海底の星
海底の星
第一章 海岸の流星
波が寄せては返す。それを振り返す。
夕暮れの海岸。
少女は一人、波打ち際を歩いていた。
靴の中に砂が入り、足跡がすぐに消える。
彼女は、毎日この時間になると海に来る。
何も考えずに、ただ海を見ていたいからだ。
心の奥に沈んでいる“何か”を、波が流してくれる気がした。
視線を下げると、砂浜に“誰か”が倒れていた。
人間のようで、人間ではない。
髪に海藻のような糸が絡まっている。
彼女は息を呑んだ。
「お母さん?」
亡くしたはずの母の面影がそこにあった。
少女は思わず駆け寄り、その身体を抱え上げた。
冷たい。けれど確かに、生きている。
「……誰も、見てない...よね?」
彼女は彼を連れて、防波堤の下の古い倉庫へと向かった。
そこは、彼女の秘密基地。
暗い倉庫の中に横たえる。
水滴がぽたぽたと音を立て、遠くで波が響く。
彼女は震える手で、その顔をもう一度見つめた。
まるで流れ星が海に落ちてきたようだった。
第二章 超新星
それからの日々、少女は毎日その場所に通った。
海底人は少しずつ人の言葉を覚え、
二人は、まるで友達のように笑い合うようになった。
「君はどこから来たの?」
海底人は少しの沈黙の後答えた。
「わからない...でも此処とは別物...」
「また帰るの?」
「……たぶん、でももう帰りたくない...」
その言葉に、少女は小さく笑った。
「じゃあ、ここにいればいいじゃん。」
「……」
その瞬間だけ、海の匂いが少し優しくなった気がした。
ある日、倉庫の外から奇妙な音がした。
水の中から這い出すような、ぬめる音。
扉の隙間から覗くと、もう一人の“海底人”が立っていた。
その目は怒りに満ちていた。
「裏切り者……」
海底人の手に光る槍のようなものが生まれる。
それを少女のいる方へと投げつける。
「え?...うわっ!!」
少女が叫んだ瞬間、
海底人は彼女を突き飛ばし、
その身体で槍を受け止めた。
「人間を庇うとは...」
倒れた海底人が、かすかに笑う。
その瞬間少女の記憶と似た様な気がした。
あの日の海。
母の叫び声。
「どうして……?」
手のひらに残る。冷たく、重い。
自分が何をしたのか、思い出してしまった。
彼女は震えながら海底人を見つめた。
「まさか……あなたは……」
海底人は微笑んだ。
「思い出した...」
「僕は、君のお母さんの記憶から生まれた。」
「母の……?」
「君を、恨むためじゃない。もう一度……抱きしめるために。」
彼女は昔、母を誤り殺害してしまった。
その日から彼女の心は海底の星のように暗く深く沈んでしまった。海底人の正体は殺害した母の記憶だけがその海底人に依存転生した存在だった。
涙が止まらなかった。
海底人の身体が、冷たくなっていく。
波の音が聴こえずらい。
「君の罪も悲しみも...神様が許してくれる。」
「……ごめんなさい...わたし...」
「大丈夫...」
大人たちの声が遠くから聞こえた。
「おーい! こんなところに子どもが倒れているぞ!」
周辺からの情報だと、少女は海へ流されていたらしい。有名な霊媒師によると、少しの憎しみ、ほとんどが心配や優しさの集まりの結果、樹霊が彼女を殺害しようとしたらしい。
彼女はその後記憶は飛び、ごく普通の生活を送ったらしい。
完。




