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夜の街に揺蕩う光

……といってもこんな夜更けに街案内なんて、酔狂のようなことをする人間なんてそうそういない者だ。そもそも今は午後も11時、空いている店のほうが少ないのではないか。

とりあえず開いている店…開いている店…。どうしてもコンビニぐらいしか思いつかない。


「やっぱコンビニぐらいしか今の時間開いてないんじゃない?」

「コンビニ?全然いいよ!いこ!」


「“とびきり楽しいとこ”からは大分かけ離れているように見えるけどいいのかい?」

「いいのいいの!わたしはとにかくここについて知りたいのさ~!」


コンビニなんてどこにでもあるのに、やけに嬉しそうにわくわくとし始めるぼうしちゃん。

…まあ、夜の冒険なんて雰囲気いつもと違うし何をするにも楽しいと思う。実際僕も小学生の頃よく夕方の”よいこはおうちへかえりましょう”の放送後に、当時つるんでいた友達と隣町まで自転車こいで大冒険をしていた気になっていたしな。


「OK、じゃあとりあえずコンビニまでのんびり散歩してどうするか考えよう」

「うん!楽しみ!」


コンビニへの長い旅は一瞬だった。なんせ郊外と言へども都心まで電車で一本の街なものだから、コンビニなんて少し歩けばそこら辺にある。

いらっしゃいませー。と深夜の気だるげなバイトさんの声が聞こえてくる。それとは対照的にぼうしちゃんはきらきらと目を輝かせているように見える。さすがにちょっと滑稽なようにも見えた気がしたので、


「いまさらこんなコンビニでそんなわくわくすることあるか?」

…と一言。

ぼうしちゃんははっとしたような顔でこちらを覗き込んだのも一瞬で、すぐに顔色を変えて、

「ああ、ごめんごめん!実はわたしのいままで住んでいたところってここからすごーーく遠いところだったんだけどね、最近特別な縁で初めてこんな都会に来たから、つい」


てへへ、と恥ずかしそうに照れるぼうしちゃん。なるほど、都会探検がしたかったのか。確かにずっと田舎暮らしならコンビニの品ぞろえもだいぶ違うだろうしそもそもコンビニがない場所なんてのも探せばいくらでもあるだろうからな。それにあの丘はこの街の中で唯一小高くなっていてこの静かな町が簡単に見渡せる。夜の一人散歩で偶然あの丘を見つけてさまよっていたところを僕に出会ったのだろう。とそこで僕は思いついた。


「そうか、なら駅前の商店街でも見てみるか?」


ぼうしちゃんが都会を知りたくて出かけていたということは別に彼女にとっての”とびきり楽しいとこ”はなにも娯楽施設でなくていいのだ。それならば駅前の商店街は田舎暮らしの彼女にとって珍しい体験であるに違いない。加えて夜の駅前はあまり治安がいいとも言えない。男の自分が付いているうちに軽く見に行った方が、後々彼女が後でひとりでふらっと商店街に来た時裏路地のネオンなどにつられて事件などに逢ってしまうよりはいいだろう。


「いいね!行こ!」

そうやって考え込む僕を脇目にぼうしちゃんは僕の手を引いてコンビニの出入り口に向かった。


そんなこんなで商店街への道中、ふと思い出したがまだ僕は未成年だということに気づいた。近所の散歩や丘に行くぶんにはいいかもしれないが、駅前に行くとなると人通りも多いし治安もここより悪い分、警官も多いだろうし補導されるかもしれない。不登校の身であるので両親には迷惑はかけたくないが…

ぼうしちゃんは何歳なのだろう。ぼうしちゃんが18歳以上であれば合法的に駅前をうろつけるのだが、ちょっと姉さんっ気があるような姿からは大人の雰囲気がするし、でもそのどこかふしぎで天真爛漫な性格からは幼さも垣間見える。


「そういえばさ、」

「なんだい少年よ」

ちょっと冗談めかして答えてくるぼうしちゃん。


「ぼうしちゃんって今何歳なの?」

…と聞くと

「ぼうしちゃん…?あ、もしかしてわたしのことぼうしちゃんって名付けたのかい~?一瞬なんのことかわからなかったよ~!」


失念していた。勝手に僕がぼうしちゃんと名付けただけであって、このつかみどころのない少女の名をぼうしちゃんと決めて心で呼んでいたことがばれてしまった。


「あっごめん、まだ名前も聞いてなかったよね」

「いーよいーよ!そのぼうしちゃんってわたしがぼうしかぶってるからだよね?いーじゃんかわいくて!その名前でこれからも呼んでいいよ?」


ちょっとくらいいじられるかと思ったが意外にもその反応は喜んでいそうだったので少々面食らった。


「で、でも、呼び方なんてもっといいのがいっぱい…」

「いーのいーの、私はこんな呼び方なんて貰う機会、この方無かったしね!あーあ、わたしも友達とかたくさんいたらよかったのになあ」


ぼうしちゃんなら友達くらいできそうだが…と思ったところで思いだした。彼女は田舎から来たのだ。ニュースでよく廃坑危機の数人しかいない小中学校とか聞くもんな…

そう考えると郊外とはいえ首都圏に住んでいる自分がなんだか恵まれているような気がした。生まれる機会ってたしかにこう考えてみると重要だ。


「あと年齢だけど、わたしはあんまり年齢について考えたことなかったなあ。遠い地で一人でいると年齢なんて気にしないでしょ?」

「たしかに祝う相手も祝われる相手もいないと気にしなくなるよな」

田舎ってそう考えると寂しいな。都会ってやっぱ恵まれてるんだなあ…と本日二度目の再認識をした。

「というか…、あっ、ネオンが見えたよ!」


数分後、商店街につくと、案の定ぼうしちゃんは目をキラキラさせながら両サイドに並ぶ店を興味深そうに眺めていた。

____まあ、ほとんど営業時間外で人気のない店に電源がつけっぱしな看板のネオンだけが不釣り合いに目立っている。残りは会社帰りのサラリーマンが憩いの場を求め集まっている数件の飲み屋だけか。あたたかな雰囲気の漂う飲み屋とどこか不気味なネオンがディストピア感を演出している。


その後三十分ほど一通り商店街と駅前を散歩して丘に戻ってきた。

最初はぼうしちゃんの提案に疑っていた僕も、普段町の見慣れないところを再発見できていつのまにか楽しくなっていた。


別れ際。

「ね、リフレッシュはできた?」

「今は、ね。普段の代わり映えしない無機質な生活に色が入ったようだよ。」


ぼうしちゃんのおかげで一瞬だけ、何か失ったものを取り戻せたようにも感じたような気がしたが、そんな感覚もすぐに黒い感情に飲まれる。明日からはまたその無機質な生活に体を侵食されそうな気がして、先行きの見えない不安が身に立ち込める。


「まだ悩んでいるようだね。少年。」

ぼうしちゃんは今までの雰囲気とは一転、何かを射抜くような、達観した目で僕のことを見つめてきた。そして次に発したぼうしちゃんの言葉は僕の想定しないものであった。


「少年よ。……」



デート回?です

恋愛要素は入れない予定です、、、!

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