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【短編】「君の妹のことが好きになってしまったんだ」と婚約者から婚約破棄されました。────ところで、妹って誰のことですか?Episode①

作者: As-me・com
掲載日:2026/10/09

「君の妹のことが好きになってしまったんだ。だからこの婚約をなかったことにして欲しい」



 婚約して3年目の記念日に彼は私にそう言った。


「は?妹……?え、もしかして私と婚約破棄したいってことですか??」


 あまりの衝撃的発言に私は飲みかけのグラスを落としそうになった。意味がわからなくてポカンとする私の反応を見て彼が「だからさっきからそう言っているじゃないか」と不思議そうに首を傾げた。




 婚約が決まってすぐ隣国に留学してしまった彼を待ち続けて3年。本当なら1年で帰ってくるはずだったのにどうせなら卒業まで残りたいと急に言い出し、長期休みになっても顔すら見せに来ず、誕生日にプレゼントどころか手紙ひとつ寄越さなかった名ばかりの婚約者が……やっと帰ってきたと思ったらとんでもないことを言ってきたのだから当然の反応だろう。ちなみに部屋の壁際には執事とメイドもいるが私と同じくポカンとしている。



 まさか3年ぶりに顔を合わせた途端に婚約破棄されるなんて思わなかった私はしばらく呆然としてしまった。その間も彼はペラペラと「運命の出会い」だとか「彼女の方が素晴らしいから」などと悦に入った顔で語っているが、それを見ていたら頭の奥がスッと冷たくなって今度は怒りが湧いてきた。


 よくわからないけど、とどのつまりは留学中に浮気をしていたということである。留学から戻ったら我が家に婿入りして領地経営に携わるために隣国のノウハウを学びに行ったはずの彼は一体何を学んできたのやら。



 だいたいさっきから上から目線で私に憐れみの目を向けているけど、男爵家の次男のあなたに子爵家の嫡子である私を馬鹿にする資格なんてないですからね?!なにその「選ばれなかった可哀想な君」みたいな視線は?!


 そもそも、今回の留学費用だってうちが出していたのよ?婿入りしてもらったら苦労もかけるだろうからと、出来るだけ要望を叶えてあげようと思っていたのに……こんな裏切りってある?


 私は大きく息を吐いてから執事に頼んで書類を用意してもらおうとした。もちろん婚約破棄の書類だが、すでに執事の手には必要なものがすべて揃っていた。仕事が早い。


「あなたの気持ちはよくわかりました。ではこちらにサインを。……はい、確かに確認いたしました。私もサインして……これで婚約破棄は成立です。

 私たちは特に交流もなかったですが、一応契約違反にもなりますので慰謝料は請求させていただきますからね。では、もう私とあなたは他人ですから我が領地には二度と足を踏み入れないでください」


 本当ならもっと複雑な手続きや下手したら裁判をするべきなのだが、私と彼は名ばかりの婚約者で手をつなぐどころか手紙のやりとりすらしていない。というか、最初は何度か出していたのだが、一向に返事がこないのでだんだんと私も出さなくなったのだ。だからほとんど交流もしていない。理由を話せばお父様たちだって私の決断を受け入れてくれるだろう。


 なにより、浮気してそれをあやまるどころか開き直る人なんてむりっ!


 すると彼は「契約違反?慰謝料?君はおかしなことをいうね。まるで物語に出てくる悪役令嬢のようだ」と再び首を傾げた。おかしいのはお前の頭だと殴ってやりたい。


「悪役令嬢だなんて失礼な……それに、なにがおかしいのですか?私たち婚約破棄したんでしょう?」


「だから、僕は君の妹と結婚すると言っているだろう?ちゃんとこの子爵家に婿入りするし、当主になって領地経営もするつもりだ。ただその相手が君から妹に変更されるだけなんだからなんの違反もしていないじゃないか。それなのにそんな意地の悪いことを言うなんて、やはり君の妹の言う通り“悪役令嬢”そのものだな」


