手に取る彼女の愛銃は、相変わらずのM4A1だ。小柄なモヒートの体格にそぐうとは言えないが、取り回しにもだいぶ慣れた様子である。立ち回りさえしっかりしてくれば、彼女の小ささは戦場で非常に有利に働くことだろう。サイドアームにはベレッタM92Fを選択している。薄荷ラムモヒートの選択する武器は、もちろんサバゲーに使用するのと同じものだが、いずれもこのゲームでは比較的優遇された性能を持つ。ただ、その分必要ポイントが高く、彼女はライフやスタミナが少なくなりがちだった。デスマッチルールでは、いささか不便だ。


 前線で戦う強襲兵のモヒートにとっては、そこも含めて味方との連携が重要になる。


 のだ、が、


 現在、モヒートはひとりだ。いつもであれば鬱陶しいくらい彼女に張り付いて、親しげに言葉をかわす他の部員達は、少し離れた場所で準備を行っている。男子部員同士での言葉のやりとりはあるが、彼らは、レッドアイやモヒートには、言葉をかけてこようとはしない。

 悪意や敵意から無視をするのとは、また事情が異なる。その背景にあるのは萎縮だった。昨日の一件、赤城の叱責が結局尾を引いて、サークル内に大きなわだかまりを残してしまっている。


 違う。俺が言いたかったのはそうじゃないんだ。


 忸怩たる思いが、レッドアイにはあった。

 彼とて、ラムや他の男子部員のことを憎んでいるわけでは決してない。むしろ同じサークルのメンバーとして、本来は共に銃器やサバゲーについて語り合う仲間たちとして、親愛の情すら抱いていた。互いに仲良くできるのなら、それに越したことはない。


 だが、最近の状況というのは、レッドアイの考える『仲のいいサークル』というべきものから、逸脱しているように思えた。ラムを〝軍曹〟呼ばわりし、過剰に不可侵領域化して考える風潮がその最たるものである。銃器というニッチな分野に理解のあるラムは、確かに自分や彼らのような人間にとって魅力的な女性と映るだろう。同年代の女子とは違い、オシャレに対して積極的ではない姿勢も、触れ合う上での障壁を大きく緩和させていた。

 しかしそのラムに対して、なんらかのアプローチをかけるわけでもなく、一律して身を引き同じラインに立ち、一切の抜けがけを許さないサークルの雰囲気は明らかに異常で、不健全だった。薄荷ラム軍曹を中心としたいびつな人間関係が、結局サバイバルゲーム同好会そのものとなっている。ラムもそうした空気に飲み込まれて、自らの立ち位置を明確化できないまま、ここまで来てしまった。


 赤城の意図が、彼らに伝わらなかったとは思えない。伝えられた上で、自由に言葉をかわし、自然にコミュニケーションを取るだけの器用さが、彼らにはなかったのだ。結果として、ラムはサークル内で半ば孤立した状態にある。


「アカメ」


 延々と考え込んでいた彼に話しかけてきたのは、意外にもモヒートの方からであった。肩にかけたM4A1は、彼女の総身長の1/3近くを占めている。


「ああ、なんだ。薄荷」


 レッドアイはいつもどおりの対応を心がけた。結果として、そっけなくなる。

 モヒートはこちらに顔を向けず、その表情を読み取ることができない。続く彼女の言葉は、弱々しかったが、しかしはっきりとこう聞こえた。


「勝つぞ」

「……ああ」


 レッドアイも頷く。そうだ。勝つ。勝つしかない。


 離れ離れになりかけたこのサークルの絆を取り持つのは、もはや勝利しかないのだ。






 戦端が開かれる。ミッション・スタートだ。フィールドには、東南アジアのなんとかという街が選択される。緑に覆われた小高い丘陵を中心として、モルタル製の無機質な建造物郡が目を引く。

 アイリッシュは、スタート地点でチームメンバーと健闘を祈り合うと、そのまま丘陵を登り始めた。ギリースーツは動きにくいが、焦らず着実に、進んでいく。周囲にはアプリの並列起動を告げるホログラフコンソールが、無数に浮かび上がっていた。


