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魔境に追放されたエンジニア令嬢、統括回路一本で極楽温泉郷を築く 〜伝説の銀狼(推し)とホワイトに隠居します〜  作者: 櫻庭希翠


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第18話 サラマンダーの熱波と賢者を黙らせる悪魔のサ飯

※注1 空腹時の閲覧注意

※注2 サウナに行きたくなります


さて、サウナ後のキンキンに冷えたビールの勢いで隙だらけになったロアの様子もお届けします。

それでは第18話、アップデート開始です!

 

 桜焔(おうえん)の神殿に侍女マーサが加わり、再構築されたのは、ロアとシルの距離感だけではない。衣食住の環境が劇的に改善される中、一つだけ想定外の熱源によるバグが発生していた。


 原因は、マーサの料理に胃袋を完全掌握され、エリュシオン(猫様)と同じくこの神殿に居座ることを決めたサラマンダー(火トカゲ)の長だ。

 以前は脱皮の失敗(バグ)を繰り返していた彼だが、ここでの穏やかな生活とマーサの食事により、今やその鱗は最高画質と呼べるほどの輝きを放っている。だが……。


「……あー、ダメだ。地下の魔導回路を点検しに行くと、一気に汗が噴き出す。ジギ、お前もだろ?」

「ええ、バルトさん。あのサラマンダー、身体が熱くなってくると、のっそりと現れて、地下の湧き水ポイントへ移動してくるんですよ。そこで『じゅううぅぅっ!』と豪快に蒸気を上げるもんだから、地下エリアが常に熱帯の密林状態です」


 斥候ジギがぐったりと愚痴る。

 地下の冷却配管を点検するたびに、サラマンダーが放出する膨大な余剰熱量に晒され、彼らの体力が削り取られていたのだ。


 だが、その報告を聞いたロアの瞳が、ふとエンジニア特有の鋭い光を帯びた。


「……ねえ、ジギ。その『蒸気発生イベント』、どのくらいの周期で発生してる? あと周辺の平均温度と湿度のログは取ってるかしら」

「え? あ、はい。斥候の習慣として、過去の出現時間と温度変化は記録してますけど……」


 斥候の鏡である。ロアはジギから手渡されたログを、超高速で脳内演算(ビルド)し始めた。


(……平均三時間に一度の定期的な排熱。耐熱石材による高い断熱効率。そして湧き水による瞬間的な加湿。これ、未利用エネルギーの垂れ流しじゃない。つまり……!)


「これだわ!! サラマンダーさんを『熱源マネージャー』としてシステムに組み込めば、神殿に『魔導サウナ』……いえ、ロウリュが実装できるわよ!」

「……さうな?」

「ろうりゅ?」


 首を傾げる騎士たちを余所に、ロアは即座に地下へと駆け下りた。そこには、湧き水を浴びて気持ちよさそうに蒸気を上げているサラマンダーがいた。


「サラちゃん! その熱、ただ捨てちゃうのはもったいないわ。あなたの熱で、この神殿に最高の施設を作らせてくれない?」

「……ほう、最高の施設とな? そこまで我の熱を評価するか。しかしこんな狭い部屋に閉じ込めて、一体何をさせるつもりだ?」

「いいから、サラちゃんあなたはそこにいてくれればいいの。……はい、全員入って! あ、ゼノス様、魔導書は外に置いてきて」


 ロアの合図で、バルト、ジギ、ゼノス、人化したシルたちがゾロゾロとサウナ室へ入室する。ロアは特製の魔導バケツから、アロマを配合した薬草水をサラさんの背中にぶっかけた。


