表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔境に追放されたエンジニア令嬢、統括回路一本で極楽温泉郷を築く 〜伝説の銀狼(推し)とホワイトに隠居します〜  作者: 櫻庭希翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/21

第7話 仕様漏れと推しの執着心

第7話です!

ようやく「服」をデプロイしたロアでしたが、まさかのアンダーウェア未実装という致命的なバグが発覚。

魔力リソースが枯渇する中、シルが選んだ禁断の「素材」は、自らが脱ぎ捨てたばかりの汚れた作業着!?

愛と羞恥のリメイク大作戦開始!!


「よし、シルの装備(服)はデプロイ完了ね。さっさとそれを着なさい! 私の精神安定のために!」


 ロアが半ば叫びながら投げ渡したのは、角ウサギの毛皮と角を再構成して作り上げた、重厚感のある濃灰色のロングコートだ。

 シルはそれを片手で受け取ると、一切の無駄がない流れるような動作で袖を通した。ガチリ、と角を加工して作られた無骨なボタンが、彼の逞しい胸元で留められる。


『……ふむ。肌触りも悪くない。何より、お前の魔力が全身を包んでいるようで心地よいな』


 湯気の中に悠然と佇むシル。白銀の髪に、野性味溢れる毛皮のコート。その姿は、魔境に君臨する若き王のような気品と覇気に満ちていた。あまりの「の強さ」に、ロアは思わず目を逸らす。


(……うん、完璧。これで見なくていいものは隠れたわ。私の眼球デバイスもようやく保護された……)


 ロアは安堵の息を吐き、ようやく自分自身の着替えに着手した。

 温泉に入るまで纏っていた、油まみれの下女服を粒子化してパージ。代わりに、先ほどシルの抜け毛から紡ぎ出した白銀の布を呼び出す。構築するのは、白銀の毛皮をアクセントにあしらった機能美溢れるエンジニア・ドレスだ。


「ふぅ……。これでようやく、不純物を完全にパッチできたわ」


 清潔な布の感触に満足し、ロアはシルの元へ歩み寄る。だが、その距離が近づいて初めて、ロアはある「致命的な仕様漏れ」に気づき、足を止めた。


「……ねえ、シル。ちょっと確認なんだけど」

『なんだ、ロア』

「あなた、その……コートの下には、何か着てるわよね?」

『? 何を言っている。お前がくれたのはこれ一着だろう。他には何も纏っておらんが』


 事も無げに答えると、シルは「証拠を見せる」とばかりにさらりとコートの裾を翻した。

 隙間から覗くのは、紛れもない、先ほどロアが必死に視界から外したはずの、磨き上げられた「生身」の脚。さらにその上――。


「……ッ!!」


 ロアの顔面が音を立てて噴火した。


「暫定処置(応急処置)すぎたーーー!! アンダーウェアの実装を忘れてたわ!!」

『不服か? 俺はこのままでも動きやすいが。むしろ、いつでもお前の望む時に、この「遮蔽物」を排除できるぞ?』

「させないわよ!! 何が排除よ、物理的なセキュリティホールを晒して歩かないで!!」


「全裸」から「全裸にコート」へ。

 事態は改善したようでいて、むしろ「脱げばすぐそこ」という、より一層心臓に悪いシチュエーションへと進化(改悪)してしまった。前世の常識に照らせば、即通報レベル。間違いなく警察に捕まる不審者イケメンパターンだ。


「待ってて、今すぐインナーをビルドするから! 脱がないで! そのままフリーズ(停止)!!」

『いんなー……とは?』


 首を傾げるシルを放置し、ロアは悲鳴を上げながら、残りの角ウサギの端材をかき集めた。

 ところが、魔力と素材を振り分けて「ズボン」の設計図を組み上げようとした瞬間、足元に転がっている「それ」が視界に入り、ロアの眉間がピクリと跳ねる。

 そこにあるのは、先ほど脱ぎ捨てた、油と返り血に汚れ、ドブのような異臭を放つ、かつての作業着だった。


(……あんなもの、二度と触りたくない。見るだけで最悪な過去ログが蘇るわ。即刻焼却(デリート)処分ね)


 ロアが忌々しげに統括回路マスターキーを向け、分子分解のプロセスを起動しようとした、その時だ。


『待て。それを消すのは、あまりにリソースの無駄ではないか?』


 背後から、全裸にコートという際どい姿のシルが、ひょいと汚れた作業着を拾い上げた。


「ちょっと、シル! 汚いから触らないで! それはもう、私にとってはただの有害廃棄物なの!」

『有害? 冗談を。これにはお前の奮闘ログが刻まれている。何より、お前の……そう、人間でいう「におい」が最も濃く残っているではないか』


 シルは事も無げに、汚れた布を自らの鼻先に寄せ、深く吸い込んだ。その恍惚とした表情に、ロアの脳内回路がパニックで火花を散らす。


「やめてぇぇーーー!! 変態! 伝説の変態銀狼!!」

『……落ち着け。お前がそれを着るのが嫌なら、俺が貰い受けよう。ちょうど、その……「ずぼん」とやらが足りなくて困っていたところだろ? お前が』

「……え。それを、あなたが履くの?」


 ロアは毒気を抜かれた。

 自分にとっては「二度と見たくない虐げられた日々の象徴」でも、シルにとっては「愛しい番の一部」らしい。その黄金の瞳に宿る熱は、冗談でも嫌がらせでもなく、心底からその「ボロ布」を欲していることを物語っていた。


(……まあ、捨てて汚染源にするよりは、再利用リサイクルした方がマシ……かしら。シルが履くなら、私が着るわけじゃないし)


 ロアは深いため息をつき、渋々、統括回路の出力を切り替えた。


「……わかったわよ。そこまで言うなら、超・徹底洗浄と、分子構造の組み替えを条件に許可するわ。あなたのサイズに合わせて、繊維の一本一本までデバッグしてあげるから!」

『あぁ。頼む、ロア』


 ……数分後。

 最高出力の洗浄魔法と、ロアの精密なリメイク技術によって、ボロ布は「白銀のコートに調和する、上質なダークグレーのズボン」へと生まれ変わった。

 シルは満足げに、かつてロアの肌に触れていた生地を、今度は自らの逞しい脚へと通していく。


『……素晴らしい。お前に抱きしめられているような、強固な守護プロテクトを感じるぞ』

「……ただの古着リメイクだってば。……っていうか、私の服を履いた推しを直視するの、別の意味で精神的なデバフが凄まじいんだけど……」


 ロアの身体には、シルの毛並み。

 シルの腰には、ロアの服の記憶。

 物理的・魔力的にお互いの「所有物」を交換し合い、不可逆的な同期ペアリングを果たした二人は、奇妙な一体感を纏いながら、夕闇に包まれ始めた魔境の拠点へと足を踏み入れるのだった。





第7話をお読みいただきありがとうございました。

シルの「全裸にコート」という王者の風格(不審者スタイル)は、ロアの超高速リメイクによってなんとか回避されました。

しかし、自分の匂いのついた服を推しに履かせるという、オタクにとっての「最終試練」がロアを襲います。

次回、第8話。

拠点の防衛を固め、二人の関係はさらなるフェーズへと移行します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