「緊張してきたわね……」


 量子情報が、脳にフィールドの温度と湿度を伝える。ギリースーツの蒸し暑さもあって、顔中を汗が流れていく感触があった。爽快感を重視したナロファンにおいて、こうした不快感の原因となる感覚はあまり機能しないようになっているので、リアリティを重視したガンサバイブ・プラネットのフィールドは、アイリッシュにとって新鮮だった。


 まぁ、新鮮なのはいいけど、慣れてくると鬱陶しいだけよね。


 不快感というのは要するに身体のアラームなのであって、実質的な肉体が温度や湿度に晒されているわけではない現状、この蒸し暑さというのは単なるアラームの誤作動でしかない。実際、鬱陶しいだけだ。


 ともあれ、戦闘だ。デスマッチ制は素人プレイヤーであるアイリッシュにとって甚だ不利なルールであるが、一概にそうとも言い切れない部分はある。一度死んだら終わり、という点はアイリッシュのみならず全てのプレイヤーの共通である以上、事故というのは発生しうるからだ。

 その偶然を引き寄せるために、あらゆる手段を惜しまない。アイリッシュはマップとにらめっこしながら、丘陵の中のある一点をひたすらに目指した。ゲーム内にいくらか存在する狙撃ポイントの中で、3番目に視界良好な場所だ。1番目と2番目はあえて選ばなかった。敵方の狙撃兵であるレッドアイが陣取っている可能性、このルールを提案したカルーアがスナイパーを片付けに向かってくる可能性があるからである。加えて、1番目と2番目の狙撃ポイントから、ちょうどこちら側は死角となっている。


 アイリッシュが、わずかな知識を総動員させて最初に選んだ狙撃地点が、まずここであった。


 目標地点に到達する。鬱蒼と茂るブッシュの中に身を潜めつつ、アイリッシュは片膝をつきスコープを覗き込んだ。主戦場と目されるメインストリートには、まだ人通りを確認できない。やけに静かな空気の中で、アイリッシュは、聞こえるはずのない自らの心音を幻聴した。そんなはずはないのに、喉が渇く。肌がひりひりと焼け付く。


 最初にスコープの中に映ったのがモヒートであったとき、自分は果たして、躊躇せず引き金を引けるだろうか。と、詮無い疑問が頭をよぎるが、アイリッシュはかぶりを振った。

 なにバカなこと言ってんの。借金一億よ一億。今の自分はマイナスなのよ。


 杜若あいり、しっかりしろ。


 緊張した自らの姿勢を立て直すため、ひとまず立ち上がった、その時である。


 ぴしゅん、と、葉と葉の間をすり抜けて、鋭い熱が擦過した。ライフポイントの減少こそ見られないが、わずかな痛みが額に芽生える。張り詰めたアイリッシュの精神は、状況の把握はできないものの、いましがた発生した現象の正体にはすぐさま心当たりをつけた。


 狙撃されたのだ!


 ブッシュの中に隠れていたアイリッシュは、M700の銃口をわずかに外に出していたに過ぎない。ギリースーツもあり、偽装はほぼ完璧であった。だが、狙撃されたのだ。身を潜めていたアイリッシュの額の位置を、唯一の手がかりたる銃口から的確に算出し、狙いもまた正確だった。気まぐれを起こすのが1秒でも遅ければ、アイリッシュはその時点で、


 その時点で、死んでいたのだ。


 ぞわり。全身が総毛立つ。なぜ、と、問うまでもなかった。アイリッシュは狙われたのだ。デスマッチルールにおいて、もっとも優位性を持つ兵士である狙撃兵を片付けるために、敵の狙撃兵が動いた。カウンタースナイプである。迷うヒマはなかった。アイリッシュは立ち上がって、木々の影に身を移す。今度は、弾丸が肩を掠めた。


 レッドアイだ。アイリッシュには確信がある。彼は、大通りをはじめとした戦場を視野に収められるような、視界良好な狙撃ポジションに腰を落ち着けていたのではなかった。

 自分の教えた情報と、アイリッシュの性格を吟味した上で、彼女がどこに腰を落ち着けるかを予測し、そこを狙撃できるポジションを目指した。彼女の額を撃ち抜く、ただそれだけのために。彼はただの大学生だったが、間違いなく、本物のスナイパーであった。


