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8 婚約者との戦い(物理)

「参ったな。確かな使い手とは聞いていたが、ここまでとは」


「ですから、ネロさんが手加減をしてくださったから……」


 カラムに対して、アイは勝ってしまった言い訳を必死にしていた。


 しかし、熟練者のカラムの目は全く誤魔化せないようだった。


「いいや、彼は決して敵を侮るような油断者ではないよ。ネロは本気だった。ただ、炎魔法は控えていたみたいだが、それも含めて彼の弱さだ」


 真剣に、カラムは分析する。


「アイ。どうか、もう一度戦ってくれないか?次は……この私と」


「は?」


 カラムと?騎士団長と?さすがにそれはまずいのでは、とアイは目を回す。


「ネロもそれなりの実力者だ。それが令嬢に負けたままとあれば、紅蓮騎士団の名が廃る。どうか勝ち逃げしないでくれ」


「いやっ、でもっ……お母……じゃなくて……」


 根源的な恐怖「母」をつい思い出したことを、アイは訂正した。


 別に怒られるのが怖いわけではない……いや怖い。


 それでもどこかで、カラムとも戦ってみたいと思っている自分を、アイは否定しきれないでいた。


「わかりました……でも条件があります」


「何だい?」


「手加減……無しで」


 アイは目を逸らしながら、小声で、そう呟いた。


 しかしそれすら聞き取ったようで、おぉーっと、周りのギャラリーから歓声が上がった。



「ふふ……」


 照れ隠しか、怒っているのか、カラムは首を下へ向け、表情を隠しながら、後ろを向き、位置に着いた。



「いいだろう。全力でお相手するよ。”氷姫”」



「こお゛ッ……?!」


 歓声が上がる。


 突然恥ずかしい二つ名をつけられたことに動揺しながらも、アイも位置に着いた。


 姫だのなんだのと。俺は男だ、だからこんなに好戦的なんだろ、と心の中で呟く。


 やってやる。騎士団長だろうが、倒す気でやってやる。


 後のことなんて考えないぞ。


 深く息を吐きだし、アイは覚悟した。


 ネロが近づき、二人の間に立つ。



「始め!!!」



 ネロの合図で、カラムとアイの一戦は幕を開けた。


 開始の合図と同時に、アイは先ほどと同じように後ろに下がった。


 ネロはと言うと、剣は構えているものの、開始の位置から一歩も動いていない。


 またか。手加減なしでと言ったのに。


 アイの自己分析では、当然距離を詰められる方が苦手なのだ。


 電光石火の近距離攻撃……カラムならば一瞬で決められるはずだ。



 舐めやがって。



 アイの闘争心に火が着いた。


 今度は手加減などせず、宙に浮かせた無数の氷を、一気に全て、それも同時に放った。


 正直なところ、アイはこれをしないという点で、はっきりとネロに手加減していた。


「どう?避けられる?」


 そう言いながらカラムの方を見ると……



 赤い炎が見えた。



 カラムもアイと同じように、宙に展開した小さな火の玉を、いくつも放出した。



「なっ?!」



 そして、アイがぶつけようとした氷の石のすべてに、正確に、一つも漏らすこともなく、炎を当てて相殺した。



「は、はは……」


 アイはまたしても笑っていたが、先ほどの勝負の高揚とは真逆の、渇いた笑いだった。


 強い……!


 アイは心の底から、そう理解した。


「そう……そういうことね……」


 そうだ。アイ自身、分かっていた。氷は炎の不利属性。


 あの火の玉だって、相殺したところで止めずに、アイの身体めがけて飛ばすこともできたはずだ。


 氷は当たれば打撲や切り傷、骨折……かたや炎は大やけどだ。


 所詮は氷など、お遊びとでもいいたいのだろうか。


「ふぅ……」


 息を吐き、アイは冷静さを取り戻す。


 熱くなりすぎてはダメだ。


 アイは氷弾を射出し続けるが、ご丁寧にカラムは全てを相殺していく。


 人間の所業じゃない。アイはそう思った。


 氷を効果範囲内で自由に操れる、アイだからこそわかる、小さな火の玉で全てを相殺していく困難さ。


 普通に考えて、相手の放った攻撃を全て正確な位置として知覚していることがまず恐ろしいし、それを全て寸分たがわず潰すコントロールも化け物じみている。


 研鑽を積んだ者のみが至れる、技の境地だ。


 素直に尊敬してしまう。


「それなら……!」


 アイは自分の周りで宙を漂わせている、いわば弾倉扱いの氷の中に、氷剣に近いような、鋭く長い形のものを幾つも作り出す。


 そして、氷剣弾ともいえるそれを、真正面からカラムの方へと撃ち放つ。


「やるね」


 いくつかの火の玉が当たっても、鋭く大きめの氷剣は溶け切らず、カラムの元に届く。


 そしてカラムは手にしている剣で、それを叩き落として処理せざるを得なくなった。


 しかしその動きは最小限で、無駄がない。


 アイは氷弾を撃ち、氷剣を撃ち続けながら、次の手を考える。



「そろそろ温まってきたよ」



 カラムが、余裕のある笑顔で、そう言った。


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