「さあ、バルトさんジギさん、最大出力で扇いでーーー!!」

「……っ!?」


 巨大な団扇(ロア製・耐火仕様)が振り回されると、超高温の蒸気が室内に吹き荒れた。


「 ぬおおおおお、我の炎を、このような湿った風に変えるとは――! 喰らえ、灼熱の咆哮!!」

「「「うおおおおおーーー!! 整う!! 整うぞこれぇ!!」」」

「そう、これこそ魔境の整い(フルリカバリ)よ!」


 男たちは絶叫しながらも、毛穴という毛穴から老廃物を排出していく。かつては一吠えで村を焼き払うと恐れられたサラマンダーの業火が、今や「完璧な湿度を管理するロウリュ」へと最適化されていた。


 サウナ室から退室し、ふらふらと水風呂代わりの湧き水へ向かう男たちを見送りながら、サラマンダーは誇らしげに火花混じりの鼻息を吹いた。


「……ふん。我の熱を、これほどまでに『感謝』というログに変換できるとはな。この仕事、悪くない」

「でしょ? ちなみに次はもう少し『遠赤外線効果』を上乗せするパッチを当ててみるわね……岩盤浴も検討の余地ありね」


 一方、その様子を窓の外から見ていたシル。


『……ロア。あの火トカゲまで、お前の役に立とうとしているな』

「ありがたいわぁ。最近素材を持って来てくれる魔獣さんが増えてるから、お返しにおもてなししたくて」


 ロアのイメージにあるのは、前世のスーパー銭湯だ。魔獣たちの巨大な体躯に合わせた聖域スパの構築。それは、持ち込まれる希少素材に見合うだけの価値ある対価だった。


「それにしても、サラちゃん。個別の名前はないの? サラマンダーって種族の名前よね?」

「我ら焔の眷属に個別の名は不要だ。我らは一にして全。ただの『焔』であればよい」


 サラマンダーは静かに告げたが、ロアは一歩も引かない。


「それじゃ不便だわ。今のあなたは大きな炎の一部じゃなくて、私の神殿で『熱源』を司ってくれる大切なパートナーなんだもの。私の好きな言葉にね、『働かざる者食うべからず』というのがあるの。あなたもここで働いて、胸を張って一緒にマーサのご飯を食べましょ!」

「……くくっ。……ははは! 神獣たる我を労働に従事させようとは、面白い人間だ」


 サラマンダーの巨躯が、歓喜するように赤味を帯びた黄金色に輝いた。


「いいだろう。ならば我を単なる現象ではなく、個としての『熱源』として定義しろ」

「ええ、喜んで! あなたの名前は、『イグニス』。今日からこの神殿の、特別な焔の総称(なまえ)よ!」


 こうして爆誕した魔導サウナは、またたく間に神殿の目玉施設となった。


「うおおお! バルト、もっとタオルを回せ! この蒸気を撹拌して『ロウリュ』を完成させるんだ!」

了解(ラジャ)! 騎士の豪風、受けてみろ!」


 バルトとジギは、ロアから任命された熱波師としての新たな職能に目覚め、無駄に高い身体能力で神殿内の整い効率を劇的にオーバークロックさせていく。


 一方、その様子をテラスから見ていたシルは、不機嫌そうに眉を寄せた。それはあたかも尻尾を床に叩きつけるような苛立ち。サウナ上がりのロアを逃がさぬよう、マーサの目を盗んでその細い腰を抱き寄せて言う。


「……ロア。サウナで熱されたお前の顔は、実に高発色で美しい」


 独占欲を隠そうともしないシルの忠犬モードっぷりに、傍らで用意されたばかりの『魔導電解質飲料(オロポ風)』を慎重に吟味していたエリュシオンは深いため息をついた。


「見苦しい犬だ……」


 毒づきながらも、エリュシオンの尻尾はゆったりと機嫌よげに揺れている。


「……。ふん、あのアホ犬に続き、火トカゲまで飼い慣らされるとはな。……だが、あのサウナの後の、この黄金の液体というのは、なかなかに良い」


 その光景を魔導書を開き、テラスでゆったりと眺めていた導師ゼノスはふと内心で苦笑した。


(……飼い慣らされている自覚がないのは、お主も同じよ、エリュシオン)