「ど、どこから撃ってきたのかしら……」


 それなりに開けた視界が、今度は仇になっている。この地点を狙撃できる建造物はいくらか見られ、正確なあたりがつけられない。地面にめり込んだ弾丸の入射角を計算できればまた別だが、地面に残された弾痕を探すには、致命的な隙を相手に晒すことになる。


 どうする。どうする。


 アイリッシュは、レミントンM700をぎゅっと抱きしめて、わずかに歯を打ち鳴らした。

 まごついているヒマはない。レッドアイは優秀だ。こちらが木々の影に隠れたまま出てこないとわかれば、すぐに移動し、次こそ確実に彼女を仕留めるだろう。せめて、場所さえわかれば。姿を隠すにも、ギリースーツの他には発煙筒くらいしかなく、煙の中無防備に走り回るのは、それはそれで危険だ。


 アイリッシュはごくり、と唾を鳴らし、ゲームシステム用のコンソールを開いた。参加プレイヤー一覧を確認し、レッドアイの名前に触れ、コールボタンを押す。通話を試みた。意外にも、すぐに反応がある。


『杜若か』


 さすがに映像は切られているが、重く落ち着いた声は間違いなく彼のものだ。


「元気みたいね。レッドアイさん」

『お陰様でな』


 この会話のさなかにも、彼はまだこのフィールドのどこかでこちらを狙っているはずだ。なんとか探し出そうと試みるが、裸眼ではいずれの建物の中にも確認できない。


『なかなか悪くないポジションだった、素直すぎたな』

「そうかしら。あたしは、頑張って裏を欠いたつもりなんだけど」

『まだ甘い』


 そう語るレッドアイの言葉には、どこか嬉しそうな色合いが滲んでいる。一切、なんのしがらみもなく、好きな分野について語り合える喜びだ。

 アイリッシュは、唇を噛む。


「ラムは元気?」

『正直なところ、あまり元気はない』


 取り繕うこともなく、レッドアイはきっぱりと答えた。


『あれで良かったのか、俺にはわからない。だが、お前には感謝している。おかげでこの戦いには、俺たちはサバイバルゲーム同好会として臨めている。あとは勝つだけだ』

「ふうん」

『次は外さない』


 そのセリフ、どこかで聞いたわね、と、アイリッシュは思う。すぐに思い出した。初めて、ガンサバイブ・プラネットで出会った時、レッドアイが共通回線を通して、ブラッディマリーに告げた言葉だ。悔しさもにじませない、冷徹で淡々とした、仕事人の言葉遣いだ。

 次は外さないというその言葉は、それ以上の意味もそれ以下の意味も含まない。単なる宣言である。もしアイリッシュが迂闊にも木陰から顔をのぞかせれば、レッドアイは瞬時のその額を撃ち抜くことだろう。彼はそのとおりにする自信があるし、自信を持つだけの実力がある。


 では、アイリッシュは逆立ちしてもあの男には勝てないのか?


 そんなことは、ない。


「そうね。あなたがあたしを撃てばそれで終わりだわ」


 杜若あいりは、あぎとを開く。


「でもそれは、あなたとしての勝利ではあるけど、凄腕スナイパー〝レッドアイ〟としての勝利じゃないでしょ?」

『何が言いたい』

「だってあなた、レーザーサイト使ってないじゃない」


 返答はない。だが、黙り込んだレッドアイの苦い顔つきが、確かに脳裏に浮かんだ。

 手のひらでそっと心の表面を撫で回し、傷口を探し出す。それはどういうわけか、杜若あいりの得意技だった。こんなもの、人生で何の役にも立たないことは重々承知である。口は災いのもととはよく言って、かつてのナローファンタジー・オンラインでも、そして現実世界における様々な難関においても、彼女の口は幾度となく災いを運んでいた。忌むべき口先なのだ。


 その封を解く。


 教授のヅラを暴き、そっぽを向かれたのは痛かった。勘違いしたクレーマーに食ってかかり、バイト先を首になったのは痛かった。もう何度となくイヤになったかはわからない。だがもういいだろう。この口の悪さも含めて自分なのだ。認めるしかない。


