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Mirror to mirror  作者: おどろ木とどろ木
6/6

Episode 1.因果関係(6)記憶の中で

10月16日月曜日17:33


 篠宮礼奈しのみやれなは、焦っている。

 小太りの男性を朝から探しているというのに、まだ見つかっていない。

 仕方がないので、火災が起きる駅を探している。同じ路線の駅は似ているが、少しずつ特徴が違う。一つ一つ駅を降りて、夢で見た駅の特徴と比較していく。礼奈は市田橋いちだばしで電車から降りる。おそらくこの市田橋いちだばし駅で間違いない。


 しかし、ここで待っていても来るのは、この事件を起こす犯人であって、私が殺すべきターゲット、小太りの男性ではないかもしれない。いや、その可能性が高い。もはや小太りの男性を探し出すのは不可能に近い。少ない望みをかけて、直接の原因となるだろう夢に出てきたもう一人の「細身の男性」にターゲットを変えることにする。

 

 それにもう時間がない。夢を見た後に確認した時間は朝の05:45だった。

 ということは、12時間後の17時45分までにターゲットを殺して、「きっかけ」が生じることを防がなければならない。直接の原因である者を殺してもなぜか失敗判定になることが多い。何度か試した。しかし、うまくいくことある。今回はこれに賭けるしかない。


 礼奈は、市田橋駅のホームでターゲットの細身の男性を探す。

 人が多すぎて、その男性が近くにいても気付きそうにない。

 ホームに電車が入ってくる。電車のドアが開く。


 そのとき、礼奈の右目が青く光る。

 誰もが動きを止める。

 自販機横のダストボックスに入れられた空き缶が、袋の中に落ちずに空中に漂ったまま動きを止めている。

 

 時間が止まっているのだ。


 その瞬間、礼奈は走り出す。時間は1分しかない。この1分だけでもホームの端から端まで走って探すには十分だ。ホームの雑踏の中をするりとすり抜けるように走りながら、ホームと車内の両方を効率よく探す。 

 「いた!」

 電車の中でつり革につかまってスマホをいじっている「小太りの男性」を見つける。「小太りの男性」をあきらめて「細身の男性」を探していたというのに、結果オーライだ!すぐさま小太りの男性を観察する。この駅では降りないようだ。

 「これで間に合う。」

 礼奈はすぐに時間が止まる前の位置に戻る。腕時計の時間を確認する。17:35。

 礼奈の目の青い光が消える。

 時間が進む。誰もが動き出す。空き缶も袋の中に落ちる。


 電車の発車ベルがなる。礼奈は素早く電車に乗る。ドアが閉まる。電車が動き出す。後方車両へ少しずつ移動し小太りの男性と同じ車両まで移ってきた。

 また、腕時計を確認する。次に能力が使えるのは10分後の17:45。ギリギリだ。間に合う…!?


 小太りの男性はいじっていたスマホをポケットにしまい、車内の電光掲示板を見る。

「次は神坂駅に停車します。」

 その男性が電車を降りる。すぐに礼奈も降りる。まだ17:40。

 その男性は、改札を出て地下通路を歩きだす。礼奈も5m離れて後をつける。

 A2出口のエスカレーターに小太りの男性が乗る。礼奈も少し離れて乗る。17:42。

 隣の階段は下っていく人であふれかえる。エスカレーターの右肩方も東京では珍しく歩き出さずに立ち止まって進んでいく。エスカレーターの出口に差し掛かり、礼奈は地上のA2出口で男性を見失う。

 右に行ったの…?左に行ったの…?まずい!

 一か八か右に走り出す。100mほど走ってもあの男性が見当たらない。

 「外した!」

 すぐに踵を返して、もとの場所へ走って戻る。そのとき、道路の反対側に目をやると、手を振る女性と、それに応えるあの男性がいる。腕時計を見る。17:45。


 礼奈の右目がまた青く光る。誰もが動きを止める。横断歩道の信号機の点滅も止まる。礼奈はその場からすぐ車道に出て、直接その男性のもとへ走り出す。走りながら背負っていたリュックからペンを取り出す。キャップをとると、ペン先は5cmほどの針になっている。その針から数滴、透明な何かが垂れる。男性の前に近づくと首元にゆっくりペン先の針を丁寧に刺していく。そして、すぐ抜き出してキャップをして、リュックにしまう。次に、道路の反対側のもとのいた場所へ戻る。


 時間が進む。誰もが動き出す。横断歩道の点滅が再開する。そのとき、あの男性は気を失ったかのように彼女の前で倒れかかる。彼女が倒れそうな男性をとっさに両手で抱くように支えようとしたが間に合わない。一緒に地面に倒れ込む。彼女が心配そうに男性を揺する。しかし、反応はない。周りの人間は好奇の目でその状況を見ながら通り過ぎるが、誰も手を貸そうとはしない。


 礼奈はそれを見ながら、また駅の方へ戻る。あの火事があった市田橋駅に戻って、火事が起きないか見届けなければならない。


 礼奈は腕時計を見る。20:20。

「うまくいった?」


「次の電車が参ります。黄色い線までお下がりください。」

 いつものアナウンスが聞こえてくる。次の瞬間、2両目は黒い煙が充満し、3,4,5両目は火の海となった8両編成の電車がホームに入ってくる。 


 「失敗した…!?間に合わなかったの?」

 ホームにいた乗客がパニックになり大騒ぎしている中、礼奈はその電車を見て呆然としている。


 すると後ろから、

「あの放火魔は神坂駅の周辺で、太った奴とぶつかっていた。

 それが「きっかけ」になっていたみたいだ。それしか今日の接点はなかったはずだ。

 その前に太った奴を殺さなくてはならなかった。お前は間に合わなかったらしい。」

 

 後ろを振り返ると、会ったこともないはずの若い男性が燃えている電車を見て私に語り掛けていた。






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