 だが、その言葉が口から漏れることはない。

 沈黙は時に金より価値がある。かつて貴族社会を渡り歩いてきた導師は、真理を探究する賢者であると同時に、非常に世俗的な処世術に長けた男でもあった。


(主が愛らしく、飯が旨く、そして施設がこれほどまでに『整って』いるのだ。……わざわざ波風を立てる必要などどこにあろうか)


 ゼノスは再び魔導書に目を落とすと、誰にも邪魔されぬよう、自分用に用意されたマーサの「サ飯」なるものを堪能しはじめる。

 メインは、ニンニク醤油の香りが暴力的なまでに鼻を突く『魔境産・猪豚のスタミナ爆弾丼』。厚切りのバラ肉に濃厚な卵黄が絡み、米が進んで止まらない。

 それを、イグニスの熱で黄金色に輝く『麦芽発酵冷却液(神殿仕込み生ビール)』とやらで一気に流し込む。


(ふぅ……。ロア殿いわく『喉越し』という名のログが、脳を直接書き換えていくようだわい……)


 そんな幸せな食卓の傍らで、一際熱暴走(オーバーヒート)している個体があった。ロアの隣を陣取る、シルである。

 サウナで芯まで温まった体にキンキンに冷えた酒を流し込んだ結果、ロアの脳内メモリは現在、制御不能なほどの幸福感(ドーパミン)で満たされている。

 普段の賢利な瞳はどこへやら、とろんと潤んだ瞳は焦点が定まらず、桜色の熱を帯びた頬は、白磁のような首筋から鎖骨のラインまで鮮やかに染まっていた。


「ん……しるぅ……。ここ、ひんやりしてて……最高効率の冷却ユニット……」


 熱い頬を、彫刻と見紛うほど見事な胸板にぴたりと寄せる。


「ん-……」

「……っ!?」


 その瞬間、動揺によってシルの人化魔法に致命的なバグが起きた。

 ボフンッ! という音と共に、銀色の大きな耳と、猛烈に左右に振れる尻尾が人の姿のまま突き出してしまう。


「ロ、ロア……! お前、自分が今……どれだけの苦行を俺に突きつけているか、分かっているのか!?」


 普段はキリッとしたエンジニア令嬢が、無防備に自分に甘え、しがみついてくる。腕の中にあるのは、桃のように色づいた柔らかい体。薄い着衣越しに伝わる体温と、首筋に触れる無自覚な指先。いまや顔を真っ赤にしているのはシルのほうだった。

 尻尾はもはや制御不能な速度でバタバタと床を叩き、シルの喉がくくりと狂おし気に鳴る。彼の理性が消去(パージ)されるまで、もはや数秒の猶予もない。


「ロア、動くな! これ以上、無防備なログを晒すと……」


 シルの瞳が捕食者のそれに変わる。独占欲という名の熱源が、冷却パッチを焼き切ろうとしていた。


「まったく……」


 バカ犬に苦言を呈そうと呆れ顔で近づいたエリュシオンだったが、シルの腕のなかで隙だらけなロアの様子を見て即座に後退した。今のロアは魔獣を刺激しすぎる。


「……ゼノス、行くぞ。これ以上は教育上……いや、野生の倫理上、良からぬ予感がする」


 エリュシオンに促され、ゼノスも「ふむ、これぞ青春のオーバーフローじゃな」と、ジョッキと魔導書を片手に速やかに撤退していった。


 静まり返った夜のテラス。

 月光に照らされたロアの肌は、シルの腕の中でさらにその熱を深めていくのだった。


 温泉、宿、サウナ、そして胃袋を掴んで離さないマーサの料理。

 桜焔(おうえん)の神殿は、魔境におけるパラダイスへとアップデートされたのである。


シルの『理性崩壊寸前』回でした(笑)

サウナで整い、美味しいご飯とお酒でプロテクトが外れたロアは、最強のデバッガーかもしれません。


次回のアップデートもお楽しみに!

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