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Mirror to mirror  作者: おどろ木とどろ木
4/6

Episode 1.因果関係(4)地獄の中で

10月16日月曜日23:42(前日)



 東山創太ひがしやまそうたは、32歳会社員。2回目の転職先も失敗であったことに落胆している。

 私はどうやら社会人として何か欠けているようだ。


 親からは人に迷惑をかけず、人にやさしくと教えられて育った。そのため、親の忠告に真面目に従って子供のころから何一つ悪いことはしてこなかった。東北のかなり田舎の出身であるため、周りにはやんちゃな子が多かった。駄菓子屋や本屋で万引きをしている子も少なくなかった。

 

 子供のころは裕福でも貧乏でもなかったが、親からのお小遣いも月500円程度だった。そんな私は、駄菓子を友達みんなで買いに行っても自分は何も買わないときの方が多かった。子供心にとっては、「別に今日は欲しいものはないかな…」という分かりやすい嘘をつくのが苦痛だった。

 それでも万引きは一回もしなかった。そんな生真面目な性格のためか、あまり他人を疑うことはなく、他人に嫌がらせをされてもやり返したりはしなかった。やり返す勇気もなかったが…。


 親の言いつけどおり、学校の宿題は絶対欠かさずやり、毎日勉強もしていた。その甲斐あってか地元の良い高校に進み、大学受験も成功し、国立一工大学に進学できた。高校でも大学でも、良くも悪くも平凡に過ごした。目立つことは一切しなかった。

 

 そのせいなのか、就活ではあまりうまくはいかなかった。

 これまでの人生が平凡すぎて学歴以外、何の取柄とりえもない人間になってしまった。これまでに、何のトラブルも起こさないが、何のアクションも起こせなかった。人と深く関わってきたことがなかったせいで、どうやら薄っぺらい人柄を作り上げてしまったみたいだ。


 その点をどの企業に行っても最終的には見透かされ、私は面白みのない人間らしく、大学の同期の友人のレベルとはかけ離れた企業に就職することになった。それでも収入が極端に悪いということはなかった。普通よりもほんの少し上といったところか。


 どうやら、真面目だけではダメらしい。ここまではまだ良かった。

 就職した会社では真面目に働いていたが、上司や会社の同期からはなぜか煙たがられた。仕事さえできればそんなに苦痛でもなかったが、少しずつ嫌がらせを受けるようになった。そして、してもないミスをたくさん押し付けられるようになった。そしてすぐパワハラで有名な課長が異動してきた。すると私に毎日きつくあたりはじめた。どうやら、私を追い出しにかかってるらしい。さすがに精神的に応えた。


そんなこともあり、自ら退職して転職をしたが、なぜか転職先でも煙たがられた。前の会社のことで精神的に追い詰められていたために、ちょっとしたことでイライラし、落ち込むことが多くなった。パワハラはされていないが、なんだか会社にいることが苦しくなって早々辞めてしまった。


 会社を辞めて半年ほど心の休息をとり、心療内科にも通った。ほどよく回復したところで、2回目の転職先を見つけて、勤務を開始したが、ここでもパワハラまがいの女性の上司に目の敵にされている。なぜかそういう人にある意味、好かれるタイプらしい。

 

 そんな毎日に我慢している中だった。残業終わりで終電間際に帰宅する際中、夕食を買いに行ったコンビニで3人の不良に絡まれた。二十歳はたちはこえていた連中だと思う。


「ひょろがり、どけよ!」

と、わざと私の肩に3人連続でぶつかってきた。大人になってもこんなことしているのかと蔑む(さげすむ)と同時に、こんなことをされる私、こんなことがよく起こる私の人生の方が軽蔑の対象だと気づいた。


 だからといって、何かをやり返すわけでもなく「すみません」と謝って、早歩きで自宅へと向かった。大きな笑い声は聞こえてきたが、もはや自分自身の哀れさに彼らの笑い声はかき消された気がした。

 







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