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89/109

89 暗視


 キッシュにシードルたちの捜索を命じられたエスは、何日もかけて夜の王都を探し回っていた。

 高い建物から建物へ移動し、冒険者が寄り付きそうなところを探し、時には聞き込みも行った。


 そうして、一つ目途をつけていた宿屋の前を張っていたところ、なんとシードルとシェリーの姿を見つけたのだった。


 遠くから確認している限りは、二人はいつも通りの様子に見えたが、スティルから聞いた話によれば、敵のシスターの攻撃を受けると、いたって普通にみえるものの、特定の感情が増幅され、操られているようにみえないまま命令に従ってしまうらしい。

 エスはシードルたちが操られているかどうかを判断するために、高い位置をキープしながら、その後を付けた。


 シードルたちは、王都の水路に掛かった橋の上で、誰かを待っているようだった。

 そしてしばらくすると、黒い衣服を身に着けた、商人らしき女性が二人の元に現れた。


 シードルたちは、女性と数分話し言い合うと、来た方向へ戻っていった。


 エスは、その女性の方を追跡することにした。

 女性が教団関係者なら、黒だろうし、シードルたちが操られている可能性も高いからだ。


 女性が歩く道の人通りはまばらだったが、エスは建物の上を伝って、慎重に追跡した。


 そして、ある地点まで来たところで、女性は……消えた。


 文字通り、人ごみに紛れるでもなく、ただその場で一人きりだったというのに、消えた。


 馬鹿な。


 エスは人を追跡していて、こんな見失い方をしたことがなかった。


 エスはすぐに身軽に建物の屋根からバルコニーを伝いながら飛び降り、つい先ほどまで女性がいたところにたどり着いた。


 エスは気を張り巡らせて、意識を集中した。


「なるほど……」


 エスは一人、呟く。


「透明人間でしたか」


 女性は、まだその場にいた。

 一瞬にしてその場を去ったわけではなく、目に見えなくなっただけだ。

 エスはこの場に来た瞬間、そのことがわかった。


 エスは過去の仕事の経験上、夜闇に紛れて対象を暗殺することもあれば、暗闇に紛れて追跡を撒くことも日常茶飯事だった。

 そんな時、頼りにするのは目ではなく、耳。あるいは鼻、触覚。

 空気を通して伝わってくる全てのこと。

 空気はどこにでも存在しており、錯覚を免れない瞳よりも、嘘をつかない。


 エスは地面に靴が触れている、あるいは衣が擦れる、あるいは呼吸をする、そんな微かな音をもとに。

 女性が着ている衣服に着いた、部屋、人混み、汗の匂いをもとに。


 はっきりと、女性が、いま、どこにいるのかまで、認識していた。


 その女性……結社に所属する、ベリィは、透明になっているというのに、ばっちりと自分に視線を合わせてくるエスに、冷や汗が止まらなかった。

 普段、透明人間になるというのは、神にでもなったかのような心地だ。

 誰にも認識されないまま、相手に一方的に干渉できるのだから。

 それを、その壁を、今、初めて、目の前の男に、破られ、見透かされていた。


「見えて……いるのか……対抗術式か?」


 震える声が、何も無い空中から、発せられた。


「ええ。はっきりと。丸見えです」


 エスははったりでそう言った。

 エスには姿そのものが見えているわけではないのだ。

 しかし、その方が恐怖を生むのなら、そう思わせておいたほうが、都合がいい。


「それで……どうします?貴方がもし、その能力だけでここまで生き抜いてきたのなら、私と戦うことはおすすめしません。相手にもならないでしょう。しかし、もし何か別の魔法などで戦えるのなら、仕掛けていただいて構いません……どうです?」


 エスのその言葉を聞いて、ベリィは観念したかのように、透明化を解除した。

 答えは、前者、ということだろう。


「素晴らしい。力量差が分かるということは、長生きするために最も必要なことの一つです」


「目的は何……?」


 ベリィの怯え切った姿は、かつての自信満々、無敵状態だった彼女の姿からは誰にも想像がつかないほどだった。


「先ほど会っていたお二人ですが……どういうお関係です?」


「あいつらは……ある宗教組織に追われている。あいつらの仲間の一人も誘拐されていたけど、つい最近、助られた」


「それで?」


 スティルのことを指しているのだろう。そのことまで把握しているようだ。


「そのことを二人に伝えて、教会に近づかないよう伝えた」


「なるほど……。それで、あなたには何のメリットが?あなたは何者なんですか?」


「ウチはベリーベリー……あいつらに何の興味もないけど……ただウチの恋人があいつらの仲間だから。悲しむと思って」



「はぁ?」



 今まで冷静に、あるいは冷酷に、ベリーベリー、つまりベリィを囲い込むように追い詰めてきたエスだったが、突然バランスを突き崩す一言を、ベリィは発した。


「恋人?誰の?」


「アイの」


「お前が?アイ様の?恋人?」


「やはりアイを知っているのか?」


 待て待て待て。

 落ち着け。

 エスは胸に手を当てる。

 深呼吸だ。


 あくまで、自分は、アイお嬢様に、シードル達の無事を確かめるよう依頼された立場。

 であれば、お嬢様のために、この女が敵か味方か見定めなければならない。


 その為の質問をするんだ。

 その為に聞くべきことは……



「いつ恋人になった?」



「シミーサで、誓いのキスを……」



 こ、殺す……!


 こいつを殺そう!


 アイ様の仲間のことなど知ったことか。

 こいつはこの世に存在してはならぬ存在だ!


 気が付けば瞳孔の開ききったエスは、目にもとまらぬ速さで、ベリィの胸倉を掴んでいた。


「うっ……や、やめ……」


 その状態で数秒間、エスは、必死で呼吸を整え、何とか踏みとどまった。


「まあいい……このまま連れていけば全てわかることだ」


 エスは、懐から、毒を塗ってある珍しい形のナイフを取り出すと、軽くベリィの手に傷をつけた。

 ベリィはしばらく苦しむと、意識を失った。


 エスはベリィを連れて、キッシュの宮殿に戻ったのだった。


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