前編『怪死』
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もしも人類の進化が想像以上に早かったら…
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神が人類を生み出した時、どんな気分だったのだろう。
何を望んだのだろう。
何を見たかったのだろう。
何をしたかったのだろう。
この物語は、あくまで過程にすぎない。
いつか、辿り着く神の領域までの過程だ。
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暗い。暗い闇が空を覆い、人気も無く、街灯が微かに闇の中で光を煌めかせ、寒い風が吹き荒れる夜であった。
『まっ、待てよ。お、おっ、俺はそんな風にお前を扱ったわけじゃぁ、ない、い、い、い、い、い、い、ゃいいァ、いいい、いいいいいいい、やぁべろぉ!』
ーーぐちゃ
そんな、深い闇の世界に紅が灯された
『はぁ。はぁ。あはは、あっははははっ!』
それを、やってのけたパーカーで顔を隠した男は荒い息吐の後、闇と紅に染まる世界で、一人、狂気を溢れさせて笑い転げた。
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この日、氷室正道は人生最大の窮地に立たされていた。
ーーまずい。
年も明け、一月も終盤、気付けば二月に入りかけという時期なのに寒さが止まず、寧ろ寒くなり続けている新年。
ーー新年早々、不吉な事が起きるとは益々、ついてねぇな。
などと、御託を並べる、その男は腕を組み只管、この状況をどう切り抜けるか脳をフル回転させていた。
ーー遅れたら警部に怒鳴られるよなぁ〜
そこに、別の不安も飛び込んでくる。
右に、左に頭を捻らせ、思考を巡らせ考え続ける。
ーー仕方ねぇ。最終手段を使うか
誰にも聞こえないほどに小さく呟くと、氷室は右ポケットからスマホを取り出し、メールを送る。送信先は、最終手段というなのーーーー
『すいません。氷室さん、道が混んでて』
数分後、氷室の前に現れたのは高そうなスーツと黒いメガネををかけた、如何にも頭が良さそうな優男。
腰を折り、綺麗な角度でお辞儀をする。
『あぁ、良いんだよ。そんで、単刀直入で悪いんだけどお金、貸してくれねぇ?』
数秒の沈黙の後、口を開いたのは氷室の眼前に立つ、メガネの後輩くんであった。その顔は、呆れているのか、苦笑いなのか、半々な感情を巡らせ、出力させたものだろう。
『今年も、ですか?』
『今年も、だな』
再度、数秒の沈黙、次に口を開いたのは氷室であった。気まずそうに右の人差し指で頬を掻き、苦笑いを浮かべる。
『いや、その、、、、言い訳して良いか?』
『ダメです』
『だよな』
口にした言葉は刹那に却下、半々の感情を面に出し続けていたメガネの後輩くんも限界に達したのだろう。
『先輩と知り合ってから三年も経ちますが、本当に変わりませんね』
『いや、本当に悪りぃと思ってるよ!?』
『その言葉を聞くのも初めてじゃないんですけど』
逆鱗に触れたのか、言葉選びに失敗したのか、更に気まずい空気になってしまったと悟った氷室は最後の手段に出る。
『せっ、先輩!』
『頼ぉーむ!この通りだ』
深々と地面に頭を擦り付け、腰を綺麗に曲げ、両の手足を屈み込ませる。
別にそれ自体に今さら、驚く事はない。何度もあったから。でも、今回は違う。
老若男女が混じり合い、大勢いる公共の場で素晴らしい土下座を披露したのだ。
刮目。
まさにそう、刮目した。誰もが恥を捨て、恥を知らぬ者の躍動を目にしたのだ。
故に、超至近距離にいるメガネの後輩くんは、恥をかいた。
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『警察官がファミレスで土下座なんて、二度としないでくださいね!』
長い廊下、ドアが彼方此方に存在する空間をファミレスから退出した二人が早歩きで進んでいた。
『悪りぃって、緒方。でも、土下座でもしないと、お金払ってくれなかったろ?』
『先輩にもう少し、器用さと申し訳なさがあったなら、普通に払いましたよ。何でいつも財布を忘れて行きますかね』
