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カウントJK KAORI ~単位をまとったふたりの助数詞戦士~

作者: 下東 良雄

 土埃舞う冷たく乾いた風がふたりを包む。

 セーラー服を身にまとい、長い黒髪をなびかせるカウントJK・香織。

 そして、相対(あいたい)するのは最強のカウントバトラーである父親だ。


「香織、お前にワシは倒せん……」

「やってみなけりゃ分からないだろ」

「やめておけ。若い命を無駄にするな……」

「私はアンタを倒して……最強のカウントバトラーになる!」

「……やってみろ!」


 最強の座を賭けたふたりの戦いが始まる。

 その攻撃は父親から口火を切った。

 身軽な香織は素早く動きながら、父親の攻撃をかわしていく。


「机!」

(きゃく)!」


「傘!」

(はり)!」


剃刀(かみそり)!」

(ちょう)!」


(くし)!」

(まい)!」


箪笥(たんす)!」

(さお)!」


 にやりと笑う香織。

 父親の『身近なものスラッシュ』のすべてを難なくかわした。


「……勉強してきたようだな」

「ふんっ、次はこっちの番だよ!」


 攻守逆転、高く飛び上がった香織から『寺社仏閣ハリケーン』が展開された!


「寺院!」

(どう)!」

※『()』や『()』も助数詞として使われています。


「神社!」

()!」

※『(しゃ)』も助数詞として使われています。


「鳥居!」

()!」


「地蔵!」

(そん)!」


「神様!」

(はしら)!」


 着地した香織は、そのまま地面を転がりながら、畳み掛けるように父親へ攻撃を浴びせる。


「羽織!」

(りょう)!」

※『(まい)』も助数詞として使われています。


(はかま)!」

()!」


 態勢を整えた香織は、厳しい表情を浮かべる。

 最後の『羽織袴ボンバー』が通用しなかったのは想定外。

 これをフィニッシュブローとする腹積もりだったのだ。


「……ワシにそんな技は通用せん」

「うっ……」


 香織の額に一筋の汗が流れる。


「娘よ……引導を渡してやる!」

「……来るっ!」


 防御態勢を取る香織に、父親の容赦無い『食品関係マグナム』が炸裂する。


「イカやタコ!」

(はい)!」

※食品としては『(はい)』ですが、生物として数えるときは『(ひき)』になります。


「エビ!」

()!」

※『(とう)』も助数詞として使われています。


「昆布!」

(れん)!」


 父親の無慈悲な『海鮮食品ラッシュ』。

 ここで父親のフィニッシュブロー『ウニ三段活用』が唸った。


「ウニ!」

(はら)!」


「殻付きウニ!」

(つぼ)!」


「トゲトゲの状態のウニ!」

百足(そく)!」


 父親のフィニッシュブローを何とかかわし切った香織は安堵した。

 しかし、父親は一段上をいっていた。

 油断する香織に用意していたとどめを炸裂させる。


羊羹(ようかん)!」

「……よ、羊羹!?」


 突然の菓子の登場に、香織の思考が一瞬止まった。


「どうした、羊羹だ。答えてみせよ」


 父親を睨みつけながら、香織の脳がフルドライブする。

 しかし、答えは出てこない。

 身体を震わせつつ、必死で言葉を紡ぐ香織。


「……か……(かん)……?」


 急速に空が黒雲に包まれていった。

 そして、空気を切り裂くような雷光が走る。


「バカモン!」


 父親の怒号と雷光に香織は腰を抜かした。


「正解は『(さお)』じゃ!」


 あまりにも見事な『食品関係マグナム』。

 『海鮮食品ラッシュ』からの『ウニ三段活用』、そしてまさかの『羊羹』という変則的な攻撃に、香織は()(すべ)がなかった。


「……よいか、香織。我々助数詞戦士(カウントバトラー)は、どんなものであっても正確に数えられることが求められるのだ。助数詞という文化の重み、単位の重みをお前はまだ分かっておらん」


 父親の言葉に、地面に突っ伏して悔しがる香織。


「……出直してこい。挑戦はいつでも受けてやる」


 そういうと、父親は香織に背を向けてゆっくりと去っていく。

 顔を上げて父親の背中を見つめる香織。


「最強のカウントバトラー……きっと……きっとあなたという大きな壁を乗り越えて見せる!」


 香織は悔し涙を零しながら、父親の背中に誓った。








 そんな庭の様子を縁側で見ている香織の母親と弟。


「お母さん……またあのふたり……」

「…………」


 真顔で無言の母親。

 その手には大きなボストンバッグがあった。

 弟も大きなバックパックを背負っている。


「……お母さん、行こう……」


 弟は母親の手を引いて、家を出ていった。


 弟は青空に誓う。

 将来公務員になって平穏な普通の家庭を築くと。



挿絵(By みてみん)





※作品中の助数詞・単位につきましては、ネット上の情報を参考にしております。

 地域によっても数え方が違ったりするようですので、広い心でお読みいただけましたら幸いに存じます。



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