 射程距離は無限大。狙撃兵アイリッシュの口先が火を噴いた。


「いま、ようやく気づいたわ。あんた、あたしに指摘されたのが恥ずかしかったからレーザーサイト外したんでしょう。サバゲー同行会では一歩引いた立場にいて、自分は誰にも流されないなんて態度を気取ってたつもりかもしれないけど、結局あんたは、他人の意見でちょっと信念ずらしちゃうくらいの意気地なしなんでしょ」


 きりきりと痛む心は、あえて無視した。杜若あいりは鬼となるのだ。


「どーなのよ、ねぇ答えなさいよ! ダブルスタンダードとか、中途半端とかね、そういうの一番カッコ悪いんでしょーが! そんなあんたがドヤ顔でラム達のこと指摘できると思ってんの!? カッコつけんなら最後までカッコつけろっつってんのよ! 聞こえてんでしょ!? それともここで通信切るかしら! 一生レッドアイとしての自分に背を向けて生きるのかしら!? ねぇ、どうなのよ、ヒトミちゃん!」

『ヒトミちゃんって言うな!!』


 当てずっぽうで言ったが本名のこともちょっと気にしているらしい。


「あたしは負けないわよ! 口が悪いこと指差して邪神なんて言う人もいるけどね、邪神としての自分とも向き合うし、あたしは自分の恥ずかしい過去も隠さない! 未熟な作品だってたくさんあったわ! 全部があたしの恥部よ! それを指差して笑う人がいたり、『ネタとしても中途半端で突っ込みにくい』なんて言う人がいても、自分の歴史を認める覚悟があるわ! そんな覚悟もないまま、『サバイバルゲーム同好会として勝つ』なんて、よく言えたわね! ちゃんちゃらおかしくって、ヘソからスティンガーミサイルが飛び出すわ!」

『………!!』


 かちゃり、というわずかな音が、無線を通して聞こえた。アイリッシュは所持している道具の中から発煙筒を握り、勢いよく地面に叩きつける。白い煙が視界を覆い、アイリッシュはその中に、身体を踊らせた。

 直後、真っ赤なレーザーが煙の中に投射される。きた、と、アイリッシュは思った。もうもうと舞う微粒子の中で、レッドアイの死の視線レーザーサイトがはっきりと確認できる。紅い直線は、そのままアイリッシュの額に到達していた。リアリティを極限まで追求したガンサバイブ・プラネットの世界は、煙幕の中でレーザーが可視化される物理法則を、きちんと再現する。


 アイリッシュはM700を構え、スコープを覗く。周囲に浮かぶアプリケーションソフトが演算を開始した。スコープ越し、煙を払う一瞬、レーザーの投射された方向を注視する。高倍率の世界の彼方、廃屋と化したビルの屋上部に、SVDドラグノフを構える無骨な兵士がひとりいた。


 赤きスナイパー・レッドアイ。


 彼我の距離は550メートル。その指先が引き金にかかる瞬間、アイリッシュは横に跳ねた。

 彼我の距離は550メートル。アイリッシュは悪態をつくところだった。


 このゲームにおけるレミントンM700の最大有効射程は480メートル。ドラグノフ狙撃銃の最大有効射程は600メートル。偶然とは思えない。レッドアイはすべて計算ずくだった。なんらかの事故で、こちらが気づいたとしても、決して反撃の及ばない距離。レッドアイはそこまで計算してあの廃屋に陣取っていたのだ。


真紅の死眼クリムゾン・デスサイトだ。満足か?』

「あ、そんなカッコイイ名前なのね……」

『勝たせてもらうぞ。レッドアイとしてな!』

「でもあんた、結局ヒトミちゃんじゃない」


 ぱちゅん、と、アイリッシュの隠れた木の幹に弾丸がめり込んだ。


『今度は貴様の番だ。ヘソからスティンガーミサイルを出してみろ、杜若!』

「煽るにしてももっとマトモな言葉はないの!?」


 アイリッシュはレミントンを抱き抱えたまま、木々の間をすり抜けて斜面を駆け下りる。この距離では、アイリッシュの弾はレッドアイには届かない。せめて480、450、いや、あわよくば350メートル圏内に収めなければ、あの男は、取れない。


