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52 都市の異常

 アイたちが今後のことを話し合っていると、路地の奥で、悲鳴が聞こえた。


「離してよ、離して!」


 シードルはすぐに悲鳴の方へと走り、三人も後を追った。


「あなたのお母さんもね、ちゃんと”施設”にいるわよ。お母さんに会いたいんでしょう?」


「離して!お母さんを連れてきて!私はどこにも行かないんだから!」


 見ると、信者の女性が、小さな女の子の手を無理やり引いて、どこかへ連れ去ろうとしていた。

 少女は体重をかけて抵抗するが、無理やり引きずられていく。


「何をしている!」


 シードルが声をかけると、信者の女性は驚いて手を離した。


「まぁ!あなた達、未登録者が出歩いてはだめじゃない!人を呼びます!ここを動かないで!」


 そう怒り、女性は走ってすぐに逃げていった。


「大丈夫か?」


 シードルが声をかけると、少女は不安そうに頷いた。


「こら、シードル。あんたはいかつくて怖いんだから、私とアイに任せてよね」


 シードルを下がらせると、シェリーはアイを連れて、少女に近づいた。


「ねぇ、私はシェリー、こっちはアイっていうんだ。あなたの名前は?」


「わたし、ロイズ」


「ロイズちゃん、お母さんとはぐれちゃったの?お話聞かせてくれない?」


「うん……」


「ロイズちゃん、ここは危ないから、ちょっとだけ移動しよっか」




 ここにいては、先ほどの信者が人を連れて戻ってくる可能性があったので、アイはそう提案した。

 四人とロイズは、人気のない道を選びながら、なんとか街の外へと出た。

 街の外の平原、その木陰で、アイたちはロイズに話を聞いた。


「お母さんは、どこへ行っちゃったか、わかる?」


 アイが聞くと、瞳をうるうるとさせ、泣き出すのを我慢しながらも、ロイズは答えた。


「お友達のお母さんに、連れていかれちゃった。みんな、ちか、にいるんだよ」


「地下?地面の下?」


「そう。ちか。お母さんも地下にいるの」


 アイたちは顔を見合わせた。

 まさか、埋められているわけではないと思うが。


「えっと、お父さんはどうしちゃったの?」


「お父さんは一番最初に、いなくなっちゃった。お母さんがずっと泣いてた……」


「そっか……」


 一気に、その場の空気が重くなった。

 アイは、男性だけがいない、という状況で想像する、一番最悪なケースにを、つい想像してしまう。


「なるほどねぇ……」


 おしゃべりなスティルも、そう言ったきり、押し黙り、考え込んだ。


「お母さん、帰ってくるよね?いい子にしたら、戻ってくるよね?」


 泣くのを我慢していたロイズは、話しているうちにもう堪え切れなくなったようで、ぽろぽろと涙を流して泣き始めた。


「大丈夫、大丈夫だよ」


 アイはそう言いながら、ロイズの頭を撫でる。

 アイが困った顔でシードルの方を見ると、シードルは覚悟を決めた顔をしていた。


 アイにはこうなることが始めからわかっていたが、シードルは何とかして、自分たちで事態を解決したいのだろう。




「許せん……こんなことを引き起こした奴は誰だ……」


 シェリーがロイズに膝枕をして、寝かしつけているうちに、アイたち三人は今後のことを話し合った。

 シードルは怒り、今にも街へ戻って、犯人をおびき出すために破壊活動を始めそうな勢いだった。


「何とかしなきゃいけないのはその通りだが、状況を整理するか……」


 スティルは冷静に話をまとめる。


「元々街にいた女性は、みんな信者になった。男性は姿を消した。街の外から来た奴らは、登録を済ませなければ街のあらゆる店や施設が使えない。登録を済ませたやつらが、その後どうなったのかは不明だ……」


 相槌を打ち、アイも口を開く。


「ロイズは、お母さんたちは地下にいると言ってた。地下っていうのは何のことだろう?」


「さぁな……」


「疑問点だらけだが、情報を得るには再び街に入らないといけないな」


 シードルがそう言う。

 しかし、アイはそれに反対した。


「シードル、よく考えてみて。最悪のケースを想定すれば……ロイズのお父さんは……もう」


「ああ、わかっている……だとすればとんでもない規模の……」


 シードルは言葉にするのを躊躇ったが、スティルは躊躇わなかった。


「虐殺だ」


 三人はしばし、言葉を失った。

 これは、自分たちが片付けるような規模の問題だろうか?