そんな事を口走りながら、後輩、緒方は氷室の前を歩き続ける。そして、数秒もしない内に足を止め、立ち止まり、一つのドアを睨む。
『遅れた理由は先輩にあるんですから、しっかり怒られるように』
『わかってるよ』
部屋に入る前に、氷室の方を向き忠告を促す。それに対する氷室の回答は、不貞腐れた返事だけであった。それに、またまた、呆れた緒方は吐息。
それから、三度のノックを丁重に、丁寧にした後、ドアノブを握る。そして、声を振り絞った。
『失礼します。遅れて申し訳ありません』
緒方は振り絞った声に、恐縮した言葉を乗せて、入室した。それに、続くようにして氷室も軽い会釈と共に入室した。
『遅刻だ。一体何をしていたのだ?』
目の前の長机の一番奥側に座るのは、強面で、巨躯な、男性警察官。声を掛けてきた張本人だ。そして、もう一人。
可憐な容姿をスーツで包み、整った顔立ちと黒の長髪を靡かせる女性警察官が一人、佇んでいた。
『あぁ、それは俺から話しますよ。警部』
前に立つ緒方を退け、前に出た氷室は淡々と口を開いた。
『少女が一人で居たんで、話しかけてみたんすけど迷子だったんですよ。それで、その子を親に届けてたら遅れちゃって』
『嘘だろ』
『嘘ですね』
『嘘ですよ』
警部、女性警官、緒方の順に、三人右に同じと言わんばかりに否定してきた。
『何で、信じてくれないんすか?』
『その言い訳は、三日前に聞いたからだ』
沈黙。既視感がある沈黙が室内を一気に凍り付かせた。警部と目線を合わせていた氷室は気まずそうに女性警官の方を見て問いかける。
『本当に信じてくれないんすか。霧島さん?』
『はい。残念ですが無理ですね』
満面な笑顔、整った顔立ちだからか綺麗すぎて、もう良いやと思いかけてしまった。
ーーいや、もう良いか。
『そんじゃ。茶番はここまでで本題に入りましょう』
ぐるぐる思考を回し続けるのは辞めて、諦めることにした。そして、露骨に話をずらし、話を進めることにした。
その魂胆を見抜いた三人は呆れた顔で氷室を見つめるも、これ以上は時間の無駄として、頷くことにした。
『それじゃ、本題に入りますよ。今日の午前9時7分の代々木公園で妙な死体が発見されました』
沈黙が冷めない中、周りを伺いながら最初に口を開いたのは、霧島であった。
『妙な死体?』
氷室は訝しげに疑問を口にする。緒方もその言葉に賛同して、首を傾げる。
警部は二人の疑問に答える為に、霧島に画像を見せるように指示した。するとスクリーンに映されたのは代々木公園で発見された例の妙な死体。
二人は双眸を見開き、刮目した。
それは、ナイフで刺されたり、硬い棒で殴打されたり、燃やされたり、凍らされたり、水没させられたりして起きることでは決してなかったからだ。
『、、、マジか』
スクリーンに映し出されたのは池の中心部の空中で首が逆方向に回転し、四肢が捥げ、落下しない血飛沫が空中で散漫した変死体であった。
『ロープで吊り上げられたりは?』
『池の中心部ですから、ロープで吊るのは不可能だと思います』
霧島は淡々と氷室の疑問をさばき、ベストな回答を返球する。しかし、霧島も未だに信じられないという顔を前面に出していた。
『じゃあ、一体これは?』
『今回は、それを調べるのが我々の仕事だ』
人類は進化している。
今も、昔も、未来も、進化し続けている。
だが、進化の先にある、その力が齎すものが必ずとも平和とは限らないし、混沌とも限らない。
この世界はその進化が混沌に傾いてしまった結果が招く悲惨を描く。
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P.S.
前編『怪死』はここまで、良ければ中編も見ていってください。
↓こんな人たちだよ。
氷室正道
警視庁捜査一課の警部補。作中では、あんな感じだが根は不器用ながら真っ直ぐな正義を貫いている。
緒方健斗
警視庁捜査一課の巡査部長。三年前に捜査一課に加入し氷室と知り合った。真面目で正義感が強い性格をしている。
『面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。
間違えなどが有ればどんどん、指摘してください。』