 ここで死ぬわけにはいかない。レッドアイを残せば、あのスナイパーは戦場を完全に掌握しかねない。倒せるのは、スナイパーである自分だけだ。方策はある。そのためのギリースーツだ。


 もう芋虫ではいられない。自分はコクーンに入ったのだ。残る道は二つ、蛹の中で腐るか、羽化するか。蝶になれなければ、死ぬしかない。

 アイリッシュは丘陵を駆け下りて、市街地へと飛び込んだ。






 アイリッシュは市街地に消えた。今自分がいるこの廃屋からでは、これ以上狙いにくい。ドラグノフを肩にかけ直し、急いで移動を開始する。


 杜若あいり。強敵だ。

 レッドアイは、今まで見えたことのないタイプの敵を前にして、間違いなく戦慄していた。こうも的確に人の心をえぐり、見たくもない現実を突きつけてくるとは。忸怩たる思いを抱き、階段を駆け下りる。


 だが同時に感謝もあった。見たくもないものと向き合わなければ、胸を張れる自分ではいられない。それを気づかせてくれたのは彼女である。今にして思えば、彼女が真紅の死眼クリムゾン・デスサイトを貶したことなど一度もなかった。恥ずかしいと思っていたのは自分自身であり、これのカッコ良さを一番疑っていたのは、紛れもなく自分自身なのだ。


 赤き無敵のスナイパー、レッドアイ。それが自分だ。

 ゲームの中にしか存在しない、妄想上の虚しい存在である。だが、それがどうした。例え仮想現実の中であったとしても、赤城瞳レッドアイは屈強な兵士でなければならない。薄荷ラム達に、自分の勝手な理想を押し付ける前に、まず自分が理想の兵士であるべきではないのか?


 杜若あいりには、感謝だ。だからこそ、手は抜けない。


 マップを開きながら、彼女の移動経路を予測する。ライフに多く、スタミナに少なくポイントを割り振っているアイリッシュの移動速度は、決して高いわけではない。彼女も、こちらがずっと同じ場所にいるとは思っていないだろうから、まずはアイリッシュの場に立ってレッドアイがどう動くかをシミュレートする。

 こちらがかくのは、裏の裏の裏だ。予測到達地点を的確に狙撃できる、モルタル製の平屋。レッドアイはまっすぐに屋上を目指す。身をかがめ、ゆっくりと匍匐しながら、肩にかけたドラグノフのスコープを覗く。


 市街地に林立する建造物群の合間、大きく開けた庭園の中に不自然な盛り上がりが確認できた。そこから、レミントンM700のマズルブレーキが覗いている。レッドアイは、自らの予測に確信を得る。市街地でギリースーツを活かせるような場所は、そのくらいしかないだろう。

 銃口は、今までレッドアイが通ってきた路地に向けられている。思っていたより良い着眼点だ。だがもう、レッドアイがそこを通ることはない。やはりスタミナの低さと、そこから生じる移動の遅さが、勝敗を分けたか。


 だが、芋虫のように伏せる癖だけは、治らなかったようだな。身体を起こし、いつでも移動できるよう片膝を立てる。肩にドラグノフのストックを押し当て、ゆっくりと引き金に手をかけた。ギリースーツの盛り上がり。その頭部に、的確な狙いを定める。


 レッドアイは愉悦を浮かべるでもなく、ただ淡々と、自らの本音を口にした。


「感謝するぞ。杜若」

「礼ならいらないわ。ヒトミちゃん」


 背後からはっきりと聞こえた言葉の直後、一発の銃声が響き渡った。












―――【Redeye】が【Irish】にヘッドショットキルされました。

FPS同好会

 カルーア・強襲兵

 カシオレ・強襲兵

 ジントニック・強襲兵

 マティーニ・偵察兵

 みりん・強襲兵

 シードル・強襲兵



サバイバルゲーム同好会

 モヒート・強襲兵

 レッドアイ・偵察兵(死亡)

 カンパリ・強襲兵

 ウォッカ・衛生兵

 エール・援護兵

 ファジーネーブル・工兵



服飾デザイン同好会

 アイリッシュ・偵察兵

 ブラッディマリー・強襲兵

 スクリュードライバー・工兵

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