繋編『怪奇Ⅱ』
夜の街を特徴的な音を轟かせ、赤を煌めかせ、パトカーが一つ、二つ、三つと疾走していく。
やがて、虹色に煌めく橋、レインボーブリッジを通過。大量のコンテナに囲まれた東京港にパトカーを停止させる。
『また。ですか』
そう呟いたのは、可憐な容姿をスーツに包み込み、黒い長髪を靡かせる霧島千冬であった。彼女が放った言葉は無意識に放たれたものであり、同時に怖気を震わせていた。
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『死因は、半凍死と半焼死?』
有り得ない。そんなニュアンスを込めて言葉を吐いたのは捜査一課の警部 三島快星であった。
特徴的な顎髭を右手でなぞり、眼前に倒れる変死体を双眸に収める。
『はい。今までの二件も似たような不可思議な殺害方法を犯人は使用していまして』
そんな、三島に有り得ると思える程の情報を霧島は与える。三島はそれを聞き、冷や汗を頬に伝わせながら鑑識からの情報を復唱する。
『葦原元太郎。54歳。無職。一件目、二件目の被害者と同じで、犯罪組織とも関わりがある、か』
復唱を終えると同時に、死体が放置されていたコンテナの中から退散。目の前に広がる海を眺め、霧島に尋ねる。
『この件、氷室のバカも一枚噛んでるんだろ。あいつは今、どこにいるんだ』
『現在は、同じく変死体が確認された現場を調査中です』
返答された言葉を聞くと、懐からタバコとライターを取り出し、手慣れた動作でタバコに火を付けた。
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『四課からの報告で、犯罪組織の構成員たちは現在、海外にいることが確認された』
警視庁の中にある一室。そこで、一人の強面の男は淡々と事実を語った。
『それじゃ、犯罪組織に消された線は、無くなったってわけか』
同室。ソファーに座る氷室は、額に右拳を当てて、語られた事実を受け止めるしかなかった。
どれだけ調べても、どれだけ考えても、どれだけ頑張っても、どれだけ尽くしても、結果は変わらない。
どれもこれも、有り得ない死であり、有り得てはならい非現実である。だが、実際にそれは現実を侵食し、大勢の人の命を奪っている。
犯人が誰であれ、人智を超え、常識を外れ、道を誤った人間なのは確かだ。
ーー誰なんだよ
枯れた心の声を、嘆かせ俯いた。
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『一旦、全部整理してみましょう』
大きな声を、一室に集まる人たちに轟かせ霧島が語りだそうとした瞬間だった。
『犯人は謎の殺害方法を好んで使い、大した痕跡も残さず今もどこかに潜んでいる』
言葉を繋ごうとした霧島の横から割り込み、簡潔にまとめたのは三島であった。
『私が言う筈の、、、』
言葉を一瞬にして奪われた霧島は不服そうに、顔を膨らませ三島を睨む。だが、三島の眼中には霧島はなく淡々と言葉を繋いだ。
『さらに、四課の協力で得た情報であることがわかった』
霧島を退かせると、前に出た三島が二の句を語りだす。それはまるで何事もなかったかのように自然であった。
『殺害された被害者は全七名。そして、その七名が犯罪組織に雇われた売人たちであることが分かった』
そう、被害者の七名は犯罪組織に雇われる売人。簡潔に言えば、麻薬を売って私服を肥やす犯罪者たちであった。
『そして、調査でわかったのが雇った売人たちの総数は九名。つまりーーー』
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『まだ、終わりじゃないって事だ』
同時刻、車の助手席に座る氷室はそう語った。
緒方は深刻に顔を歪ませながら、運転をする。
『となると、次のターゲットって』
『残っている二名の内のどちらかか、または両方一気に殺られる可能性すらある』
淡々と語る氷室は頬杖を付き、車の外の景色を眺める。そんな、事実を知った緒方は益々、表情を暗くしていく。そんな中、氷室はさらに語る。
『まぁ、どちみち。二人を見つけないと、不味い、、、、、』
繋いでいた言葉が急に途切れ、それを疑問に感じた緒方は声をかける。
『氷室さん?』
『恨まれる、か。緒方、麻薬を売った奴らのリストを三島のおっさんから貰ったよな』
