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純文学&ヒューマンドラマの棚

いつかの君とならんで銀杏並木を散歩する

作者: 徳田タクト



 黄金色に染まる銀杏並木。

 わしは独り、その並木道を歩く。


「この時期のここの銀杏は、本当に美しいですね」


 柳煤竹色やなぎすすたけいろの羽織の袖に手を入れ、ひらりひらりと舞落ちる銀杏の葉を見上げながら散歩していると。


「……ん?」


 ブワッと突風が吹き、銀杏の葉が舞い踊る。その向こうに、誰かが立っていた。着物を着た女性だ。その女性はくるりと私の方に振り向いた。その顔には、何故か狐の面をしていた。


「こんにちは」


 その女性ひとは、私に挨拶した。私も「こんにちは」と返した。


「ここの銀杏並木、毎年綺麗ですよね」

「そうですね、もう昔から……わしが若い頃から、ここの並木道は変わらないですね。この時期になると、綺麗な金色に染まりますね」

「あの……もし宜しければ、一緒に散歩していいですか?」


 と、狐の面をした女性が私に聴いてきた。

 わしはくすりと笑い。


「……ああ、わしの方こそ、宜しくお願いします」


 そう言ってわしは、女性と一緒に並んで黄金色の銀杏並木を歩き進めた。



 さくりさくり。

 黄金色の絨毯の上を、狐の面を被った不思議な女性と並んで歩く。


「……子供たちは元気?」

「ああ、娘も息子も元気ですよ。孫らをつれてよく遊びに来てくれます」

「貴方は元気?私が居なくなってからは、暫く塞ぎ込んでいたみたいだけど」

「君が亡くなって十年ですからね。今は多少は元気になってますよ」


 自然に。

 わしは、君の手を握る。


「……何で若い頃の姿で現れるんですか?お陰で直ぐに気づけませんでしたよ」

「あら、どうせ化けて出るなら若い方が良いじゃない」

「そういうものですかね~。わしは艶やかな頃の君も、白髪交じりの上品な女性の君も大好きですけど」

「……ほんと変わらないですね、貴方は」

「……変わらないですよ。君と結婚した時から、ずっと」


 きゅっと、君の手を握る。

 細くて冷たい君の手。

 いつまでも愛しい君の手。

 できることならこのまま握っていたい、けど──


「ごめんなさい、そろそろ戻らないと」

「また、来年も会えるかな?」

「約束はできないわ」

「そうですか……」


 惜しみながら、握る君の手を離す。


「じゃあまたね、貴方」

「ああ……」


 ブアッ──


 突風が吹き、銀杏の葉がくるりくるりと君を包む。


「愛しています一葉かずはさん。また、きっと──」


「私も銀治ぎんじさんのこと、愛しています──」


 君の声は銀杏並木の向こうの空へ──天へと、溶けていった。



 君の手を握っていた方の掌には、一枚の黄金色の銀杏の葉が乗っていた──……




 

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― 新着の感想 ―
良いっ!! 良いっ!!! 千字以内なのに雰囲気があって、凄く素敵ですね~♡ 異種族間恋愛? 違う……。あぁ、きっと、奥さんのお祖母さんと夫婦だったのだ。 ただ、言及されてませんので、アチラの世から舞い…
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