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魔境に追放されたエンジニア令嬢、統括回路一本で極楽温泉郷を築く 〜伝説の銀狼(推し)とホワイトに隠居します〜  作者: 櫻庭希翠


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第20話 眠れない二人きりの夜

いよいよ最終話です。

ここまでロアの奮闘と、神獣たちの「整い」を見守ってくださり、本当にありがとうございました!

魔境の全システムがフルリカバリ、最後はロアとシルの「最終的な契約」のお話となります。

全年齢の限界ギリギリ……もとい、シルの本気がロアを……(笑)。

最後まで、どうぞお楽しみください!

 特盛のスタミナガーリックステーキ丼を完食し、アズールがようやく一息ついたときだった。白銀の鱗を月光に光らせ、彼はふと、自分を抑え込んでいたシルと、その隣で「よしよし、デバッグ完了ね」と満足げに頷くロアを交互に見やった。


『……フェンリィ・シルヴァリウス・ヴォル・フォーリア。数百年ぶりに目覚めてみれば、ずいぶんと牙が丸くなったな。……それで、そこの小さな人間は誰だ? お前の――の『(つがい)』か?』


 シルの神獣としての真名を冠した、あまりに重厚な問い。

 ロアは「番」という言葉を「ただのユニット・パートナー」程度の意味で脳内変換しようとしたが、その前に周囲が動いた。


「ええ、アズール様! その通りです! 我らが神殿の主、ロア様こそがシルの番……というか、もはや神殿の女神ですよ!」


 バルトが親指を立てて爽やかに言い切ると、ジギが深く頷いて追撃する。


「そうですよ。毎日寝食共にされています! もはや疑う余地もありません」

「ちょ、ちょっと二人とも!? 語弊が……!」


 ロアが顔を真っ赤にして否定しようとしたが、アズールは興味深そうに目を細めた。


『ほう……。寝食ともに……ふむ、同じ床に伏しているのか。ならば、()はまだ居ぬのか? 知らなかったこととはいえ、我も祝福せねばならぬ。人との子とはいえ、銀狼の血を引く幼体ならば、この遺跡の魔力バランスを整えるのに最適だな』

「「「仔……!?」」」


 さすがに二人がまだその域に達していないことを知る者たちが一斉に吹き出し、ロアはオーバーヒートして耳から蒸気が出そうなほど赤くなった。


「アズール!! 私たちはまだ、そんな段階じゃないの! そもそも、種族としての互換性が――」

「種族? 我らは神獣ぞ。器を番に合わせることなど、造作もないこと。その証拠にフェンリィ・シルヴァリウス・ヴォル・フォーリアはお主と一体となるために同期機能をきちんと構築……」


 紳士の教育の過程でシルが人間の『雄』として、完璧な――それ以上の――同期機能を構築していることを知っているバルトとジギが思わせぶりに頷き合う。


「ロア様、そこは心配いりませんぞ! シル様ならしっかりと人間に合うよう『最適化』しております!」

「そうですよ、あれほどの立派な――いえ、ロア様。今さら仕様変更は効きませんよ!」


 騎士たちの容赦ない追撃。

 令和日本の腐女子知識に長けていたといえ。今世では、いくら虐げられていようとさすがに純粋培養の令嬢ロア。多すぎる情報にパニックに陥る中、隣で黙り込んでいたシルがようやく口を開いた。


「……ふん。アズール、余計な心配を。……仔については、これからロアとじっくり『検証』していく予定だ」

「ほう、じっくり……な」


 アズールがそう返すと、イグニスが首を傾げる。


「ん? 交尾は短時間で終えねば、危険だろうて」

「お前たち、人間のそれを知っているのか? 野生とは異なり、なかなか創意工夫に富んだ……」


 何を知っているのか、エリュシオンは目を細め、喉を鳴らす。


「し、シル! エリュちゃんまでーーー!?」


 シルたちの爆弾発言に、ロアの意識はもはやシャットダウン寸前。

 アズールは「……そうか。ならば良き仲を育め」と満足げに頷き、再び丼のタレを舐め始めた。いつもであればシルの暴走を止めに入るはずのマーサも、今日ばかりは「やれやれ」と微笑むだけで、知らんぷりである。


「マーサ……」


 すがるような思いで声をかける。


「アズール様含め神獣様たち全員に祝福を受けては、『寝食共に』されぬわけにはいきませんねぇ」


 ころころと笑いながら、マーサは去って行った。母のように慕った侍女を追おうとした足が、きゅっと音を立てて止まる。遠ざかるマーサの背中が、どこか安堵したように小さく震えているのに気づいたからだ。


 マーサは知っていたのだ。誰にも必要とされなかったロアが、今や最強の神獣たちを従え、この魔境で誰よりも愛され、守られる「女王」になったことを。

 彼女が防波堤であることをやめたのは、もう自分が盾にならなくても、シルが命懸けでロアを慈しみ抜くと確信したからに他ならない。


 ――こうして、逃げ場のない「外堀」が完璧に埋め立てられたのである。


 アズールが「水質管理マネージャー」に任命した、激動の一日が終わった。

 だが、ロアにとっての本番は、神殿が寝静まった後に訪れた。


 いつものように寝室に向かうロアの足取りは、かつてないほど重かった。


(……待って。今までも一緒に寝たことはあったけど、あんな話を聞いた後に……無理! 物理的に互換性が『最適化』済みだなんて、それって……それって、もう「事案」じゃない!?)