 幸い、街の外に無事に出てくることができたのだ。


「前の街へ戻って、応援を呼ぶ?」


「それも一つの手だが……その場合、素直に並んでいる冒険者や旅人が、今も殺されていると思うとな……一刻も早く……」


 シードルは悔しそうにそう言った。


「それもあるが、こんな状況、口で説明して信じてくれると思うか?面倒なことに、奴らは手紙やら、普通のやり取りは、ボロが出ないようにうまくやっているようだ」


 スティルが釘を刺す。


「うん……説明するのも時間はかかりそうだけど、一番安全ではあると思う」


 アイは、それがいいと思い始めていた。

 しかし、シードルは納得がいかない。


「戻るのに時間をかけて、そこでまた証明するのに時間を食われていると……何人が犠牲になるかわからない。それなら、二手に分かれよう。俺はこの街で、なんとか状況を止める。その間に、アイとシェリーは、前の街で応援を呼んできてくれないか」



「逆……だと思う」



 アイは少し迷ってから、そう言った。

 シードルはさっぱり分からないという顔をしていたが、スティルは真剣な目でアイを見ている。


「私たちは、女性だから、殺されない」


 まぁ、女性ではないのだが。

 なおさら、中身は男というアイ向きの仕事ともいえる。


「でも、二人は登録に行くだけで、殺される可能性がある。私たちは、変な服を着せて解放されるだけでしょう?」


「いや、それは少し舐めすぎだ。街の女性たちはみんな様子がおかしい。何かされていると見るべきだ」


「それは……もちろん油断しないけど。私は魔法があるし、最悪なんとかなるよ。不意打ちして殺される可能性があるのは、シードルとスティルの方」


 アイとしては、慎重に街に助けを呼びに行きたいところだが、シードルの意思も尊重したい。

 自分たちで何人かの命が救えるなら、そうすべきだろう。


「いや、しかし……」


「シードルの気持ちもわかるよ。でも自分が危険なのはいいけど、仲間が危険なのはダメっていうのは、ずるでしょ」


 アイがたしなめる様にそう言うと、シードルは言葉を詰まらせた。


「俺は止めないぜ。誰も言わなければ、選択肢の一つとしては提案するつもりだった」


 スティルの言葉には、偽りはないようだった。


「私が行って、登録してみる。正義の味方の、シードルのためにね。だけど、条件が一つだけ。シェリーにはまだ言わないで」


「なっ……それは……!俺に先ほど言ったことと、矛盾するじゃないか」


「どうかしら?私が一人で、ヒーローになりたいだけかも。いっつもシードルの役割だから。たまには譲ってくださらない?」


 アイはそう言って、笑った。

 決める必要があるときは、鋭く決める必要がある。

 そんなとき、悪役令嬢の仮面は便利だ。


「はは、言われちまったなぁシードル。アイがお嬢様モードになったら、お前じゃ叶わねえぞ」


「あぁ……全く、仕方ない。時間を決めよう。ある程度たって、戻らなかったら、俺たちは無理やり役所に殴りこんでお前を探す。いいな」


「ふふ、それで大丈夫」


 アイはシードルを説得して、妙に気分がよかった。


「それじゃあさっそく行ってくるね、もたもたしていると、シェリーにバレちゃうから」


「街の外や内から、見張っておく。連絡がなければ、助けに向かう!」


 すでに小走りで街の方へ向かったアイに、シードルが叫ぶと、アイは手を振って応えた。



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