いつかの君とならんで銀杏並木を散歩する
黄金色に染まる銀杏並木。
わしは独り、その並木道を歩く。
「この時期のここの銀杏は、本当に美しいですね」
柳煤竹色の羽織の袖に手を入れ、ひらりひらりと舞落ちる銀杏の葉を見上げながら散歩していると。
「……ん?」
ブワッと突風が吹き、銀杏の葉が舞い踊る。その向こうに、誰かが立っていた。着物を着た女性だ。その女性はくるりと私の方に振り向いた。その顔には、何故か狐の面をしていた。
「こんにちは」
その女性は、私に挨拶した。私も「こんにちは」と返した。
「ここの銀杏並木、毎年綺麗ですよね」
「そうですね、もう昔から……わしが若い頃から、ここの並木道は変わらないですね。この時期になると、綺麗な金色に染まりますね」
「あの……もし宜しければ、一緒に散歩していいですか?」
と、狐の面をした女性が私に聴いてきた。
わしはくすりと笑い。
「……ああ、わしの方こそ、宜しくお願いします」
そう言ってわしは、女性と一緒に並んで黄金色の銀杏並木を歩き進めた。
◆
さくりさくり。
黄金色の絨毯の上を、狐の面を被った不思議な女性と並んで歩く。
「……子供たちは元気?」
「ああ、娘も息子も元気ですよ。孫らをつれてよく遊びに来てくれます」
「貴方は元気?私が居なくなってからは、暫く塞ぎ込んでいたみたいだけど」
「君が亡くなって十年ですからね。今は多少は元気になってますよ」
自然に。
わしは、君の手を握る。
「……何で若い頃の姿で現れるんですか?お陰で直ぐに気づけませんでしたよ」
「あら、どうせ化けて出るなら若い方が良いじゃない」
「そういうものですかね~。わしは艶やかな頃の君も、白髪交じりの上品な女性の君も大好きですけど」
「……ほんと変わらないですね、貴方は」
「……変わらないですよ。君と結婚した時から、ずっと」
きゅっと、君の手を握る。
細くて冷たい君の手。
いつまでも愛しい君の手。
できることならこのまま握っていたい、けど──
「ごめんなさい、そろそろ戻らないと」
「また、来年も会えるかな?」
「約束はできないわ」
「そうですか……」
惜しみながら、握る君の手を離す。
「じゃあまたね、貴方」
「ああ……」
ブアッ──
突風が吹き、銀杏の葉がくるりくるりと君を包む。
「愛しています一葉さん。また、きっと──」
「私も銀治さんのこと、愛しています──」
君の声は銀杏並木の向こうの空へ──天へと、溶けていった。
君の手を握っていた方の掌には、一枚の黄金色の銀杏の葉が乗っていた──……