『はっ、はい。頂いていますけど』
何かに気付いたのか、頬杖を解いた氷室は緒方のカバンから資料を漁り始める。緒方それを尻目に疑問を浮かべながら運転を続ける。
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『ここは?』
緒方が眼前に捉えたのは、錆びた鉄と黒に染められたボロ屋、レストランであった。
『氷室さん、ここは?』
『川西と大原がよく取引をする時に使っていたレストランだ。今は潰れちまってるがな』
必要事項だけを告げると氷室は、助手席から降りて背伸びをし、腰を捻り、骨を鳴らす。
『何か、ヒントがあれば良いですけど』
『あるさ。絶対に、何かはある筈だ』
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狭い廊下。照明が消えたり、付いたりを繰り返す中、氷室と緒方は警戒しながら前進する。
見渡す限り黒だらけ、前も、後も、右も、左も、上も、下も全部が黒だ。そして、鼻を刺激するのは、焦げついたかのような匂い。
警戒心が高まっていく中、黒が消える。
二人は顔を見合わせ、ここが最奥だということを悟る。
刹那、騒音が鉄の扉の先から鳴り響く。
二人は急な騒音に驚き、鉄の扉の方向を睨む。
氷室は、緒方とコンタクトを取り、鉄の扉の方向に近づく。
ーー恐る恐る。
ーー恐る恐る。
ーーおそる。おそる。
ーーオソル。オソ、ル。
手を伸ばし、鉄の扉に触れようとした瞬間だった。
『それは、やめといた方がいい』
二人の遥か後方から謎の声が現れる。二人は、一斉に振り向き臨戦態勢に入る。
後方。二人に声をかけた謎の存在、パーカーで顔を隠した不気味な男がそこに立ち尽くしていた。
『誰だ?』
氷室は問いかける。その不気味さに鳥肌が立ち、警戒心が最高潮に達するのを確認したうえで、その焦りを隠し、問いかけた。
『お前らの探し物だ』
数々の死体、数々の蛮行、数々の残虐、脳が蕩けていく。目の前で相対する男が、全ての元凶なのだから。
ーー沈黙
ーー沈黙
ーー沈黙
『ヒントどころか、答えそのものが出てきてくれるとは。てか、あっさり、認めるんだな』
『認めるよ。残り一人とお前らさえ殺せば、それでお終いなんだから」
緒方は、緊張が充満する空間で一つの疑問を思い浮かべる。
「残り、一人?』
『君たちはあの扉を開けなくて正解だったよ。開けてたら、大量の血で服が汚れちゃったかもしれないし』
パーカーで顔を隠した男は、隠しても見える不気味な笑顔を二人に見せつけた。
氷室は咄嗟にその右の拳を、振り抜いていた。
が、手応えが全くなく、伸ばした右腕が水に浸かるような感覚を覚える。
止まっていたのだ。パーカーで顔を隠した男の眼前で。そして、男がゆっくりと腕を振り上げた瞬間だった。二人は謎の衝撃に襲われて壁際まで吹き飛ばされる。
壁に背中から思い切りぶつかり、二人は苦悶とともに転がる。全身が悲鳴を上げ、呼気を荒くする。
『一体、なに、をっ』
痛みに耐えながら、目の前に立つ威容に氷室は尋ねる。
『死地に立たなければ、分からないこともあるということさ』
冷酷に告げられたのは、答えにならない答え。さらに、告げられたのはーーーーーーー
『悪いが、君たちを殺すのは俺じゃない。彼らだ』
吹き飛ばされた二人を背に、呼び寄せたのは不気味に白目を剥いた男たちであった。
痛みを堪え立ち上がる氷室と緒方は尋ねるまでもなく奴らが何なのか理解できた。
ーー敵
右から一人、降りかかる拳を氷室は左に受け流し、関節部分を固定、空中に引っ張り地面に叩きつける。
だが、敵は一人じゃない。迫る強烈な蹴りを氷室は膝を折り回避。そのまま、左手を地面に付けてバランスを取り、突き出した右足の一撃を脇腹に叩き込む。
視界の外、迫る脅威を緒方がさばく。ナイフを持つ男の懐に入り込み両手首を固定する。そして、右足の蹴り払いでバランスを崩させ顔面に一撃、膝蹴りを叩き込む。
数秒の制圧劇。しかし、その数秒で男は消えた。
まるで、テレポーテーション、夢を見ているみたいなそんな感覚だった。
そして、脳裏に過るのはーー
ーー残り一人
ーー最悪だった。
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