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7 戦う令嬢


 アイとネロは、模擬戦をすることになり、一定の距離を空けて対峙していた。



「始め!」



 カラムの合図で、二人は距離を取った。


 アイが距離を取るのは当然だ。ネロの剣のような、得物を持っていないのだから。


 しかし、ネロはすぐに間合いを詰めて攻めるべきところを、様子見のため遠ざかった。


 甘やかされてるな、とアイは思った。


 アイは距離を取りながら、自分の背後から真横にかけて、その空中に無数の小石大の氷を展開する。


「ネロ様。本気を出していいんですよ」


「は、はぁ……」


 どうしたらいいか迷っているネロに、アイは浮遊している氷のつぶてを少しずつ射出する。


 ヒュン、ヒュンと堅い物体が物凄いスピードで一つ、二つ、と飛んでいく。


 普通の人間なら避けることもできず、打撲やら骨折やらして終わりだろう。


 しかしネロは迷った心でも、身体はしっかりと動き、剣で氷を弾き、防ぐ。


 あくまでこれは様子見だ。アイは少しずつ、射出のスピードを速める。


 風を切る氷の音の間隔と、地面や剣にぶつかって割れる音の間隔が狭くなる。


「くっ……」


 少し余裕が無くなってきたのか、ネロの氷を避け、防御する動きが最小限になってきた。


 本気を出し始めたということだろう。


 しかし、アイがネロを追い詰めるには射出の感覚をより短くすればいい。


「ペース、上げますよ」


 不敵に笑いながら、アイはより速いスピードで氷を打ち出す。


「くっ……このっ……!」


 捌ききれなくなった氷が、ネロの足や手に当たり始める。


 とはいえ、正確なコントロールを以って、アイはネロの急所へ攻撃してしまうことを避けてもいた。


 当たるのは実際のところ手や足だろうし、ネロも軽い鎧を着用しているのでバランスを崩すくらいだ。


「ふふふ……」


 通用する!そう思うと、アイの口元からは自然と笑みがこぼれた。


 それは傍から見ていたら、騎士団員をいたぶる悪役令嬢の、サディスティックな笑みに見えたことだろう。


 しかし実際には、アイの内心は、騎士団の精鋭に対しても、自分の氷魔法が多少なりとも通用することが嬉しかった。


 それでもアイは決して相手を侮ってはいなかった。


 ネロは防戦一方だと不利だと理解したのか、避けきれない氷には当たりながらも、距離を詰めようと、アイの方へと近づいてくる。


 ネロは狙いを外させるように横に動きながら、少しずつ距離を詰める。


 アイは後ろへ下がりながら、攻撃を続ける。


 そうだ、動く標的相手でなくては練習にならない。


 そう思いながらもアイは、しっかりと対策をする。ネロが動く方向へと、散弾のように、同時にいくつもの氷を飛ばす。


 さすがに同時に複数の散弾を捌けず、いくつかの氷に当たり、ネロはバランスを崩して吹き飛ばされる。


 倒れこんでもアイは手を緩めず、元のペースで氷を撃ち続ける。



「ふふ……あははは!」



 思い通りに氷を動かし、相手を動かすことが楽しくなってきたアイは、自分でもわからないままに笑いながら相手を追い詰めていた。


「ふっ……」


「ん……?」


 それに釣られてか、遠くではあったが、アイにはネロも微かに笑ったように見えた。


 ネロはかなり追い込まれているはずなのに、笑った?


 そしてその瞬間、一瞬にしてぐっと脚に力を入れた一歩で、グン!とネロは距離を詰めてきた。


「ひっ!」


 人間というよりは、肉食獣かのようなその跳躍に、必死でアイは距離を取った。


 すぐ脇をきらめく剣が横切ったのを見て、心底震えたアイだったが、冷静さを保って、次の手を打つ。



「えいっ!」


 ネロが着地するその先に、氷の床を瞬時に張る。



 するとネロは足を取られ、その上を滑っていってしまう。


「うわぁぁ?!」


 人間なら仕方のないことだが、コミカルに滑っていく様を見て、ついまたアイは笑ってしまった。


「あはは!」


 笑いながら距離を詰め、空間に氷剣を生み出し、ぐっと手で掴む。


 そして横たわったネロの首元に突きつけた。


「参った?」


「……参りました」


「勝者、アイ・スクリーム!」


 高らかにカラムが宣言するが、アイは、頼むからフルネームで呼ばないでくれ、と思いながら一人顔を赤らめていた。


 周りから盛大な拍手が聞こえた。


 そこで、いつの間にか騎士団員や客人が集まってギャラリーになっていたことに、ようやくアイは気づいた。



 げっ……やべぇ。大勢の前で楽しそうに戦ってしまった。母様にボコボコにされる。



 アイは冷汗が止まらなくなった。何とかしなくては。


「あ、あー!手加減されてしまって、勝たせてもらっちゃったわ~~!!!」


 あんなに高笑いしながら戦っておきながら、無理なフォローかもしれないが、アイはわざとらしく言いながら、手を差し出してネロを助け起こした。


「なっ……アイ様。私は確かに本気で……」


 空気の読めないやつだな。自分が困ってるから君に勝者になってほしいの、とアイは思うが、そんなことネロが知る由もない。


 周りには聞こえないように、アイはネロの耳元で囁く。


「そういうことにしておきましょう?十分、ご立派でしたわ」


 そういうことにしておけ、と若干の圧を含んで囁いたアイだったが、一方のネロはというと耳元で囁かれたことでくすぐったさを感じたのか、顔を赤らめて、思考が追い出されたぼけっとした表情を浮かべていた。


 今がチャンスとばかりに、ネロの手を上げて、アイは必死でごまかす。


「私を立てて手加減してくださったネロ様にもどうか!拍手を!」


 そう言うと、ギャラリーはネロにも拍手を送った。


 しかし、客人たちの、そうだったのか、という力の入った拍手とは裏腹に、騎士団員たちは全てわかっているというような顔をして、控え目な拍手を送っていた。


 アイがカラムの方を見ると、カラムも驚いたような顔で、アイの方へ拍手を送っていた。



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