 令和日本で培った腐女子知識が、今のロアにとっては呪い――すなわちデバッグ不能なバグでしかなかった。脳内で勝手に再生される「神獣×令嬢」の異種婚姻譚シミュレーションログを振り払うように頭を振るが、あらぬ妄想によるオーバーヒートで顔の熱は上がる一方だ。


 部屋に入ると、すでに人型の姿になったシルが、ベッドの上で寛いでいた。

 緩くはだけたシャツから覗く鎖骨や、月の光を反射する銀髪。今のロアには、それらすべてが「雄」としての機能を研ぎ澄ませた、目に毒なフルHD・高解像度グラフィックに見えて仕方がない。


――ふと気が付く。その容貌、肢体の造形はかつての『推し』そのものだが、先ほどのバルトとジギの思わせぶりな反応が、不吉なエラーログのように脳裏をかすめた。


(もしかして、記憶の底にアーカイブしたはずの、あの腐女子のバイブルーー!)


 美青年たちと送る、めくるめく大人の濃ゆい恋物語。あの官能的なイメージが、すべてシルの「最適化機能」に同期されているのだとしたら……。


 一瞬にして血の気が引いた。今のシルは、ロアの理想を煮詰めた「最強の攻略対象」として、物理的なアップデートまで完了しているというのか。身体が震え、頭に血がのぼりはじめた。


『どうした、ロア。突っ立っていないで、早くこっちへ。……お前の場所だぞ』


 シルは事もなげに布団を捲る。その無防備――あるいは計算し尽くされた――誘いに、ロアの心拍数はついにレッドゾーンを突破した。

 

「あ、あのね、シル。改めて、改めて確認したいんだけど……。私、人間よ? あなた、伝説の魔獣なのよ? その……さっきアズールたちが言ってた、同期とか、最適化……って……」


 ロアが顔を真っ赤にして、しどろもどろに「仕様上の懸念」を口にすると、シルは一瞬だけ驚いたように目を見開き――それから、獲物を追い詰める狼の笑みを浮かべた。


『……ふん。お前がそんな心配を抱えていたとはな。安心しろ、ロア。俺は伝説の銀狼だ。お前を壊さぬよう、慈しみ、悦ばせるための最適化など造作もない』


シルは音もなくベッドから降りると、逃げようとしたロアの腰に腕を回し、背後から包み込んだ。


「……心配するな。お前の望む知識なら、ちゃんと蓄えておる」


 耳元で囁かれる、低く甘い声。


『それとも……もう、今ここで確認してみようか。 エリュシオンが言っていた「創意工夫」とやら……それはお前の記憶の中にあったものと相違ないか、一つずつ丁寧にお前の体に再現して……』


「ひゃいっ!? い、いいいいいい結構です! 今はまだ、ベータ版のテスト期間中だから! リリース前のバグ取りが必要だから!」


 ロアは裏返った声で叫び、耳まで真っ赤にして身悶えた。背中から伝わるシルの体温は、サウナの残り火どころではない。ロアを溶かし、自分という形に作り変えてしまいそうなほど、強固で熱い意思を持っていた。


『……くっ。……ははは!』


 ロアのパニックっぷりに、シルは堪えきれずに笑い声を上げた。だが、抱きしめる腕の力は緩めない。彼はロアをそのままベッドへ誘い、背中から抱きかかえるような形で収まった。


『お前は本当に面白いな。いいか、ロア。俺はお前のエンジニアとしての腕。だが、それ以上にお前という個体そのものに執着している。……この匂いも、体温も、加速する鼓動も、すべて俺のものだ』


 シルの大きな手が、ロアの手の指を絡めるようにして握る。かつての『推し』と同じ、長く節くれだった美しい指。それが、かつてバイブルで見た「めくるめくシーン」と同じ角度で自分を拘束していることに気づき、ロアの思考回路は完全にショートした。


『お前が覚悟を決めるまで、メンテナンス以上は待ってやる。だが、お前が誰かのものになるという選択肢は、俺のデータベースには存在しない。……いいな?』


その指先が、ロアのうなじを、まるで繊細な精密機器を検品するかのような手つきで、ゆっくりと撫で上げる。ぞくりと体中の毛が逆立つような、激震が走る。


「………………。了解(ラジャ)……」


 ロアはもはや、奮える声で肯定のログを返すのが精一杯。


「しかし、お前のイメージと現実の差異があってな。丹念にメンテナンスを行い、準備する必要がありそうなんだ」

「……差異? 丹……念……?」

「そう、仕様確認と言えばお前には伝わるのか?」


 含み笑いしながら、耳が食まれていく。


「ひっ……!?」

「これは、イグニスに教えてもらった。トカゲは番を噛み、逃げられないようにするそうでな……。安心しろ、お前が俺以外のデータを一切受け付けないよう、深く、刻み込んでやる」


 背中から伝わるシルの熱に、「これじゃあ、冷蔵庫どころか私の頭を冷やすデバイスが必要だわ……」と遠のく意識の中で思うのだった。


――魔境フェルフォート。


 かつての流刑地は、今や世界で最も「整った」愛の聖域へと、完全なアップデートを果たしたのである。




これで全年齢版の完結、といたします!

「エンジニアリング」と「サウナ」と「飯」という、自分の好きなものを詰め込んだ作品でしたが、ロアと一緒に魔境を走り抜けてくださった読者の皆様のおかげで、無事にハッピーエンドをデプロイすることができました。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

よろしければ、完結記念に評価や感想などをいただけますと、作者の「モチベーション回路」が跳ね上がります!

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