「……妹と結婚、ですか」


 私は執事に書類を手渡して、一礼したあと即座に部屋から出ていくのを視線だけで見送った。きっとこのまま教会に提出してくれるはずだ。一度破棄された相手とは再び婚約を結ぶことはないからこれで一安心である。




 私は視線を彼に戻して再び息を吐く。そして大げさに首を傾げて見せると、ずっと言いたかった言葉を口にしてやった。

 





「────ところで、妹って誰のことですか?」






 彼以外の、この場にいた全員が思っていたことだ。私はこの子爵家の一人娘で、もちろん妹なんて存在しない。いくらほとんど交流がなかったからとはいえ、婚約者の家族構成すら知らないなんてとんだ大馬鹿者である。




 なにやらひとりで大騒ぎしている彼をお帰り願うと暴れ出したので憲兵に通報して連れて行ってもらった。ああ、やっと静かになったわ。




 1週間後、彼の両親である男爵夫妻が改めて我が家に謝罪しにきた。すでに慰謝料はもらったが今回のことを説明しにきてくれたのである。そして真実が明らかになった。



 どうやら彼は盛大な勘違いをしていたようなのだ。



 最初の間違いは、彼の元へ届いた一通の手紙だった。


 宛名など確認せずに開封したのだろう。実はそれが自分と名前の綴りが一文字違いの別の留学生宛の手紙だったとはつゆ知らずに彼はその手紙の内容に震え上がったそうだ。


 それは自分の婚約者には妹がいて、その妹が姉に虐げられている内容だったからだ。


 そしてその妹は姉の婚約者だと知りながらもお慕いしている気持ちを我慢出来ないとかなんとか……まぁ、つまりは姉から婚約者を略奪するための仕込みの手紙である。


 しかもなんの偶然なのか私と家名がこれまた一文字違いの子爵家だったようだ。いや、いくら似てたって婚約者の家名を見間違えるほうがおかしいのではないか。


 それに、いくらなんでもさすがに住所が違い過ぎるのでは?と思ったのだが、名前の確認もしなければ住所の確認もしていなかったようだ。学園の小間使いか事務の人に「この手紙にある住所に送り返しておけ」的なことを言ってそのま押し付けていたらしい。一度だけならまだしも、それからずっとだ。ある意味すごいと思った。


 とにかく彼はそれから《《私の妹》》と文通を始めたらしい。私に確認の手紙さえ寄越していればすぐに解決したはずの問題を、彼は「彼女を反省させるために」手紙を書かなかったと、言っていたとか。


 そして秘密のやりとりは続き、《《私の妹》》が私から逃げるために留学先に行きたいから匿ってほしいといってきた。このままでは無理矢理政略結婚させられてしまう、あなたでないと嫌だと言われ、彼は《《私の妹》》と会うために留学期間を延ばしたのだ。


 実際にやってきた《《私の妹》》は私とは似ても似つかぬ儚げな美少女で、彼は《《私の妹》》に一目惚れ。それから卒業まで子爵家からの支援金で《《私の妹》》と暮らしていたらしい。


 そうしてあの日、私と婚約破棄して《《私の妹》》と結婚すれば全て万々歳だと計画して、意気揚々と帰ってきたのだとか。



 ちなみにその妹とやらは、元の国では略奪癖のある厄介な令嬢として社交界では有名だったようだ。今回も姉の婚約者を略奪しようと企んだが、運悪くひっかかったのは彼だったわけだ。


 たぶん“妹”の方は、すぐに彼が“姉の婚約者”ではなかったことに気付いていたはずなのに、都合の良い相手だと思われたのか、略奪出来るなら誰でも良かったのか……悪癖という、どうようもない病気持ちなのかもしれない。(どのみち、その姉と婚約者は相思相愛で妹なんて眼中になかったそうなのだが、彼のおかげで巻き込まれずに済んだと喜んでいたらしい。同時にあんな手口に引っかかるなんてとドン引きもされたとか)


 しかも彼は自分が子爵家当主になるのは決定事項だから安心して結婚して欲しいと《《私の妹》》にプロポーズして早速男女の一線を越えてしまった。その《《私の妹》》も彼に騙されてキズモノにされたとかなんとか騒ぐので、男爵夫妻は仕方なく男爵家に迎えたのだが……なんと私のいも──いや、もうその女でいいか。その女、男爵家の跡取りである嫡男を誘惑したのだ。もちろん嫡男には婚約者がいて、その現場を婚約者が目撃してかなりの修羅場になった。しかもその女、元の国の実家からはすでに勘当されていて身分は平民だ。その婚約者は伯爵家の5女だそうで、怒った婚約者はその女を男爵家から追い出したわけである。伯爵令嬢が惚れ込んで結ばれた婚約だったはずだからその怒り具合は想像に難くないだろう。


 男爵夫妻がその女を擁護するはずもなく、こんなことになった責任を取らせるために彼を除籍してその女ともども地方へ追放して、そこで強制労働させる予定なのだとか。





 結果的に彼は好きな相手と結ばれたようで、きっと今頃喜んでいることだろう。……たぶん。






 私はといえば、あれから良縁に恵まれた。私の騒動を知った、彼と一文字違いのあの男爵令息と婚約者の子爵令嬢が自分たちの家の事情に巻き込んだお詫びにと友人を紹介してくれたのだ。せっかくなのでお見合いをしたのだが、この人がとてつもなく優良物件だったのである。


 その人は2つ向こうの国の子爵令息で、次男なので自立するために勉強を頑張っている真面目な人だった。我が家の事情を聞いて真面目に将来を考えてくれた。



 なにより一緒にいると、とても落ち着く雰囲気を持つ人なのだ。



 性格も穏やかで誠実、それに私をとても大切にしてくれる。最初の1年は文通をして、それからすぐに婚約した。来年の春にはこちらにやってきて一緒に結婚式の準備をする予定なのだが、今から楽しみすぎる。



 ある意味で元婚約者が運んできてくれた幸運に感謝しながら、私はバラの香りのするお茶をひと口飲んだ。


 


 本当は、私が「彼を許す」とさえ言えばここまで酷い罰は与えられなかったのだと知ったらどんな顔をするかしら?まぁ、あの女を許すかどうかは伯爵令嬢次第だけれど……“彼だけ”なら強制労働から救うことはできた。


 だって、確かに3年間は無駄にしたけれど勉強期間だったと思えばいいし、本当に私たちには《《何もなかった》》んだもの。そこにはもちろん愛情も。だから留学費用の返金と慰謝料さえもらえればそこまでダメージはなかったのだ。相場より多くもらえたから儲かったくらいである。男爵家の資産は酷いことになったようだけど、次期当主が有能だからすぐに取り戻せるだろう。


 このことを知ったら、彼は私を「卑怯者」と罵るかしら?それとも「お願いだ」と許しを乞うてくる?



 でもね、絶対に許さないわ。



 だってね、あの時「悪役令嬢」って言われたのがとってもムカついたから……どうせならその通りに“悪役”になってやろうかと思って。



 悪役令嬢って、そういうことでしょう?








終

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― 新着の感想 ―
勘当され籍を抜かれているなら「平民も同然」じゃ無くて「平民」かと思ったり。 こんなお尋ね者、貴族位詐称で縛り首でいいと思われ。
その《《私の妹》》も三年間も付き合っていて人違いだと気がつかなかったのか? 留学費用すら捻出できない貧乏男爵家の男だと直接会って話せばすぐに分かると思うけどな 国が違えば風習も話題も違うから流石に気が…
学生寮のほぼ同姓同名に手紙が誤送されるのは仕方ないとして、その返信の住所は自分で書くものじゃないのか…? 婚約者の住所を覚えていないにしても、自分の国じゃないことくらい気づかないか??
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